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メディアグランプリ

素手で食べると美味しいね


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ジョーツナユウコ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「3、2、1、カニカニーーー!」
 
掛け声と共にシーフードがどさっとテーブルの上に広げられる。
 
ここはカニやエビ、貝などのシーフードを手づかみで食べるお店。
ミラーボールがキラキラ、音楽が大音量で流れ、カニのカチューシャをつけたミニスカートの店員さんはフレンドリーで、若い女性たちで店内はいっぱいだ。
 
テーブルに着くと店員さんと同じカニのカチューシャが貸し出され、客である私たちにもつけるように促される。広い店内では突然ダンスタイムが始まり、あちこちから女の子たちの楽しそうなはしゃいだ声が聞こえ、いい年をした私は何だか場違いなところに来てしまった感いっぱいで落ち着かなかった。
 
物珍しさできょろきょろしていると、まずはシーザーサラダが運ばれて来た。この店ではサラダも手づかみで食べる。
お皿の代わりにテーブルの上に敷かれた大きな紙の上にどんどん食べ物がそのまま置いていかれる。
最初は少し躊躇したけれど、すぐに慣れて次々に手でレタスをつかんでは食べていた。
カットされていない長いままのロメインレタスは手で持って、そのままかぶりつく方が食べやすかった。
メインのシーフードが運ばれてくる頃には店内の賑やかさもなぜか気にならなくなり、無心でカニの殻をハサミで割り、エビの皮をむき、貝の殻を開いて、ただひたすら黙々と手で食べることに集中した。
手で食べるのに戸惑うのは最初だけ、一度食べ始めると美味しさでそんなことをすっかり忘れてしまう。気がつけば、指をなめながら、
「手で食べると美味しいね」
と言っている。
 
私が手で食べる美味しさに目覚めたのは、南インドのヨガアシュラムに行った時だ。
最初はスプーンを使って食事をしていたのだけれど、たまたま隣に座ったインド人男性が
「手で食べると美味しいよ」
と手で食べることを薦めてきた。
「こうやって指を使って、ほら」
手で上手にカレーをつまんで口の中に放り込む。
 
カレーの中に手を突っ込むという行為に少し勇気がいったけど、思い切って手でカレーとご飯を混ぜる。指先をスプーンのようにしてすくって口元まで持ってきたら親指で押して口の中へ入れる。
「美味しい」
「でしょ」
彼は嬉しそうに笑って食事を続けた。
本当に手で食べると美味しかった。今までよりご飯がふんわりしていて、心なしか味がマイルドになっている気がする。
カレーのじわーっとした温かさや、ヨーグルトのひんやり感、野菜のおかずのゴツゴツ、ふわふわ、つるつる、プチプチとした色々な触感、これらをご飯に混ぜながら味わう。
この日からアシュラムに滞在していた約4週間、毎日手でご飯を食べた。
 
手を使って食べるという行為は人によって様々な印象があると思う。
日常的に箸やスプーン、フォークやナイフを使っている文化圏の人々からすると、不潔だったり野蛮な感じがするかもしれない。
私は手が汚れるのが嫌だなというのと、少しお行儀悪いという思い込みがあったけど、手は洗えばいいし、手で食べる文化圏があるのだから何の問題もない。世界中の約40%は手で食事をしている手食文化の人々だ。
よくよく考えてみると、お寿司やおにぎりは手で食べるし、赤ちゃんの頃はまず手でつかんでものを食べていたはずだ。
少し大げさかもしれないけど、この手で食べるということで自分の中の思い込みが一つ外れて新しい世界が開けた気がした。
 
手で食事をするうちにたくさんのメリットに気がついた。
食事をする時に、まずは味覚と嗅覚を使うことが思い浮かぶ、そして視覚と聴覚。手で食べるとそこに新たな触覚が加わる。食感を舌で感じる前に、手で食材の触感を楽しむことができる。
これは手で食べ始めてわかったことだが、舌で感じるのと手で感じるのとでは感覚が違っていて2度楽しむことができる。
 
手で食材を触ることで、温度を感じる。当然、あまりにも熱いものは手で触ることが出来ないので自然と食事をゆっくりとるようになり、適度な温度の食べ物が入ってくるので口の中を火傷することもないし、食道や内臓の負担も少なくて済む。
 
手を口に運んだ時の感覚は金属のスプーンと違っていて、口当たりがとても優しい。私が最初に手でカレーを食べたときにいつもより味がマイルドになっている気がしたのはこのせいかもしれない。
 
手は私たちに与えられた素晴らしいツールだと思う。お箸にもスプーンにも、時にはナイフの代わりにもなる。そして、圧倒的に他のツールと違う点、手には優しさがある。
子供の頃、母が作ってくれたおにぎりが大好きだった。炊きたてのご飯を手を真っ赤にさせながら握ってくれていた。ただご飯と塩だけで握られたものなのに、お茶碗から食べるご飯と違う美味しさだったのは、そこには手の優しさが加わっていたのだと思う。
 
最近は工場で衛生的に作られたおにぎりを買うことができるけど、たまには家族や自分の手で握ったおにぎりを食べると優しい気持ちになれるかもしれない。
明日は私も手を真っ赤にしながらおにぎりを握ってみよう。もちろん手を綺麗に洗ってからね。
 
 
 
 
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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