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今でも金八先生は必要なのか


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記事:松熊利明(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
僕には今でも忘れられない先生がいる。
 
その先生に出会ったのは僕が中学生の頃だ。
 
中学二年生になったとき、その先生は僕の担任になった。
 
先生の出会いは最初から強烈だった。
 
始業式の後のホームルームの時、先生はクラスの生徒の名前を順に呼んでいたのだが、僕の順番になると「おまえの事はこれから下の名前で呼ぶぞ」と突然宣言してきたのだ。
 
僕の名字が先生と同じだったからなのだが、会ったその日から名前で呼ばれると言う衝撃はかなりのものがあった。
 
そもそも僕の名字は珍しく、今まで親戚以外で同じ名字の人に出会ったことがなかった。
 
だから、名字が同じ人がいただけでも驚きだったが、その人が自分の担任になるなんて、とても不思議な感じがした。
 
その先生(M先生)の見た目は、頭が少し薄いのもあり、周りからは実際の年齢(40歳くらい)より、少し老けて見えていたかもしれない。
 
ただ、学年の生徒指導の担当に選ばれるくらいパワフルな先生で、それでいてよく面白いことを言ってくれる先生だったので、一般の真面目な生徒だけでなく、日頃からよく授業を抜け出して部室の横でタバコを吸っていたりする、いわゆるヤンキーと言われる子たちからも人気があった。
 
僕のその後については、初日に宣言された通り、授業中は勿論、何かしらやらかしてしまったときも、いつも「としあき!」と下の名前で呼ばれ続ける日々が続いた。
 
思春期の僕としては、同級生の前で先生から下の名前で呼ばれること自体、とても恥ずかしい事であったが、なぜかそれとは違う感情も同時にあった。
 
先生から特別扱いをして貰っているような優越感に似た感情だった。
 
ある時、僕は授業中に友達とふざけていて、M先生に怒られたことがあった。
 
先生は「げんこつをするからな」と宣言をしたあと、げんこつを実行した。頭の真上から真下に落とすげんこつだ
 
結構痛くて、しばらくは頭のてっぺんの痺れが取れなかった。
 
でも、なんだか嬉しかった。
 
自分でもなぜそのような感情になったのか、その時はよく分からなかったが、今思うと「自分の事をちゃんとみてくれている」と言う安心感や信頼感から来ていたのだと思う。
 
最近はよく、先生たちの体罰が社会問題化し、今の先生たちは生徒たちに触れることさえも出来ない様な時代になってしまっている。
 
僕らが子供の頃は、授業中の私語が見つかったとき、宿題をし忘れたとき、遅刻をしてきたとき、そんなときは決まって、げんこつをくらったり、ビンタされたり、廊下で正座をさせられたりする事が普通にあった。
 
そして、僕ら生徒側もそれが普通で何とも思っていなかった。
それは、生徒の保護者も同じで、げんこつで多少たんこぶが出来て帰ってきても、学校に抗議の電話をするような事はなかった。
むしろ、何かあったらもっと叱ってくださいくらいの勢いだった。
 
確かに感情に任せた暴力はいけない。
でも、愛のムチすら存在してはいけないのだろうか。
 
過去には、体罰が原因で学校を辞めることになった先生が、体罰を受けた側の生徒や保護者の嘆願により、その処分が取り消されて学校に復職した例もある。
 
ただの暴力か、愛のムチなのかは受ける側にとっては直ぐに分かる。
 
生徒たちが先生を判断する基準は、手を出すか出さないかではなく、自分達の事を真剣に見てくれているかどうかなのだ。
 
昨今、人間関係が希薄になっているとよく言われるが、その縮図は学校にあるのかも知れない。
 
信頼感の欠如から、先生、生徒、保護者、それぞれが本音を言えない世界が、そこにある。
 
こんな時代だからこそ、僕の担任だったM先生の様な、本音でぶつかってくれる人間が必要なのではないか。
 
実は、そのM先生は先日亡くなってしまった。
 
当時はよく怒られたけど、今では本当に感謝している。
あの時受けたげんこつの痛みは、間違いなく今の僕を形作る要素のひとつになっている。
 
教育と言うもののあり方は、時代により変化してきていると思うが、変わらないこともある。
 
それは、人間が本気でぶつかった時の伝達力だ。
 
必ず相手には伝わり、いつの時代でも変わる事はない。
 
テレビドラマで武田鉄矢さんが演じていた「金八先生」が生徒たちに対し真っ直ぐにぶつかり、それが生徒たちに伝わったように。
 
今こそ、何が大切で何が大切でないのか考える時なのかもしれない。
 
 
 
 
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2019-08-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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