メディアグランプリ

即興の芸術、ブレイクダンス体験記


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大杉 祐輔(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
 
 
役場から送られてきた生涯学習講座の案内に「ブレイクダンス入門」を見つけたのは、とある5月の昼下がりだった。鹿児島県でNo.1の高齢化地域、南大隅町。人口の2人に1人が高齢者のこの町で、ブレイクダンスをやりたい人がどれだけいるのだろうか? ヒップホップの「ヒ」の字もないようなこの町で、実際に参加するような人がいるのだろうか? そんな興味が私を突き動かし、気が付くと役場に申し込み用紙を届けていた。ダンス経験のない運動音痴の私が、2か月後には県内最高レベルのブレイクダンスの大会に放り込まれることになろうとは、このときには知る由もなかった。
 
 

ブレイクダンス講座は週に一回、町が所有する体育館で行われる。講師は、DIYや木工の勉強をするために移住してきた、兵庫県出身のダウニーさん(日本人)。20代後半ぐらいで顎髭が素敵な、すらりとした体格の男性で、面識はあったがダンスを見るのは初めてだった。練習中にちらりと見える逞しい腹筋から、ダンスに捧げてきた時間と努力が垣間見える。
 
 
講座の受講生は、自分以外に3人。高校でバドミントンをしているコウセイくんと、中学一年生のヤヨイちゃん。そして60代女性のタキサキさんだ。老若男女、バラエティに富んだメンバーが揃っている。タキサキさんは学生時代にマイムマイムなどのレクリエーションダンスをやっていたようだが、あとは全員ダンス初心者。約2か月、10回の講座で、どこまで上達できるのだろうか。期待と緊張のレッスンが始まった。
 
 

はじめにやったのは、何はともあれストレッチ。ブレイクダンスといえばアタマを地面につけてぐるぐる回ったり、手を支柱にして両足をブンブン振り回したりする、ド派手な動きをイメージする方も多いだろう。あの動きをするには、とにかく手首や股関節の柔軟性が必要不可欠。数あるダンスのジャンルの中でも特に、ブレイクダンスは柔軟が重視されるらしい。講師のダウニーさんは開脚での足の開き方が半端じゃなく、ダンスにかけた時間の蓄積を感じた。自分全然開かないんですが……!!
 
 
次にやったのは、基本的なステップの練習だ。
「ブレイクダンスは、大きく分けて4種類の動きで構成されています。立った状態でステップを踏む『トップロック』、床にしゃがんだ状態で脚を自在に動かす『フットワーク』、同じく床から大技を決める『パワームーブ』、最後に決めポーズの『フリーズ』です。」ダウニーさんが説明する。「パワームーブはド派手なブレイクダンスの華型ですが、難易度が高く怪我もしやすい。柔軟で体を慣らしつつ、まずはトップロックやフットワークの基本から始めましょう!」
 
 
まずは立って行うトップロックの基本の動きや、フットワークの基本「一歩」からレッスンが始まった。トップロックは基本的に、足を交互に前に出しては戻すだけの繰り返しなのだが、リズムに合わせながら手のフリまでつけるとめちゃくちゃ疲れる。ブレイクダンスの音楽はヒップホップミュージックが多く、だいたいリズムが早いのだ。この動きだけでTシャツがびしょ濡れになった。また、「一歩」はしゃがんだ状態で片足を前に出して縄跳びのように回す動きで、ちょっとやっただけでふくらはぎが攣りそうになった。前途多難である。
 
 
しかし練習を重ねるにつれ、自分の中で今まで使っていなかった筋肉が刺激されたり、奇抜なポーズを決めることになったりで、うまくできたときの達成感が素晴らしい。自分の肉体の限界を、一歩ずつ超えていくような高揚感。レッスンを重ねるたびに、もっと別な動きを習得したくなる。自分の中に眠っていた、新たな可能性に挑戦したくなるのだ。また、ちょっとリズムを変えるだけで、ステップに多様なバリエーションが生まれるのも面白い。シンプルながら奥が深い。やればやるほど、ブレイクダンスの魅力にハマっていった。
 
 
最終的には、できるようになった動きを組み合わせて、即興で踊る「フリースタイル」の練習が始まる。高校生のコウセイくんは持ち前の逞しい筋肉と運動神経でパワームーブの大技を披露し、タキサキさんはリズム感と高い柔軟性から繰り出す魅惑のトップロック。ヤヨイちゃんは基本に忠実に、身に着けたステップを確実につむいでいく。即興で踊るのはめちゃくちゃ緊張するが、頭の中を空っぽにしてリズムをとっていくと、自然に自分のやりたい動きが顕れてくる。その時だけの一瞬の感情を、ステップに刻み込む。やり切った時の達成感は、今までにない特別な体験だった。
 
 
フリースタイルがちょっとできるようになったことで調子に乗った私は、ダウニーさんの誘いもあり、鹿児島市内で行われるブレイクダンスの大会に乗り込むことになった。ダンスを始めて約2か月、今回の講座の最後は実戦で締める! そんな決意は、本場のダンサーたちの前に粉々にされることになる。みんなメチャクチャに上手い。変幻自在のステップと、ハイレベルなパワームーブ。リズムに合わせた繊細かつ激しい動きは、冗談抜きで周囲に風を巻き起こす。圧巻だった。基礎の基礎だけかじっただけの自分は、皆さんの前で踊って時間をいただくのすらおこがましい。でも踊った。習得したステップだけでも出し切ろうとした。ダンスの輪に入って、果敢に喰いつこうとした。いやーキツかった……!
 
 
熟練のダンサーたちは、ステップを我が物にして、自由自在に操っていた。ダンスの動きが完全に身体の一部になっている。だからこそ、そうした動きを「肉体言語」として、そのときの感情を即興で豊かに表現できるのだ。
 
 

そんなカッコよすぎるダンサーたちの姿が目に焼き付いて、彼らの姿を追って今日も私は練習に励む。ブレイクダンスを通して、今まで想像できなかったような新たな自分に出会えることを夢見て。

 
 
 
 
 

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2019-08-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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