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日本人が1か月の休暇を取るとどうなる?


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記事:CHACO(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ドイツ1か月も行くの? うらやましい!」
 
この時期、娘の学校が夏休みになる1か月間、家族でドイツの実家に帰省するのが毎年恒例であった。「であった」というのは、娘の中学校の部活を休むことができない今年はこの暑い日本に残り、そして来年は受験なのでこれまたどこにも行けないからである。まあそれでも、これまでほぼ毎年夏はドイツで過ごしていた。
 
「1か月も何をするの?」
 
実を言えば、私にもよくわからない。
基本的には夫の両親の家にずっと滞在して、3食昼寝(+ティータイム)付きの、と言えば聞こえはいいが、まるで老後のような生活だ。
つまり、暇なのである。
 
それでも、SNSに上がってくる「○年前の今日」として過去の投稿を眺めていると、夫の友人に会ったり、ビアガーデンでビールを飲んだり、親戚の集まりに行ったり、両親と一緒にみんなででかけたりしていたのがわかる。
 
それなりに楽しくはあるし、少なくとも5年前くらいまではとても楽しく過ごしていたのを覚えている。
しかし、去年の夏にふと思ってしまった。
 
「帰りたいな」
 
1か月の休暇も半分を過ぎたころだ。1か月も休暇を取れるなんてなんて贅沢な! と言われる環境でありながら、家に帰りたいと思ってしまったのだ。なぜだろう……。
 
休暇の長さというのはパスタのゆで時間に似ている。
私はパスタ、特にスパゲティに関してはアルデンテが好きだ。みんなそうかと思ったら、やわらかめが好きな人もいるらしい。夫がそうである。
彼がゆでるパスタはいつもやわらかくて、私や娘には不評なのだ。
 
1か月間の休暇を取ってドイツに帰省するのは、だいたい夫が主導して決めている。なぜ1か月なのかというと、1回行くのに長くても短くても飛行機代は変わらないし、実家に滞在すればホテル代も食費もかからないし、私たち夫婦は二人ともフリーランスだから休暇時期や期間は自分で決められるし、1回で2度も3度もおいしくしようとするのはとてもドイツ人的だ。
 
去年私が「帰りたい」と思ったのは、どうやら
 
「彼がゆでるパスタは食べたくない。自分の好みのゆで時間で好みのかたさのおいしいパスタが食べたいわ」
 
と目覚めてしまったということのようだ。
そして、私好みの「アルデンテ」な休暇は、2週間という結論に至った。
3週間はパスタの袋に書いてある標準のゆで時間、そして4週間は完全にゆですぎだ! ゆで過ぎの麺を食べると、1口めからグダーっとなってしまう。そして延々とそのグダグダが続く。
 
まさに去年の帰省がそうだった。ヨーロッパを猛暑が襲った去年の夏はまさかの気温30℃越え。しかも、一般家庭にエアコンなどあるわけがない。私たちのゲストルームは最上階の屋根裏部屋。熱がこもって、とてもじゃないがいられたもんじゃない。
せめて窓を開けて風を通そうと思いきや、暑い夏に大量発生するスズメバチが網戸のない窓から入ってくるのでそれもだめ。
 
ならば階下の多少涼しいキッチンに行って、アイスコーヒーでも作ろうとすると、氷がない! 自動で氷を作ってくれる日本の冷蔵庫がまるで銀色に輝く神様のように思えた瞬間だった。
 
あまりの暑さに何もやる気が起きず、休暇の前半2週間をグダグダ過ごし、すっかりペースが狂ってしまった私の夏休みはそのまま後半に突入した。
ようやく涼しくなったのにペースが戻らないまま残り2週間を過ごし、リフレッシュどころか疲れ果てて帰ってきたのだった。
 
「1か月もなにをするの?」
 
何もしなかったよ。ウダウダしてた。
 
「1か月も行くの? うらやましい!」
 
いや、2週間くらいで毎日を充実させた方がうんといいよ。
 
私も含めて日本人はどうやら休暇でも動きたくなる人種のようだから、4週間なんて何をしたらいいかわからなくなるし、動いたらその分お金もかかるし、なにより社会復帰のリハビリが半端ない!
会社員だったら、仮に4週間も休んだら自分の居場所がなくなるかもなどと心配にもなってくるだろう。
長ければよいというものではない。
 
これをきっかけに、私は自分好みの休暇をとりたいと考えるようになった。
2週間くらいで、時間をすべて自分のために使える一人旅を年に2回くらいしたいというのが理想中の理想だ。家族の予定に合わせるために、わざわざ暑すぎる夏休みに休暇を取る必要もない、思い立ったら2週間ちょっと行ってくるというスタイルにもあこがれる。なんなら、パソコンとインターネットさえあればできる翻訳の仕事を旅先に持って行って、現地で生活するように滞在するという手もある。
 
これ以上は妄想が止まらなくなるのでやめておくが、こう考え始めてから、毎日夏休みにSNSに上がってくるみんなの休暇や旅先からの素敵な写真をうらやましいと思うことがなくなった。私もリア充な投稿をしなければ、と思うことも不思議となくなった。
 
年に一度の4週間の休暇を10年以上もとってきた結果、休暇は長さではなく内容だということに気づいて本当に良かったと思う。休暇はそもそもリフレッシュするためにあるのだから、自分好みの時期と期間、自分好みの内容で、行きたい人たちと行くのがその目的にかなっているのではないだろうか。
そして私は、もうちょっとだけ妄想しようかなと思っている。
 
 
 
 
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2019-08-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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