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メディアグランプリ

有言実行のすゝめ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:渡邉翔太(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
 
 
もう3時間も自転車を押している
ただ、ただ、押している
38度の炎天下の中、箱根の山を越えようとしていた
 
 
入社して5年。有言実行しないことにイラついていた。それは他者に対して、いや、自分に対してだ。取り繕うことばかりが上手くなっている気がして気持ち悪かった。自分が仕事で抱える問題に対して、「こんな手を打ちます」と言い放ち、数か月して解決しない問題に対して「このような観点が不足していたので次回は更に工夫します」と言い訳のような戯言をベラベラと話す。この負のループをどうしても断ち切りたかった。
 
 
その為には何でもよかった。とにかく大きなことを宣言して、有言実行すればよかった。それだけで自分に嘘をついている気持ちがなくなり、全ての物事が良い方向に回る気がした。
 
 
しかし、それにしても大きな事を宣言した。
お盆休みを前に会社の飲み会で高らかに宣言した。
 
 
『京都から東京の実家まで自転車で帰ります!』と。
 
 

ここまで高らかに宣言すると気持ち良い。
武士のように退路を断った気分であった。
 
 
距離は約500km。気温は連日35度超え。炎天下の中、5日かけて京都、滋賀、岐阜、愛知、静岡、神奈川、東京という行程。相棒は激安の殿堂「ドン・キホーテ」で購入した9800円のママチャリ、ギアなし、ライトあり、サドル硬め。大した下調べもせず、パンクの対策すらせず、バックパック一つだけ背負い旅にでた。
 
 
振り返るとたくさんの思い出がある。初日、出発後わずか1時間でサドルの硬さにお尻が悲鳴を上げたのを皮切りにハプニングの連続であったが、その中でも命の危険を感じた静岡横断と、修行僧のような時間を過ごした箱根の山越えについて振り返りたいと思う。
 
 
4日目、この日は静岡県を横断するスケジュールであった。静岡は自転車乗りにとっては鬼門であった。自転車通行禁止区間が所々に存在するので、場所によっては迂回する必要があるのだ。しかし当然そのようなことは知らず、約120km先の富士市を目指したのであった。
2時間ほど自転車を漕ぎ、トンネルの中を走っていた。しかし、路側帯が異様に狭い。大型トラックとの距離はわずか20cm、少しでも横にふらついたら人生が終わってしまう距離であった。「まさか自転車で侵入してはいけない道路に入ったか……?」と思い始めてはいたが、そんな訳はないかと思いこみ更に進んでいく。しかしトンネルの出口は見えず、段々と命の危険を感じ、ついには壁についている非常電話に助けを求めた。先程感じた違和感は間違っていなかった。自動車専用道路だったようで、自転車の侵入は禁止。道が狭すぎて助けにいくことも出来ないので、ゆっくり後ろ向きに進んで帰ってきてくださいとのこと。「こんな狭い場所を、後ろに進んで戻る? これは本当に人生終わってしまうかも」などと思いながら行きの倍の時間をかけて脱出。冷や汗で服はびっしょりと濡れていた。
 
 
5日目は富士市を出発、箱根の山を越え、東京にある実家へ向かう140kmの道のり。38度と非常に暑い日であったが、順調に4時間走り箱根の山の麓へ。すれ違った地元のお爺さんに「自転車? 箱根の山は厳しいぞ」と脅されながら上り始めた。すぐにその言葉の意味が分かった。傾斜が異常なのだ。平均5~6%、きついところで約10%。どれくらいキツイかの上手い例えは見つからないが、ギアのついている数十万するような自転車でも、傾斜が10%というのは厳しい坂に分類される。つまりギアのついていないママチャリにとっては、上ることは不可能な坂なのである。早々に漕ぐことを断念し、手で押して進む。押しても押しても上り坂、見える景色は延々と上り坂。1時間、2時間と押し続けた。全く頂上が見えず気が狂いそうであったが、今更戻るという選択肢はない。そして何より箱根の山さえ越えれば東京はすぐそこで、有言実行をすることが出来るのだ。折れそうになる心を必死に、必死に支えながら自転車を押し続け3時間かけて頂上へ。これだけ厳しい坂なら、それは毎年駅伝でドラマがうまれるなと思いながら東京へと最終スパートをかけたのであった。
 
 
この500kmの自転車旅は、黒光りした肌以外にも多くのものを与えてくれた。あれだけ大きなことを言って実行したという自信、大型トラックと命の危険を感じる距離だったが生きているという喜び、何回も絶望を与えてくる箱根の坂に屈しなかった精神力。
 
 
5年間で作り上げた虚像を壊すには充分すぎる旅であった。
仕事や人間関係に疲れ果てた方には、一度無茶な有言実行をすることをお勧めする。
 
 
しかし、この旅は与えてくれるだけではなかった。大事なものを失ってしまった。頭のネジだ。一本飛んでいってしまった。生半可な刺激ではダメな身体になってしまった。月3回フルマラソンに出場してみたり、100kmのマラソンに挑戦したり、30歳を超えて真剣に英会話に通い始めて見たり。それでも刺激が足りない。
 
 
次はサハラ砂漠でも走ってみようかな。

 
 
 
 
 

***

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2019-08-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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