深海魚のサバイバル
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記事: めぐみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
これまでの人生で、周りが灰色にしか見えないときを過ごしたことはあるだろうか。
職場において、どうしても納得できない扱いを受けたことがある。会社側からしたらもっともな理由があったのだろう。
そこにいる間は、鉛のような時間と空間があり、なにかに押しつぶされそうだった。
実際、息も苦しかったし、言葉も滑らかに出てこない。こんな自分だったろうか、と自分で自分をも疑う日々だった。
どうしてこんなに重たいんだろう。隙間がない圧を、全方位から感じていた。まるで海底に沈んでいるみたいだった。
地上の圧力は1気圧だが、水中の場合は上からだけでなく周囲の水がかかるから、10メートル深くなるごとに1気圧ずつ増えていく。だから、深海とされる水深200メートルの地点では20気圧となり、1平方センチメートルあたり約20キログラムの圧力がかかっていることになる。
全方位から受ける圧を受けて、まるで自分が深海魚になったみたいだった。海底にはいつくばって、ほとんど呼吸していないかのように息をひそめてそこに座っているような気分だった。いや、本当に、存在を消すように息を潜めていたんだと思う。
一日の仕事を終え職場をでると、ふう~っと軽くなる。海底から、呼吸をしに海面に浮かび上がるみたいだった。そしてまた次の日、深海に潜る。
だけど自分以外の、たとえば隣に座っていた彼女やはす向かいに座っていた彼女はキーボードを叩く指先も軽やかで、電話口で話す表情も豊かだった。他愛ない会話を挟みながらさくさくと仕事をこなし定時には帰っていった。彼女たちはもっと海面に近いところか、地上にいたのだ。
水族館で深海魚を見たことがある。厚い厚いアクリルガラスの向こうに深海魚が横たわっている。砂の色と同じように半分砂をかぶっているその姿を、目を凝らして初めて発見する。子供たちや友人同士やカップルが興味深そうにのぞき込む。発見して歓声をあげた後、すうっと通り過ぎていく。さしずめ、軽やかな彼女たちは水族館の客で、透明なアクリルを挟んで、圧に押しつぶされそうになっている私が深海魚だ。彼女たちは、そんな圧がかかっているなんて知る由もないのだ。
でも、深海魚は水圧をもろともせずたくましく生きている。環境に適応して、アンコウなどは浮き袋をもたない。長い年月をかけて環境に適応し浮袋を持たない体に進化した。また、気圧の変化による膨らみが小さい油で浮袋を満たすシーラカンス、水圧から体を守るために硬い甲羅に身を包んだダイオウグソクムシなどの深海生物もある。
同じように、私もその場所に少しずつ慣れていった。最初は過去と比較して「どうして」「なぜ」から抜け出せないでいた。それが、少しずつ「今」や「これから」、「自分がいまできること」にフォーカスして行動することで、自分の心にも少しずつ変化が起こっていった。
そしていま、深海から海面近くに浮上した日々を過ごしている。
浮上にあたって注意したいことは、急浮上をしないことだ。
浮袋がある深海魚を捕獲する際、急に船から水揚げすると浮袋がパンクしてしまうそうだ。時間をかけて水圧の変化に慣らしていく。
けして無理せず、少しずつ少しずつ、浮上するのがいい。いきなり海面近くで泳いだらパンクしてしまう。水圧の軽さのおかげで暴走して、周りがびっくりしてしまうかもしれない。自分の身体や心の状態を自分で確認しながら、ちょっとずつ、力を出していけばいい。
深海魚にも深海魚の良さがあるからそのままでもいい。「自分らしさは何だろう」と、一歩一歩確認しながら浮上していくのもいい。お仕事のリタイアはまだまだ先にあるし、人生はさらにもっと長い。地上には光や色、音があふれている。家族や周囲の人たちとの関わりも楽しみながら大切にしながら、焦らずに進化していこう。
おっと、深海魚は写真を見るとちょっとホラーっぽいけど、ちょっとは愛嬌のある顔をしています、とひとこと付け加えておきますね。
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