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元ひきこもりがつたえる、ひきこもりを終わらせるのに最も大事なことは


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:富田洋平(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
 
 
もしもあなたがひきこもっていたり、大事な人がひきこもって困っているのなら、3年近くひきこもった僕の経験が活かされるのを切に願います。
 

 
14年ぐらい前、僕は大学院の修士課程に進んだ時のこと。
僕は、とっても困ったことが起きていた。
研究室でやっている研究が、何をしているのかわからなかったのだ。
 
わからないことがわからなかった。
だれに何を聞いたらいいのかすらわからなかった。
でも、周囲は当たり前のようにわかっていて、研究しているように見えたし、教官も「修士課程に進んだ人間は、研究室でやっていることをわかっているのが当たり前」と豪語していて、聞くことができなかった。
 
わからないことをわかろうと勉強した。
もうね。電車の中でも勉強し、睡眠時間をいっぱい削って勉強した。
休みの日も返上して勉強した。
それでもわからなかった。
 
僕は、わからないことがとっても怖くて、ダメ出しされることがとても怖かった。
ああ、全然ダメだって気づかれたくない。
でも、なにを聞いたらいいのかわからなくて、だれにも聞くことができなかった。
気づいたら顔が青くて手足が小さく震えていた。
大学院の校舎に行くことも怖くなり、次第に家から出られなくなった。
長い長い鬱(うつ)の始まりで、ひきこもりが始まった。
 
今でこそ、鬱ってなんだっけ?というほど、ぴんぴんしていて元気で、妻と娘と一緒に本当に幸せに暮らしている僕だけど、鬱というのはとても不思議な病気だと思う。
鬱になると、元気がなくなった。
1分間に何度も死にたいと思った。
怖くて怖くてびくびくして、「絶望するってこういうことなのか」と布団から動かない体でひっそりと思った。
 
当時、それでもなんとかしようと医者が書いた本を読んだが、明確に治る方法が書いてあるわけではなかった。
「薬を飲んで、早く寝て、朝日を浴びましょう」ぐらいしか書かれていなかったのだ。
(カウンセリングは受けていたが、担当の医者のおすすめも同じだった)
難しい病態を難しく書いているだけのように思えたし、鬱まっただ中の僕には、これで治る気が全くしなかった。
 
医学で治った人や、医学をしっかり修めている人には、本当に申し訳ないし、14年経っているからひょっとしたら変わっているかもしれないけれど、「アル中を治すには、アルコールを絶ちましょう」「煙草をやめるには、禁煙しましょう」と同レベルだった。
 
そうしてひきこもりが始まったのだけれども、家の中でとても不思議な現象が起きた。
両親や教官には、ひきこもり始めた当初は「ゆっくり休め」と言われていたが、3か月をすぎると一変したのだ。
 
「いつになったら学校に行けるんだ」
「お前は怠けたいだけなんだ。お前のような奴をなんていうか知っているか! ニートって言うんだぞ」
「学校を辞めるなら就活をしろ」
「お前はもう元気だ。うつはもう治っている。気の持ちようだ」
と親に言われれば、教官には
「研究室にこられなければ就職活動はできないし卒業はできない。
いつまでも休むのは認めない」
というメールが来た。
 
もうね。本当にびっくりした。
1分間に何度も「死にたい……でも死ぬことが怖い。なんとか生きよう」と思って、布団からフラフラ立ち上がってトイレにいくヤツに浴びせる言葉じゃないよね?
 
僕はそれでも人を信じたかった。
でも途中からあきらめた。
一人でなんとかするしかないって思った。
そして、自分の鬱をどうにかすることだけじゃなくて、家でひきこもっているだけで親や教官のプレッシャーを受け続けることを覚悟した。
 
ひきこもって、ひきこもって、ひきこもった。
自分の鬱が治ってきて、動けるようになるまでひきこもることにした。
同級生が先に卒業して、後輩にも追い抜かれて悔しくても、ひきこもった。
それでもまたに、大学院に行った。
医者やカウンセラーさんが「まだ通学するのは早い」と言っていたけれどね。
ただ、大学の校舎に近づくだけで体が震えて動けないのだから、いける日だけいって、ほぼほぼひきこもった。
 
先の見通しもなく、親や教官のプレッシャーを受けながらただ生きる毎日。
プレッシャーがなければ、もう少し僕の話を聞いてくれればと思わずにはいられなかった。
大学院のことだけでなく、親や教官とのことも、心の整理をつけないといけなかったからだ。
 
大学院では2年間留年することができた。
2留して、ぎりぎりで心の中に答えを出して、うつの治っていない体で就活をして、お情けをもらいながら卒業した。
 
僕は今、心の悩みを終わらせていく、カウンセラーという仕事をしている。
鬱になってひきこもった時に、何度もあの時にできることはなかったかと考えた。
けれども、僕はあれがベストだったと思うのだ。
ひきこもったから答えを出せたのだ。
 
もしもあなたがひきこもっているのなら、遠慮なくひきこもっていい。
先行きの見通しもなく、ひきこもって好きなことをして、心の整理をすることがあなたの仕事だ。
何千回、何万回、生きることを放棄したくなっても苦しくても生きることがあなたの仕事だ。
(つらいねえ。つらいんだ、これがまた)
 
もしもあなたが、ひきこもっているのを見たくなくて、ついついプレッシャーを与えてしまうなら、その人の心の問題を奪わないでほしい。
答えを出すのを待っていてあげてほしい。
聞かれたら答えてあげたらいいけれど、「なぜ言ったようにやらないんだ」などと詰め寄らないであげてほしい。
 
あなたが悩んでいて一人にしてほしい場合、人を拒絶して考えると思う。
それと同じである。
ひきこもりは、それよりもちょっとだけ長い時間考える時間が必要で、ただそれが部屋の中だけで、だれも入れずに考えたいだけなのだから。

 
 
 
 
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2019-08-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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