メディアグランプリ

使ってもらうことでしか伝わらない伝統工芸


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:渡邊眞也(ライティング・ゼミ平日)
 
 
「酒器でそんなに味が変わるんですか?」
 
この7~8年よく聞かれてきた質問だ。その度に持ち歩いている自分の酒器を貸してきた。ぐい呑、おちょこ、盃など、お酒を飲む器を酒器と呼んでいる。
 
ワイングラスだと、ぶどうの品種ごと、少なくても赤と白ではグラスが違うというのは一般的に知られている。でも、このタイプの日本酒なら、この酒器という事はない。
 
いろんな店のある東京でも、料理と日本酒、そして酒器を合わせて提供してくれる店は少ない。ミシュランの一つ星を持っている神楽坂の「ふしきの」くらいかも知れない。
 
自分が、酒器によって味が変化することを知ったのは、Dancyuの日本酒特集だった。現ふしきのの店主、当時はまだ会社勤めの宮下さんが酒器の説明をしていた。
 
「酒器の形、厚さによって味が変わるんです。厚さによって、甘さが。その口径の広さによって、酸味が……」と。
 
がぜん酒器に興味が湧いてきた。きき酒師という、ワインで言うところのソムリエのような資格をとったばかりだったので、自分へのご褒美で一つ買った。
 
「1つじゃ違いがわからないよね。勉強のためには仕方ない」といくつも買い始めてしまった。宮下さんの開く「酒器セミナー」にも参加して学んだ。
 
ふしきのがオープンしてからは、何度か通った。オープンの翌年には星を取っていた店で、高級店。そんなに頻繁には行けなかった。一緒に行った友達は、宮下さんセレクトの酒器が、料理と酒に合うことに驚いて、「酒器でこんなに違うんだね!」と感動していた。中には併設のギャラリーで酒器を買ってしまったのもいた。
 
「もっと気軽に体験してもらう事はできないかな?」
 
日本酒を飲む時には、常に酒器を持ち歩き、すっかり変人をこじらせた私は、いつもそう思うようになっていた。
 
ある日、瀬戸の陶芸家さんから、「大くんという、陶芸家がいてね。料理にも日本酒にもうるさい変態なんだ。変態同士、気が合うか、ぶつかるかは分からないけど、紹介するね」と連絡が来た。
 
山田大さん。福井の越前陶芸村に住む、陶芸家さんだった。
 
普通、陶芸家さんも地産地消というか、その土地のキャラクターを出す。佐賀なら唐津焼や有田焼、三重の伊賀焼、岡山の備前焼、岐阜の美濃焼など。福井にも歴史ある越前焼がある。備前焼のような土の風合いがそのまま表現された茶色の焼き物だ。大さんの作品は、「越前ぽさ」ゼロだった。
 
伊賀焼、唐津焼、美濃焼、そして淡路の土で焼いたものなど。
 
「これだ!」と思った。大さんなら、一人でも色んなタイプの酒器を作れる。そして、料理、日本酒にも「変態的に」詳しい。日本酒のコメントが酒に詳しい人でないとわかりにくい時があるけれど、自分が翻訳して伝えれば問題ない。大さんと何度か飲みながら話しているうちに、酒器の厚さや形からだけではない味の変化がある事を教わった。
 
「大さんと組むしかない!」
 
二人で酒器を楽しむ会をやることにした。
 
問題は、会で使う酒器。当然、一度使ってしまうと中古品になるので、ギャラリーやデパートでは売れなくなってしまう。そこで2年前に一度、会にセットで酒器を1つ販売しようとした。でも、参加費が高額になってしまい、人が集まらずに失敗。
 
今年に入って、今回はちゃんと見直してリベンジすることにした。
 
酒器は、飲み比べてもらうために、2個ずつ貸し出し。会場は、おでんと日本酒が美味しいと知られている、学芸大学の件(くだん)にした。大将の川辺さんから、「いつか、鍋ぞーさん主催の日本酒会をうちでやっちゃってよ!」と言われていたからだ。おでん以外にも野菜や魚の料理も美味しい。当日の料理も川辺さんに任せた。お酒は、2本だけ主催者セレクトを特別に持ち込ませてもらうことにした。
 
当日は当初予定していたよりバタバタになった。
 
数日前になって、「一人3つずつ用意したよ!なるべく比べてほしいし」と大さんから連絡があったからだ。
 
当初伸び悩んでいたお客さんは、定員を一人超えて、13人になっていた。到着する度に、一人ひとりが「何これ!」と大きな声を上げた。50個近くの酒器がテーブルに並んでいて、壮観だった。
 
酒器は、黒いもの、ピンクと白のもの、その他青いあれこれの3グループに分けていた。参加者はそれぞれのグループから一つずつ選んで着席した。
 
参加者は、私の飲み仲間、酒スクール仲間で飲食店オーナー、酒販店、通っているジムのスタッフなどの一部、日本酒のプロもいた。
 
会がスタートすると、大さんと自分が即興で、「この料理と酒にどっち合わせる?」、「白いほうじゃない?」、「だよね」と、ヒソヒソ話。意見がまとまったら、大さんから「白い方を使って、合わせてみてください」と案内した。
 
「こんなに味が違うんだ!」とテーブルの反対側から声が上がった。どうやら、違う黒か青の酒器で先に試したらしかった。「よっしゃ!」と心でガッツポーズ。大さんの白には、厚みがあっても、日本酒の味をシャープに変える効果があった。その日本酒のボリュームを少し抑える事で、料理にバチッと合った。
 
全員、満足な感想を持って帰ってくれた。何人かは日本橋三越での大さんの個展にも来てくれた。そして飲食店の友達は、2個、酒器を買ってくれた。
 
本格的な酒器を使う楽しさを知ってもらう試みは無事成功!
 
何とか大さんの東京での個展の度に会を続けていき、日本酒好きに酒器のよさを伝えていきたい。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
http://tenro-in.com/zemi/97290
 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2019-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事