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大人浴衣への道~まずは買いに行きましょう~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岸本苑子(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
 
 
ああ、どうしよう……」
カフェの片隅で、わたしは頭を抱えていた。
せっかく浴衣を買いに来たのに、買えずにすごすごと撤退してきたのだ。
再来週の社内イベントで、浴衣を着ることになったというのに。
 
 
浴衣なんて、大学生のときに買ったのが最後だ。
20代のときはたまに着ていたけれど、ひっぱり出して着てみたら、まったく似合わなかった。
 
 
それもそうか、もうアラサーだもんね……。
 
 
意を決してデパートの催事に来たものの、あまりに数が多くて、目が回ってしまった。
お店の人も、笑顔であれこれ声をかけてくるので、ちょっと怖い。
結局、逃げ出してしまった。
でもイベントまでには、どうにか揃えないと……。
 
 
げんなりしつつアイスコーヒーをすすっていると、からん、とカフェのドアが開いて、浴衣姿の女性が、店内にするっと入ってきた。
 
 
外はうだるように暑いのに、その人の周りだけ、なんだか涼しそうだ。
すっと背筋が伸びた姿に、思わず見入ってしまう。
彼女は席に着くと、扇子を取り出して扇ぎつつ、メニューを眺めはじめた。
 
 
「うわ……おっとな〜」
 
 
わたしは思わず、その人を観察してしまった。
生成りの生地に、紺一色で描かれた紫陽花柄の浴衣。
白い浴衣なのに、旅館っぽくなっていないのは、着慣れているからだろうか。
ぶどう色の帯をキリっと締めていて、結び方がひらひらしていないので、椅子にも寄りかかれそうだ。
 
 
いいなあ、あんな風に着られたらかっこいいのにな。
 
 
自然とそう思った。
そうだ、ああいう感じを目指してみよう。
 
 

志を新たにしたわたしは、助っ人を頼むことにした。
またデパートに1人で行っても、めげてしまう。
心当たりはある。
よく着物を着る友人が、「人の浴衣の買い物についていきたい」と、フェイスブックに投稿していたのだ。
 
 
さっそく彼女にラインをすると、すぐに返事がきた。
 
 
「了解! 予算とかこういう感じがいいとかあったら、考えておいてね!」
「全然わかんないんだけど、予算の目安ってどのくらい?」
「うーん、新品だと、1万から2万、あとは天井知らず。帯は8000円くらいからあるけど、やっぱり1万ちょっとかな。あと下駄も買うなら、履きやすいのは5000円くらいから。慣れれば古着屋さんで安く買えるけど、根気が必要だからねぇ」
 
 
情報の圧がすごい。
 
 

でも、金額的には想定内だ。
相場が分かる人がいると、ぼったくられるかも、という心配がなくていい。
 
 
予定を調整して、わたしは2度目の浴衣ハンティングに臨んだ。
 
 
当日、待ち合わせに現れた友人は、紺地に赤と紫の花模様の浴衣に、白っぽい帯をしていた。
派手な色合わせだけど、子どもっぽくならないのが不思議だ。
つき合わせちゃってごめんね、と言うと、友人はにこにこしながら、
「全然!わたしは今年買いすぎちゃって、もう増やせないんだけど、買い物欲が止まらないんだよね。だから人のを選ぶの、すごく楽しみ」
と笑った。
そして、ちょっと困ったように付け足した。
「全力で褒めちぎるけど、気に入らなかったら、買わなくていいんだからね。でも似合うやつは全力でオススメするから、覚悟しておいて」
やっぱり圧がすごい。
でもこちらも、今日こそ気に入ったものを買いたいから、望むところだ。
 
 
ハンガーに吊るされた色とりどりの浴衣をみながら、わたしは先日見た女性の話をした。
友人はふむふむと頷くと、それは玄人だね、と言った。
白い浴衣を旅館っぽくしないのは、やはりそれなりに難しいようだ。
るみちゃんなら、と友人が口を開く。
「粋な感じに仕上げるなら、やっぱり古典柄で紺地のが似合うと思うよ。背も高いし、白抜きの柄だと最高にかっこいいよね。あと顔立ちもはっきりしているから、淡い色だと寂しくなっちゃうし」
なるほど。
たしかに普段も、はっきりした色を着ることが多いし、紺地なら落ち着くかもしれない。
 
 
アドバイスに従って紺の浴衣を見ていくと、同じ紺でも色味や生地の手触りが違うのが分かってきた。
その中からいくつか気になったのをピックアップしていると、お店の人がすすーっと近づいてくる。
「よろしければ、ご試着もどうぞ」
気おくれしたわたしが答えるより先に、友人が口を開いた。
「お願いします。あと帯も揃えたいので、見繕っていただけますか?」
えっそこまでしなくても、と思ったが、彼女曰く、「浴衣は着てみないと似合うかどうかわからないし、帯もいくつか試さないと、色合いのバランスが難しい」らしい。
 
 
そのあとはもう、店員さんと友人の着せ替え人形だ。
 
 
浴衣1着につき帯を3、4本持ってきては、定番はこれ、かわいい感じならこっち、これだとクール、意外性があるのはこれ……とどんどん取り替えていく。
はじめはよく分からなかったが、だんだんと「映える」感じが分かってきた。
帯の種類が変わるだけで、浴衣の柄が引き立つ気がしたり、全体の印象が華やかになったり落ち着いたりする。
浴衣の柄も、派手だと思って着てみると、意外と地味だったり、地味だと思ったものが、案外顔映りがよかったりした。
 
 
ようやく気に入った組み合わせが、2組まで絞られた。
決め手がわからなくて唸っていると、友人と店員さんがこう言った。
「こっちの方が、顔映りがいいね」
「そうですね、あちらもお似合いですけど、ちょっと意外性がある感じですね」
「ですね、あっちのは2枚目ですよね」
「2枚目ですね」
……2枚目を買う予定はないんだけどな。
わたしは2人の太鼓判をもらった方を、買うことに決めた。
 
 

小物を揃えて、着付けのアドバイスをもらって、「ありがとうございました」の声を受けてお店を後にしたときには、2時間が経っていた。
だいぶ時間がかかったのに、友人は満足げににこにこしている。
わたしも、いい買い物ができて大満足だ。
 
 
ようやくイベント当日。
教えてもらった動画で何度も練習したので、着替えもだいぶスムーズにできた。
変なところがないかを確認して、改めて鏡に向かう。
 
 
紺と白の浴衣は、絞り模様で所々に花柄が染め抜かれていて、粋だけど遊び心がある。
合わせた帯は博多織で、生成りの地に赤のボーダー模様みたいだ。
紺と赤、一歩間違うと子どもっぽくなりそうだけれど、浴衣も帯も伝統的な柄だから、上品にまとまっている。
 
 
あの日見た女性とは方向性が違うけど、これはこれでありだな。
 
 
「るみさん、すてきな浴衣ですね! わたし、そういう大人の女って感じ、すごく憧れるんですよ」
後輩に声をかけられた。
憧れる、なんて言われると、ちょっとくすぐったい。
「ありがとう。大人っぽいのを目指して新調したから、そう言ってもらえると嬉しい」
 
 

「面倒だけど、やっぱり浴衣っていいですね。夏らしさ満載で」
「そうね、着るのが大変だけど、楽しくなるよね」
 
 
来年は、あの2枚目を買ってしまおうか。

 
 
 
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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2019-08-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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