メディアグランプリ

お父さんのへたな料理と列車旅


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:吉田 倭子(ライティング・ゼミ日曜コース)
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先日、東京へ行く機会があった。羽田空港へ到着し京浜急行の乗り場へ行くと、駅員さんがホームでアナウンスを繰り返している。どうやら大雨の影響で遅延や運休があるようだ。構内の放送をよく聞くと、全線運休ではなく、次に来る予定だった列車が運休らしかった。良かった。20分ほど待てば乗れる列車は来るわけだ。
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それにしては、構内放送、ホームで駅員さんは繰り返しお詫びのアナウンスをして、随分と大袈裟、失礼、丁寧だと思った。大体、東京という都会では、5分もすれば次の列車がやってくる。その何本かに1本や2本運休したところで、次の列車は10分、15分それくらいでやってくる。そんなにお詫びを繰り返さなくてもいいんじゃない?都会の人はその10分、15分が差し障るということだろうか。
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私の地元は鳥取県だ。田舎だ。田舎の公共交通機関の事情は凄まじい。例えばバス。駅から家の実家方向へ向かうバスは2時間に1本だ。場所によっては一日2、3便しかないとかもある。その1本が運休したらどうしようかと思うかもしれない。
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以前に都会育ちの友人が、鳥取県へ来てJRにのったときに随分と驚いたらしい。まず、一両編成の列車。朝晩の高校生の通学時間以外は乗車率が非常に低い。のどかな田園風景に名探偵コナンや、ゲゲゲの鬼太郎のキャラクターのラッピング列車が行き交う姿は定番だ。通勤時間と特急列車は別だけれど、1両でなく2両になるほうが珍しいのだ。
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次に、ワンマンカー。「ワンマンバス」 なら聞いたことがあるだろうか。言葉のとおり乗務員が1人ということだ。普通列車はもちろん、急行列車でもワンマンの時がある。乗務員が一人だからといって運行には全く支障はない。通常運転だ。要注意なのは。降りるとき! 一両目の車両しか扉は開かない。駅に着いたのに扉が開かない! と焦らないように。 車内の放送で「当列車はワンマンカーです。お降りの際は前寄りの車両の扉しか開きませんのでご注意ください」 とアナウンスがある。ご注意を。
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そして、一番驚いたと言っていたのは。列車が途中止まることだ。鳥取県内の列車は全て単線だ。山手線のように内回り外回りと2本線がないのだ。だから、途中、上り線と下り線とがすれ違うために途中停車するし、信号で止まったりもする。例えば、貴方が列車に乗っていたら、急に駅でもないところで止まるのだ。そして「反対列車とすれ違いのため10分間停車します」と休憩時間になる。このすれ違い待ちの時間、私はなんだか列車と一緒に自分も休憩しているような気持ちになる。そして、列車が「は~やれやれ」と一息いれて走り出す感じなのだ。そうやって田舎の列車はゆずりあいの精神で運行をしているわけだ。
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田舎という場所は、お父さんが珍しく作ったご飯みたいなものだ。 :

洗練していないし、時々失敗もあるし、時間がかかる。へたくそだ。そういう感じ。
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都会の列車は、利用者数が多いから便数も多い、タイムスケジュールをきっちりと合わせないと巡り巡って大きな遅れとなる。だからこそ、1分1秒の遅れが問題となるのだろう。
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一方で田舎の列車は、遅れるものだ。
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帰宅のために毎日列車に乗っているけど、反対列車が遅れたからと10分、20分発車が遅れることは、ままあることだ。無事発車してもすれ違い列車が遅れれば、すれ違いのための停車時間は長くなる。最終列車など、特急列車の到着が遅れたからと待ち合わせのために発車が遅らされる。
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遅れるときは、構内や車内でアナウンスがされる。けれど、駅員さんがホームに立って申し訳なさげにお詫びのアナウンスをすることはない。いや! 誤解のないように言っておきますが、アナウンスで「本日は列車遅れまして大変ご迷惑をおかけします」 っていってくれますよ! けれども、遅延のアナウンスもお詫びのアナウンスもさらっと流れる。JRさんも私達が困らないようにちゃんとアナウンスはしてくれるし、遅れてごめんねと言ってくれる。「ちょっと! 遅れるってどういうことよ! この後の予定に差し障るじゃない」なんていうこともなく、私達、乗る側も遅れるのか~。と受け止める。なんというか、お互いにそういうもんだよね。仕方ないよね。という空気があるのだ。
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お父さんのご飯には時間がかかるもんだよね。まずいものが出来あがることもあるよね。と思っているみたいに。失敗するのも、時間がかかるのも了承済みで、一生懸命家族のためにご飯をつくろうとしてくれる。その気持ちを受け止めて、温かく見守る。
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すれ違いや待ち合わせは必要だよね。いのししがぶつかって遅れたのか。仕方ないね。とみんなおおらかに受け止める。田舎の人間はのんびりしていると言われたらそれまでだけれど、お互いがお互いを思いやり温かく受け止め合えているのだと思うのだ。
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そこには、やさしく、温かい時間が流れている。
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この夏、列車の旅はいかがだろうか。鳥取県の1両編成の列車で、ワンマンカーで、反対列車待ちなどいかがだろうか。ゆらり、ゆらりと列車の揺れに身体をまかせながら過ごせば、きっと、心をゆっくり休めて安らぐことができると思う。
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2019-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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