メディアグランプリ

ラブレターを書く仕事


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:村尾悦郎(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ラブレターを書いている。
 
毎日毎日、愛する「町」へのラブレターを書き続けている。これが僕の今の仕事だ。
 
2年ほど前から、僕は生まれ故郷である山口県長門市に東京からUターンし、地域おこし協力隊として働いている。
 
「3年の期間内で、移住してきた都市部の人間が、地域への協力活動を行ないながら定住を目指す」
 
これが(大雑把な)地域おこし協力隊の仕事内容だ。詳細は募集する自治体それぞれで設定するので、全国に8,000人とも言われる隊員各々でやっていることが全く違う。長門市は基本的に隊員それぞれに観光、空き家活用などの大まかなミッションが設定され、それに沿った隊員自身による「自主企画」が重視されている。
 
僕がこれまで経験したのはアニメーターという絵を描く仕事と、Webメディア運営における取材、記事制作、写真撮影、映像撮影・編集など。どちらも、日々やることがある程度決まっているものだ。
 
対して、地域おこし協力隊の仕事は、乱暴な言い方をすれば「中身は自分で埋めなさい」というもの。僕は「観光振興」というミッションのもとで働きはじめたのだが、当初はそのギャップにものすごく戸惑った。
 
「自分は町に何ができるだろう?」
 
と、悶々と悩む日々が続く。長門市は自然豊かで、景色は海に山にたくさんの見どころがあり、食べ物がとてもおいしく、住みよいところだ。しかし、それは言ってしまえばたくさんの「田舎」が持つ没個性的なアイコンで、「ここにしかないもの」ではない。それに、そんな情報はすでにテレビで、雑誌で、ネットで語りつくされている。今さらそれを僕がなぞってもしょうがない。
 
観光サイトを手伝ったり、観光マップを作ったり……それなりにやることはやっていたが、今一つ手応えを感じることができなかった。
 
原因はなんとなく分かっていた。その時はまだ、僕は長門に「生まれ故郷」という以外に特別な愛着を持っていなかった。だから自分と町に距離が生まれ、散漫な仕事しかできなかったのだ。
 
「この町が大好きなんだ!」
 
そんな燃え上がる恋のような情熱を持ち、自分の持っている技術の全てをかけて打ち込みたい。そう思うのだが、
 
「では、この町の何が好きなのか?」
 
という自問に答えきれず、フラストレーションが溜まっていった。
 
そんなある日、なんでもない飲み会の、なんでもない四次会で、運命的な出会いが僕に訪れる。
 
「おっ! 来た~!! やっぱここ来たらこれ食べんにゃあの!」
 
同席していた地元のおじさんたちの目の前に、ドンっと巨大な器が置かれる。どうもちゃんぽんのようなのだが、麺の上にはトンカツがズドンと置かれている。
 
「えっ! それ何ですか?」
思わず正面のおじさんに聞いてしまう。
 
「は? お前『みそカツちゃんぽん』知らんのか?」
 
「え? 何ですか? みそ? カツ?」
 
「うわ~分かってないの~! 長門のシメって言ったら『みそカツちゃんぽん』なんぞ!」
 
「知らなかったです! うわ~それ頼めば良かった。教えてくださいよ!」
 
「ハハハ! ここの名物でのう、もう何十年ってあるんぞ。これがあるから長門の夜は最高なんよ!」
 
ゲラゲラと笑いながら、深夜に「みそカツちゃんぽん」なんて罪深いものをズルズルとすするおじさんたち。その光景がめちゃくちゃ面白かった。歳を取っても友達と一緒に、いっぱい食べて、子供のように大騒ぎする。おじさんたちはそんな長門の暮らしを心から愛しているのだと分かった。
 
僕の恋がはじまったのはその瞬間だ。
 
「長門にはこんなに楽しそうに暮らす人たちがいる。いいな、仲間に入りたい!」
 
愛情をもって暮らすおじさんたち自身はもちろん、そんな人たちが住むこの町のことがたまらなく愛おしくなった。
 
同時に、こんなことも思い立った。
 
「こんな日常を文字におこして、記事にしたら絶対に面白い!」
 
地元の人だけが知る老舗のおもしろメニューや地域の家庭料理、方言丸出しの会話のおもしろさ、地域活動に励む人たちの思い……それらは、ほとんど表に出たりしない。しないのだが、日常の延長線上にある暮らしの楽しみ、それこそが長門の素晴らしさだと僕は確信した。
 
「これをWebサイトで発信しよう!」
 
長門の楽しさを日々発信する「ローカルメディア」、僕はこれを「ながとと」と名付け、企画書を市役所に提出した。何度か企画を揉んだ後でサイトの制作に取り掛かり、オープンにこぎつけたのが今年の2月。それから、地域に住む人たちのたくさんの生の声を聴き、文字におこし、届けてきた。
 
30年に渡り、地元高校のラグビー部に愛されるソウルフードの物語。
 
常連の人たちとのコミュニケーションをなにより大切にする老舗居酒屋の物語。
 
40年以上、地域活動にその身を捧げ、閉校した小学校跡地に「青海島共和国」という名の団体を立てた伝説的な「国王」の物語。
 
静岡から「自分のやりたいことをやりたい」とながとへと移住し、一からコーヒースタンドを作り上げた方の物語。
 
そのどれもが、「長門で生きる」ことを選んだ人たちの、さまざまな愛情が綴られている。4月からは「Webが見れない人にも届けよう!」と、フリーペーパーも作り始めた。現在では、市内はもちろん、市外からも「ながととの新刊はできた?」と訪ねてきてくれる方が増えてきている。
 
「ながとと」はラブレターだ。
 
町の人から町へ、町の人から町の人への。
 
そして、僕から町へ、僕から町の外へのラブレターだ。
 
「長門の暮らしはこんなに楽しいよ、こんなに素晴らしい人たちがいるよ。一度来てみてよ」
 
そんな思いを文字に乗せて、日々新たなラブレターを書いている。
 
どうか、あなたにも届いて欲しい。
 
 
 
 
***
 
 
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2019-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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