私が今の仕事を続けられた理由
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記事:奥 寛子(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
石の上には3年だけ、のはずだった。
私は、今の会社を3年で辞めようと考えていた。
仲の良い友だちよりも先に大学を卒業したため、自分だけ働いていることが嫌で仕方なかったのだ。
定時で帰れそうな営業事務を選び、頼まれた仕事だけをこなすという毎日を過ごしていた。
会社では必要最低限のコミュニケーションを取り、休日に同僚と会うことはない。仕事とプライベートをきちんと分けるタイプの人間だった。当時の私を「スーパードライちゃん」と名付けよう。
そんな私が、とあるきっかけで、真逆の「仕事人間」になった出来事をお話ししたいと思う。
配属されてすぐに開催された私の歓迎会で、「奥さんは気が遣える方です。電話を転送する時、受話器を静かに置いてくれるので耳が痛くない。これからが楽しみです」と言って下さった先輩がいた。
その方は、当時最年長だった57歳の太田さんだ。
仕事での関わりは少ない人だったが、新人だった私の行動をよく見ていたようだ。
ある日、私は仕事でミスをした。
営業の人に頼まれた備品が納品されていない、とクレームが入った。発注をかけた後、私はその注文書を破棄するという致命的なミスをしていた。だから備品が届いていないことさえも気づいていなかったのだ。依頼者の営業マンに事情を説明して謝ったところ、想像以上の言葉が返ってきた。
「誰のおかげで仕事があると思っているんだ? せっかく仕事を与えてやったのに!」
上から目線の言葉が悔しくて、腹が立って、なんでこんな人のために仕事しないといけないんだ、と涙がボロボロ溢れた。会社で初めて泣いた。ミスしたことよりも、全く対等ではない言葉に傷ついたのだ。
一連のやり取りを見ていた太田さんは、普段は誘わない私をランチに連れ出した。
きっと個別に怒られるんだろうな、と覚悟をして外に出て行ったが、同じ部署の先輩にも関わらず、私を叱る訳でもなく、話を聞き出す訳でもなく、ただ一緒に食事をしてくれただけだった。そして、私の悔しい気持ちを理解してくれているかのように優しく微笑みながら、多くの言葉はなかった。これは絶対厳しい言葉が返ってくる……と思っていたので、それはとても不思議な感覚だった。
入社1年が過ぎた頃、太田さんから文具棚のシールの張替えを依頼された。
「もう何年も替えていないから剥がれている所もあるし、どこに何があるか分からない状態だから頼むね」というお願いだった。作成しないといけないシールの量は50枚程で、古いものを全部剥がしてから新しいものを張るという作業だった。
私はまたミスをした。しかしそれが転機だった。
その頃、営業からの仕事の依頼が増えるようになった私は、太田さんからの依頼を後回しにしてしまったのだ。1週間経ち、文具棚の前に行って言葉を失った。すべての引き出しに、新しいシールが貼り直してあった。
私はすぐに太田さんのところに行き、申し訳ございません! と謝った。
太田さんは、静かな声でこう言った。
「期待していたんですけどね。この子は違うって……」
そして私の前から寂しそうに去って行ったのだ。
これまで経験したことのない悔しさで胸が痛くなった。
自分のことを信じてくれていた人を裏切ってしまった自分が、悔しくてたまらなかった。
「期待していた」という言葉は、スーパードライだった自分の心を熱くさせたのだ。
そして、もう同じ思いはしたくないと決心をした。その日以降、私は依頼を受けた仕事はすぐに始めるように変わっていった。自分を信用してくれている人や言葉を裏切らないように。
3年で辞めようと思っていた私は、今年で勤続13年になった。
太田さんは定年退職を迎えられ会社を卒業されているが、今でも同僚と一緒に定期的にランチ会をしている。周りとあまりコミュニケーションを取らず、淡々と生きていた私を変えてくれた恩人だ。
あの頃の自分には考えられないが、今では仕事が終われば同僚と食事に行き、休日にも同僚と会うようになっている。仕事に対しても、相手の期待を超えられるように、新しい何かを生み出すために、これから何をどうしようが常に頭から離れず、毎日ワクワクしている。
自分のことを見てくれている存在との出会いは、何よりも原動力になるのだ。
叱る、怒るではなく、そっと見守って相手を信用しているという存在が、人の心を変える。
私は、ありがたいことにその感覚を20代で体験し変化することができた。
この投稿を最後まで読んで下さったあなたも、自分を見てくれている存在に気づき、また誰かの心を動かす存在になれればいいなと考える。
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