メディアグランプリ

「食べこぼし」から見えた深層の願望


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記事:HIDE(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「さすがにこれは目立つ……」
山手線に乗ったいた私は、胸元にできた大きな黄色いシミをどうやったら隠せるか試行錯誤していた。
パスケースを持つ手を胸元に置くといい感じだが、30分近く同じ姿勢を保てそうにない。お酒の匂いが漂う電車の中で、「おばちゃんの胸元なんて誰も見てないだろう」と開き直ってその場を乗り切った。
 
南インドカリーは、美味しかった。
1時間半も並んで待っただけある。
久しぶりの友人たちとのおしゃべりも最高に楽しかった。
けれど、ついうっかりシミを付けてしまった……というわけではない。
 
そう、私は「食べこぼし」常習者なのだ。
20代の頃に本気で直そうと試みたが、毎度の食事で「気を付ける」ことができる注意力を持ってなかった。
そのため、「食べこぼし」をしないことよりも「目立たない」方法や、できた際の「隠す」術を見つけることがうまくなっていった。
 
親になっても「食べこぼし」は何ともならず
今では子どもよりも私の方が粗相をすることが多い。
 
「食べこぼし」なんて、しないほうがいいに決まってる。
洋服は長持ちするし、食べこぼさない人の服は清潔感がある。
何よりも、食べ方が美しいように思う。
自分にはないものだから余計に、きれいに食べる人をみると、「この人は育ちがいいのだろうな」とその立ち居振る舞いの美しさにウットリとしてしまう。
 
だから、今でも直せるものなら直したい。
けれど、直し方が分からないし、「もう無理だって……」っと諦めきっている自分がいて、全くやる気にならない。
それに、「食べこぼし」を直したところで、自分の食べ方が急に美しくなるわけでもなかろうし、苦労するのに見合ったメリットはないよね? なんて思っている自分もいた。
 
そんなことを考えていたら、
「あんたの食べこぼしの仕方って、あんたの人生みたいじゃんね」
と、頭の中で声がした。
 
え?
私の人生? 食べこぼしが?!
 
そうそう!
食べることって生きることでしょ。
口に入れる栄養だけじゃなくて、頭に入れる学びも、取り込む感情、五感で受け取る感覚も、あんたの受け取るもの全てがあんたの構成要素でしょ?
あんた、食べ物だけじゃなくて、そういうの全部を食べこぼしてるよ……
 
私の脳内で、こんなセルフトークが展開された。
 
そして瞬時に私は、
私の食べ方は私の情報の取り込み方や生き方を反映していのか!!
と納得したのだ。
 
目に入った美味しそうなものがすぐに食べたくなるのが人間なのかもしれないが、多くの人は理性で食欲をコントロールしているのだろう。
しかし、私は自分の欲求に従い、あまり考えることなく、簡単に用意できるものを、好きな時に、好きなように食べていた時期がしばらくあった。
 
この時の私は、こうした食行動が、唯一、自分に許されたストレス解消法だと感じていて、食べることで得られる安心感と快楽で心のバランスを保っていた。
また、我が子の育てにくさが明確になった頃だったため、自分を楽にしてくれそうなものは、講座でも本でも茶話会でも、何でも手を出していた。
 
しばらくすると、暴食も情報の過剰摂取も落ち着いたが、
基本的に、私は、自分の口や頭に入れられるものに対してとても貪欲で、何でも欲しがるタイプのため、「ちゃんと消化できるのか」ということや、「何を学び、それをどう活かすのか」には意識が向いておらず、私は出来が悪い人間だから足さなきゃいけない……という貧乏思考で摂食行動をしてきたと思う。
 
しかし、1年半前に、私の人生には不要と判断したことを、勇気をもって手放した結果、私の言動と心身の状態は少しずつだが明らかに変わってきてもいる。
そんな変化を、この「食べこぼし」を考えることで自覚できた。
 
過食がもたらした体形変化を恨めしく思うことも多々あるが、「あの環境の中で頑張れた私ってスゴイ!」と本心から感じてるため、後悔はしていない。
あの時できた最良の選択をしてきた結果だ、と受け入れていることも分かった。
 
でも、「今後も同じようなことを繰り返すのか?」と聞かれたら
「絶対にしない!」と即答する。
 
今後の私は、自分に取り入れるものを吟味するからだ。
食べるもの、学ぶもの、時間の過ごし方などなど、自分の限りがある人生を、大事に使っていく。
 
そのために、まずは、「食べる」から大切にしていく。
心身が喜ぶ素材を選び、その素材を活かす調理法を施し、
誰とどういただくのかなど食べ方にも配慮して、美味しさで満たされたい。
 
つまり、私にとって、「食べこぼし」を直すということは、
きれいに食べることがゴールになるのではなく、
自分に必要だと選択したものを、確実に取り込み、丁寧に味わいきること、だったのだ。
 
行動面での「食べこぼし」の改善には、口と手の協調運動を円滑にするなどの身体機能の課題も伴いそうだが、まずは、自分が欲しているゴールが自覚できたことは、大きな一歩になったと確信している。
 
私の人生はいま折り返し地点だ。
残り半分の人生は、「食べること」「生きること」を心から楽しんでいきたい。

 
 
 
 
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2019-08-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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