いつも心にお茶室を
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:水谷真由子(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
「お退屈様でした」
畳に両手をつき先生にお礼をして、その日の茶道のお稽古を終えた。
隠れ家のような四畳半のこぢんまりとしたお茶室は、畳と足が擦れる音、茶釜から湧き出る湯気のシュンシュンという音が響く静かな空間だ。足を踏み入れると、慌ただしい日常からシャットアウトされる。ここにいると物事を一歩引いた視点で考えることができ、気持ちに余裕が出てくる。私にとってお茶室は、精神的に余裕がない時に助けを求めて訪れたくなる、心の駆け込み寺だ。
今では、何かあったらすぐ行けるようにお茶室を携帯したいと思っているぐらいなので、心の中に「お茶室」をつくってしまった。
もともとは、職場の先輩に誘われ、約10年前に気軽な気持ちで始めた。
私が習う茶道のお稽古は表千家の流派で、週に1回、主に2つのことを教わっている。亭主としてお茶を点てる作法を学ぶお点前と、お客様としてお茶の飲み方を学ぶ作法だ。その場にいる人にとって心地よい空間をつくるために、一連の動作の中には踏まなければいけない手順が多く、一つずつ順番に覚えていく。
最初のうちはモチベーションが上がらず、なんとなく通うだけだった。茶道の世界は一挙手一投足に決まりが多くある。畳の上の歩き方、帛紗のさばき方など、細かい所作を覚えて一通りの流れができるようになるまでに1年以上かかった。正直、最初の3年間くらいは全くおもしろ味を感じることができなかった。
唯一の楽しみは、先生が用意してくれる和菓子だった。夏は透明な葛が涼しげな水まんじゅうが提供されるなど、いつも季節にちなんだもので、目と舌で味わいながらいただいた。和菓子というニンジンを目の前にぶら下げ、なんとかお稽古を続けていた。
そんな私の茶道に対する姿勢を変えてくれたのは、茶道を始めて3年経った時に初釜(新年に行うお茶会)で出会った1人の女性だった。
その女性は身のこなし、茶道具の扱いが流れるように美しく、お茶の点て方一つとっても、細やかな心配りが感じられた。さらに茶席の挨拶もスマートであった。感銘を受ける一方で、自分のお点前がいかに形式的であったかを反省した。本来、茶道はお茶を飲む人との一期一会を大切にして、相手の気持ちに寄り添った振る舞いをすることなのだと改めて思い直した。
それ以来、お稽古に真剣に向き合うようになり、お点前の動作一つひとつの意味を考えるようになった。
畳を歩きながら方向転換する時に右回りをするのは、右側にいるお客様にお尻を向けないため。夏のお点前で大きくて平たい水器を使うのは、暑い中を来てくれたお客様に少しでも涼を感じてもらうためである。このように全ての動作や工程には気遣いの意味があるのだと理解した。相手を気遣うためには、まず自分が心に余裕を持つように努めた。それにより、居心地の良い空間がつくりだせているんだと身を以て学んだ。
そう、お茶室はおもてなしの気持ちで満たされているのだ。
「心の中にマイ茶室をつくってしまおう!」
できることなら毎日でもお茶室に行きたい。しかし、現実には難しいので、それを叶えるために、心の中に私だけのお茶室をつくった。茶道の世界に触れると、大事なプレゼンの前や、ミスをして落ち込んだ時など、どんな時でもお稽古で学んだ気配りや気持ちに余裕を持つことの大切さを思い出し、気持ちを落ち着かせることができるのだ。
心のお茶室を持つことで、いつでも茶道で教わったことを思い出せるので、日常生活の些細な機会にも、学びが活かせるのだと気づいた。
例えば、コピーを頼まれた時の対応の仕方を1つとっても、何も考えずにコピーをして渡すより、読みやすいように濃淡や倍率の工夫をして渡すのとでは、受け取った人の反応も変わる。ポジティブなフィードバックがかかり、一つひとつの仕事に丁寧に取り組むようになった。
また、新しい楽しみも増えた。今までだったら、バーゲンセールやお盆休み、クリスマスなどで季節を感じていたが、鳥の声や道端に咲く花から四季の移り変わりを感じられるようになった。流れるように過ぎていた1年の中で、立ち止まって深呼吸する余裕ができたのだ。
まずは作法を習得して、次にその意味を理解することができた。そして、心の中のお茶室を持つことで茶道の心得を生活の中の習慣にできるようになった。そうすることで、日常のものの見方や考え方が変わった。人生を豊かなものにするために、何かあれば心の中にお茶室に立ち寄り、茶道で学んだ気配りと気持ちの余裕を忘れないようにしたい。
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