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メディアグランプリ

失って得たもの。あなたに力をくれる本! 特選2冊


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:白川とも子(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
 
 
ぜひ一度、読んでほしい本がある。
できれば、できるだけ、朝から読んで、そうして食事をするのも手元に用意して。
ソファ―などに寝ころびながら、最後まで、その本から目を離さないで楽しんで頂きたい特選本たちである。
 
 
私がその一冊の本に出会ったのは、20歳のころだっただろうか。
 
 
17歳で付き合った人は6つも年上で、いつもなんだか、私は子ども扱いだった。今であれば、青少年条例だとかに引っかかって、もしかすると付き合うことすら、犯罪になってしまうのだろうが、当時、周りも、そっと見守ってくれていたし、その人も大人の領分をわきまえて、大事にしてくれていた。
 
 
彼と出かける映画は、高校生の私には少し難しいものが多く、彼が目指している英語の仕事に関係もあって、いつもならそんなに感じない、私たちの「年の差」をふと感じさせるものだった。
いつも待ち合わせは駅の本屋と決まっていた。
 
 
彼はとてもよく、本を読む人だった。
そして、穏やかな人だった。
 
 
「ともちゃんさあ、将来どうすんの?」
「え? とりあえず、大学いくわ。先生、どうすんの?」
「先生って、呼ぶなよ。心臓に悪い感じや」
「俺なあ、たぶん、田舎に派遣されると思うねん。あんまり会えへんなるな、ごめんな」
 
 
ともちゃん、な、本読めよ。
それは、彼の口癖でもあった。
 
 
彼の手ほどきもあり、私はいろいろな本を読んだ。
「あの本もう読んだ? この本は?」
有難いことに、あらすじなんかは言わないのだ。何が良いのか結局わからない本も数冊あったが、彼が本屋で選んでくれる時間が、私たちの「付き合っていた時間」そのものだった。
 
 
そうして、3年ほどした頃だろうか。
彼から「もう、そっちに戻れないかもしれない」と、電話がかかってきた。その一年ほど前から、私たちは遠距離になって、会う時間も、会える日も格段に減ってきていたのだ。
 
 
「ちょっと、送りたい本があるから。良かったら読んで」
 
 
彼はそう言って、チンと電話を切った。
数日後、手元に包みが届いた。それを開けると、一冊の本が入っていた。
 
 
「筒井康隆」
 
 
誰もが知っている作家だ。時をかける少女の、あの人だな。
表紙には、「残像に口紅を」と、書いてあった。
 
 
「もう、会えないから、渡しておきたかった」
 
 
と一言、彼の手書きの小さなメモが添えてあった。
初めての、小さな、恋を失った瞬間だった。
 
 
だれでも、何かを失うことってあると思う。失恋だけでなく、友人や、肉親を失うこともあるだろう。けれども、同時に、何かを得ていることだってあるのかもしれない。
 
 
あれから、30年。2019年の暑い夏が終わろうとしている。
本が好きで、でもちょっと、辛いことがあったんだよな、というあなた。
それどころじゃねーよ。本なんか興味ねーよ、というあなたに。
 
 
お勧めしたい本が二冊ある。失うことの意味も、失ったことも、いったん、考えるのはやめて、本を読もうではないか。あなたに起こったその出来事が、悲しいだけでなく、あなたを一歩、前に進ませるきっかけになるかもしれない。
 
 
残像に口紅を  筒井康隆  <中央公論社> 1989年 初版
 
 
前書きも、あとがきもなく、目次も1ページのみ。
これから何が起きるのか、読者には何もわからない。
読み進めていくほどに、「筒井康隆」という作家のたくらみと、文章、文字への愛があふれていく。ただ、本当に何もせず、ひたすら読み進んでいただきたい。失うものが大きいほど、人は深くやさしくなれるのだと感じる一冊。
「筒井康隆」の究極の実験的長編として、ライティングに興味がある方にはぜひとも一読をおすすめする。
 
 
そして、もう一冊をご紹介したい。去年発行された名僧の一冊。
筒井康隆氏の本が「動」とすれば、「静」がそこにある。
 
 
軽やかに生きる  大徳寺530世 泉田玉堂
<世界文化社>  2017年初版
 
 
京都大徳寺530世、住持。禅の世界での第一人者であり、その知性あふれる文章にファンは多い。禅のことばは難しい、という固定概念を砕く、優しい語り口と解説である。読み進めていくうちに、だんだんと心が静かに、穏やかになっていく気がする。
師の伝える「気持ちを切り換える」とは、どういうことだろう?
 
 
「知足」という章で、
「足りていることを知る。自分の心をねじまげぬことである」
と、師は語る。
 
 
語られる「108の禅のことば」は、これから、しなやかに、軽やかに生きていく心の持ち方と、その行先を示す。米アップル創業者スティーブ・ジョブズをはじめとして、多くのIT企業家が「禅」(Zen)思想を取り入れている事から、その有用性がわかるはずだ。
 
 
失って、得るものはあるのだろうか。私はあると思うのだ。
もし、あなたが大失恋し、もしくは、友人との別れ、肉親との別れを体験していたら。
あなたが生活の中で、何かが消えていき、失っていく経験をしていたとしたら。
 
 
悲しみにフタをしないで、丁寧に、悲しみに向き合うあなたを、そっと、この本たちは、力づけてくれるだろう。
そして、本を読んだそのあと、失ったものを悲しむだけでない、少し強くなった自分がそこにいることに、気づくだろう。
 
 
紙が手にあたり、パラパラと小さな音を立てるのを感じながら、どんどんと読み進めてほしい。手元に愛蔵してほしい本たちである。
 
 
どうか、この2冊が、あなたの力になりますように!
 
 
 
 
 
***

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2019-08-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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