どうしてもサビで声が裏返る
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【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:渡邉翔太(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
「中田英寿は山梨の韮崎高校出身でさ」
「よくそんなことまで知ってるよな~」
小学生の時からサッカー選手の特徴を覚えるのが得意だった。毎年Jリーグや海外チームの選手名鑑を購入しては隅から隅まで何回も読んでいた。名前や所属チーム、ポジションは勿論、出身の高校や履いているスパイクのメーカー、その選手が自信のあるプレーや好きな女性タレントまで。そしてサッカー部に所属する自分自身が「もしプロ選手になったら、どんな風に選手名鑑に載るんだろう!」なんて妄想をしながら、同様の趣味をもつ友人と切磋琢磨をしていたのであった。
思えば父の影響を受けたのだと思う。野球部出身の父はプロ野球選手に異様に詳しかった。出身高校や契約しているメーカーは勿論、今までの打率や本塁打数なども把握していた。幼い頃の僕には、なにを質問しても答えてくれる神様のような存在に映り憧れていたのであった。
無我夢中でサッカーを追い続けた楽しい学生時代であったが、大学に入学したあたりから身体に少し異変が起きた。鼻が詰まるのだ。それは風邪のように一過性のものではなく一年中。病院で下された診断は「通年性のアレルギー性鼻炎」。イネやカビ、ハウスダストなどあらゆるものに身体が反応し鼻が詰まってしまうのだ。世の中にある他の病気に比べると緊急性は極めて低いが、長く付き合っていく必要がある。家ではアレルギー反応を抑える薬を飲み、外出先では定期的に詰まりを解消するスプレーを鼻にする必要があった。
このスプレー「点鼻薬」が面倒なのだ。
数時間毎に鼻が詰まるので必ず鼻にする必要がある。家に忘れようものなら軽くパニック、ジーパンのポケットから落ちた時にもパニック。少し大げさかもしれないが、酸素や水と同じレベルで必要なのである。そして実際に使う時にも面倒なのだ。授業中に鼻が詰まったなと思いスプレーをすると「なにそれ?」と聞かれ、飲み会中に鼻が詰まったなと思いスプレーをすると「なにそれ?」聞かれ。周りにそんなことをしている人がいないので、毎回「なにそれ?」と聞かれてしまう。ダブルで面倒なのである。
社会人になると、「喉」が弱いということにも気づいてしまう。風邪をひくときに必ず喉の痛みから発症する。それだけなら「知らんがな」と片づけられるのだが、耐久性がないということも次第に分かっていく。社会人になると仕事終わりにお酒を飲む機会が増え、二次会でカラオケにいくことも多かった。歌うことは好きだったので毎回ノリノリで行き、盛り上がりそうな曲をいれては率先して歌う。先輩が歌う時には精一杯合いの手をいれる。カラオケも終盤になってくると室内は「バラード祭り」の雰囲気に。それぞれが自信のある曲をいれ、自慢の美声を響かせていく。僕もその流れに乗り、聴かせる歌を歌いだす。
軽やかに一番のサビを歌う
徐々に感情を入れながら二番を歌う
二番終わりの間奏で一気に空気は出来ていく
最後の盛り上がるサビをどうぞ
『ピーーーーーーーーーーー』
まるで心拍が止まった心電図のような音が響く。
そう、二番までで僕の喉は燃え尽きていた。
いつもそう。最後のサビで声が裏返ってしまうのだ。壮大に。聴かせるつもりが、笑いにまみれた空間に早変わり。恥ずかし気な表情で家に帰り、痛めた喉から風邪をひく。こんな感じだ。
こんな特徴のある身体だが、憎み切れない自分がいる。久しぶりにあった大学時代の友人の前で、何気なく点鼻薬をスプレーすると「それ懐かしいね!」と話のネタになる。また、ある日の飲み会では「今日もカラオケ行きますか! 月1回は心電図の音聞かないとね!」と話のネタになる。自分自身の身体のネガティブに思える特徴も、付き合いが長くなってくると段々愛らしくなってきている今日この頃。
ふと選手名鑑を必死に覚えていた学生時代のことを思い出した。「鼻が詰まる」や「喉が弱い」というのは選手名鑑に書かれている「履いているスパイクのメーカー」や「自信のあるプレー」と似ていると。それは『渡邉翔太』という選手の特徴であり、他の選手と違う特徴を示すものでしかないのだと。
そう思うと「コンプレックス」は愛らしく感じるのは勿論、他人が感じているであろう「コンプレックス」ですら憧れの対象になってくるのである。選手名鑑を読み漁っていた時代の熱い想いがフツフツと湧いてくる。
そうだ!
自分が苦手な人だけの選手名鑑でも作ってみよう!
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