一人飲みのススメ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:石本琴美(ライティング・ゼミ日曜コース)
「一人飲み出来る女性ってカッコいいよねー」
よく言われるが、私は全くカッコ良く思って欲しい、と思ったことは1ミリもない。
独身、一人暮らし、料理が得意でない。そしてお酒が好き。一人飲みをせざるを得ない環境なのである。そして、それが長く続いているだけなのである。
親や兄弟、周りの人たちは言う。「1人で飲むなんて、みっともないから、辞めたら?」
みっともない?いやいや、私は胸を張って言える。
「一人飲みって、めっちゃ楽しい」
一人飲みは、まるでロールプレイングゲームのように、めっちゃ楽しいのである。
それは、お店選びから始まる。
「今日何食べたいかなー。あー、あっさり和食食べたいなー。いや、でもあの店行くと、女将さんと会話が弾み過ぎてついつい長くなってまうんよねー。明日早いから、サクッと終わらせたいし、あそこの焼き鳥やな」
てな具合で、脳みそをコントローラーの矢印ボタンを操作するかのように、行ったり来たりさせながら、適度にほっといてくれる大将がいる、とても美味しい、リーズナブルな焼き鳥屋をその日は選択した。
一人でしっぽりと飲みたい日、私はその焼き鳥屋に行く。カウンターで、大将との距離は程よい。本を読んだり手帳を開いたりしても、違和感がない店の雰囲気。
いつもは、1人しっぽりと飲んで、1時間くらいでサクッと終わる店だ。
しかしその日は、そうではなかった。
「なんで1人で来てるんですかー?」
その店で初めての出来事だった。
「うーん(めんどくさい……)。だいたい、いつも1人です(が何か?)」
よくあるカウンターの店で1人飲みをしていて、意気投合して、そのまま付き合っちゃった! というような、胸が踊るような感覚は、正直無かった。
声を掛けてきたのは女性。私とは正反対の可愛らしい容姿、モテそうな雰囲気の女性。
めっちゃ酔っ払っていた。
私は「あーあー。面倒くさいのに絡まれたよねー」と思った。
「よく、この店にはいらっしゃるんですかー?」と聞かれる。
「まだ3回目くらいなんです。よく来られるんですか?」社交辞令で答える。
「ゔーん……。どうなんだろう。ねぇ!大将~♡」
私には出来ない高等なテクニックを使う。なかなか手強い敵。悪酔いするぶりっ子が現れたのだ。
「戦う? 逃げる?」脳内コントローラーはAボタン、Bボタンを行き来し、迷っている。
敵は続ける。「横顔がねー、すっごい美人だなーって思ってー!声掛けちゃったー!私、美人が大好きなのー♡」
「はー!?美人ちゃうし……。あぁ、横顔ってね。はいはい。ありがとね!(イラっ!)」
戦うより、逃げるを選択しようとしたその時、
ガタン!!
椅子から転げ落ちる敵。自滅した!!
「も~。飲み過ぎだよ~。どうしよ~。」その子の近くに駆け寄り、困り果てた顔で大将がこちらを見ている。
「その子、おうちどこなんですか?」あまり何も考えずに聞いてみた。
「〇〇の方って言ってたかな」
聞くんじゃ無かったかも……と一瞬思った。
「あ、近くですね。一緒に帰りますわ」
放っておくことも出来たけど、なぜか私はそちらを選んだ。
ベロベロに酔いつぶれたその子のお会計を手伝い、自分の分も支払い、帰る方向が一緒だった私たちは、2人で店を出た。
「もう1軒行こ~」「あかん、酔い過ぎやろ。帰るで。家どこ!?」
初めて会う彼女とそんな会話をしながら、やっとの思いで家まで送り届けた。広めのマンションだが、中に誰も人はいなさそうだった。
「広いね。誰かと住んでるん?」「……。」「独り暮らし?」
「ううん、本当は旦那が居てるけど、他の女のところに行って、ずっと帰ってこないの。」と彼女は泣きだした。
会ったときは敵にしか見えなかった。
なんで私に声掛けてきたんやろう。淋しかったんやろうか……。とせつなくなり、私はそのぶりっ子の頭をよしよし、と撫でた。
それから私の1人飲みロールプレイングゲームに、たまに彼女が助っ人として現れるようになった。それはそれで、楽しい。
あれから、5年。
私は彼女が紹介してくれた人の会社でマネージャーとして働いている。社会的に「役職」という肩書きが付き、自分の人生がレベルアップした。
あの日、もしあの店を選んでいなければ、彼女と出逢っていただろうか。あの日、「彼女を放っておく」を選んでいたとしたら、家まで送り届ける展開になっていなかったのではないか。もし、違った選択をしていたら、たぶん今の私はいない。
1人飲みは、ロールプレイングゲームのようなものだ。
選ぶ店で運命が変わり、出逢う人と時に戦い、そして仲間になり、自分がレベルアップしていく。
1人飲みって、めっちゃ楽しい。
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