メディアグランプリ

泣けば泣くほど泣けてくる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:野村明子(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
二十歳過ぎで、両親が離婚した。
姉は、大学院卒業後、仕事を見つけ、海外に行ってしまった。
それから十年間、二人きりで暮らした母が、ガンで亡くなった。
海外から駆けつけた姉は、臨終に間に合わず、私はひとりで母を看取った。
その姉も、次の年の出産直後に、病気で亡くなった。
 
それまでは、月並みな自分の人生に飽き、何か事件でも起こらないかと、期待していた位なのに。人生の後半で起こっても良さそうなことが、どんどん起こり、なんだか、人生に置いていかれてしまった。
 
姉の残した甥っ子を、母代りになり育てた。
子育てはあまりに楽しく、姉もしたかっただろうと、思った。
 
何をしていても、ずっと、ちょっぴりだけ、悲しかった。
 
海外で同居し、子育てをともにした義兄と一緒にはならず、帰国した。
私は、今もひとり、東京で暮らしている。
 
そんななか、友人に紹介してもらった人に、恋をした。もう、しないのかもしれないと思っていた、恋をした。しかし、私にとって、恋とは、家族を作ることとイコールになっていたこともあり、うまくいかなかった。
 
別れ話をされた後、最後だからもうちょっとだけ……と彼の家に乗り込んだ私は、あろうことか、泣き始めた。いい迷惑とはこのことだ。もう、この人に好かれようとしなくてもいいんだ、と思ったら、気が抜けて、涙が出た。
 
泣き始めたら、止まらなくなり、号泣し始めた。
 
うわぁぁぁん、とうまく声をあげて泣けるようになってくると、なんだか気持ちよくなってきて、というとおかしな話なのだけれど、号泣ハイというのだろうか。合間に、合いの手のように、鼻水をかむ。ひとしきり泣いて、落ち着いたかと思うとまた、うわぁぁぁん、と始まる。彼は、なすすべもなく、時折、頭をポンポンしてくれたりして、それがまた、涙を誘う。
 
何時間もやっていたような気がするが、ふと気が済んで、私はじゃあねと手を振り、その場を後にした。すでに、失恋うんぬんはどうでもよくなっていた。
 
その後、気がついたのは、人生に置いていかれていた私は、泣きそびれたまま、来てしまったということだった。もちろん、折々に涙は流していたが、皆それぞれに責任を全うすべく一所懸命で、お互いを受け止める余裕がなかったのだ。誰かの胸を借りて泣く、とはいかに大切なことか。
 
そうして、心の老廃物を一掃した私は、泣くのが上手になった。
 
情緒不安定というのとは、違うと思う。何かに感動したら、それが心に届くようになった、という感じだ。通りすがりの赤ちゃんとお母さんが微笑み合っているのをみては、涙ぐみ、本屋さんで自伝を立ち読みをしては、鼻を鳴らし、映画館では隣の人に迷惑をかけまいと、音は出さずとも、予告編からすでに、涙をだらだら流し、という始末だ。ひとり、部屋でワインを飲みすぎて、何かを思い出しては吠えるように泣いてみたり。
 
声をあげて、泣いたことがありますか。
 
泣いたなあ、と思える。すっきりします。心から、気が済みます。気持ちを切り替えたり、何か新しい気持ちを受け入れるためには、心の中にある古い気持ちを、全部流し出すことが大事なのです。
 
深呼吸と同じです。深呼吸をする時、大きく息を吸う前に、ちょっと待った! まず、吐けるだけ息を吐いてから。でないと、大きく息は吸えません。
 
何か、考えたいことがある時も、同じです。まず、頭の中にある考え、断片的なものでも、明日の予定でも、将来の希望でも、全て絞り出して、もう何もない!! となるまで、書き出してからじゃないと、頭の中がクリアにならず、考える準備ができていないそうです。
 
献血が好きな理由も似ています。強制的に、血を抜くと、新陳代謝が良くなる気がして、気持ちがいいのです。
 
もしも、うまく泣き始められたら、状況が許せば、試してみてください。誰か気のおけない相手がそばにいる時なら、最高です。最初は、相手も戸惑うかもしれませんが、泣き終えて、あ〜スッキリした! という様子をみれば、そういうものか、と安心するはずなので大丈夫です。
 
ひとりの時であれば、電気を消して、布団に入ってやるといいかもしれません。電気を消すと、なんだか声をあげるのが恥ずかしい気持ち、は軽減されます。ボックスティッシュとゴミ箱の用意は忘れずに。そして、はぁ、気が済んだ〜となったら、そのまま寝てしまいましょう。
 
思えば、彼には一緒にいた数ヶ月分の責任しかないのに、私のそれまでの一生分の涙を押し付けられたのだから、面倒くさかったことだろうと思う。実のところ、悪かったとも思っていないのだけれど、恋の仕方を思い出させてくれて、さらに、泣き方まで教えてくれた彼には、心から感謝している。いつか、街でばったり会うことでもあれば、苦笑されること請け合いで、きちんと感謝の気持ちを伝えたいと思う。
 
 
 
 
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2019-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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