メディアグランプリ

死神は雨の匂いをかぎ分ける?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:緒方愛実(ライティング・ゼミ特講)
 
 
さて、もうすぐ夏も終わるので、怖い話、いや不思議な話をしましょうか?
 
ある日、私は日課のSNS巡回を楽しんでいた。
友人の投稿を発見。とってもすてきなカフェに行ったらしい。
カフェ巡りにハマっていた私は、その投稿に釘付けになる。
美味しい手作りお菓子、こだわりのコーヒー。
だが、一番心引かれたのは、看板犬がいること。
私は動物が大好きだった。小さい頃から、動物関連のテレビ番組、本を眼を輝かせて見ていた。だが、残念ながら諸々の事情で、飼うことは叶わなかった。
私は、仕方なくSNSの投稿画像などのジェネリック動物で心をなぐさめていた。
 
すてきなカフェ、かわいい看板犬。
だが、カフェは大通りから離れた場所にあるという。
私は、かなりの方向音痴。
 
一ヶ月ほど、悩みに悩んで、私はGoogleマップのアプリに連れて行ってもらうことにした。
 
なんとか無事にたどり着いたカフェは、噂通り、いやそれ以上のものだった。
気さくな店長さん、美味しい手作り焼菓子、サイフォンで淹れられたコーヒー、そして看板犬。
彼は初対面の私にもたくさん撫でさせてくれた。まさに至福の時間!
帰ろうとすると、なんと店の外までお見送りに来てくれた。
「また来るね!」
私は、彼のかわいい頭を撫でた。
路地を曲がる間際振り替えると、お座りをしてこちらを見ている彼と目が合う。私は彼に手をふった。
寂しげにこちらを見る彼の瞳が今も忘れられない。
 
一ヶ月ぐらいたったときだろうか、私はその日もSNSを徘徊しいていた。
友人の投稿が視界に入った。
あのカフェのことが書いてある。
何気なく文を追っていた私は凍りついた。
 
看板犬が亡くなった。
あの聡明で、愛くるしい、あの子が死んでしまった。
急な病だったという。
 
「……まただ」
スマートフォンを持つ私の手が震える。
1年前も、同じようなことがあった。その時も、私が訪れた1か月後に看板猫が亡くなってしまっていた。
 
偶然?
いや、私はそうは思わない。
 
動物だけではない、お店自体が失くなってしまうこともあった。
悩みに悩んで訪れた店。
突然気になってふらりと入った店。
久しぶりに訪れた気に入りの店。
 
発動条件は、「私が一人、または主体で来店する」こと。
幸いなことに、確率は100%ではない。
だが、リストアップできるくらいには、ある。
 
私は、死神なのかもしれない。
 
気晴らしに友人と会いたくなった。
そのこは、学生時代の友人で、もう何年も会っていない。特に重要な用事があったわけではない。
ただ、本当になんとなく会いたくなった。
メールを送ると、速攻で返事が来た。二つ返事で会うことになった。
カフェの前で合流して、久しぶりの再会をよろこび会う。
学生時代のお馬鹿な話で盛り上がる。離れていた時間を感じさせない幸せな時間だ。
「最近どう?」
私の一言に、一気に友人の顔が暗くなる。
「実は、最近彼氏と別れたの」
「え?」
「ショックでずっと引きこもってて。久しぶりに人にあった……」
「そ、そうなんだ」
私たちのテーブルの周辺温度が急降下、空気が重苦しくなった気がした。
彼女がポツリポツリと話す言葉に真剣に、うんうんと、うなずき、聞き役に徹した。
「なんか全部話せてスッキリした! ありがとう」
晴れ晴れとした顔で手を降る友人を見送る。
 
これが、たまに起こることなら私も笑えたのだ。
 
本当に偶然か?
 
やはり私は、終わりを告げる死神なのだ。
いや、むしろ、私が物事の死を招いているのではないか?
 
私は、心底自分が怖くなった。
 
「私は死神かもしれない……」
「何?」
 
母が以前から行きたいと言っていたカフェ。私が誘い、楽しい時を過ごしたカフェ。そこがまた突然閉店してしまった。
自責の念に堪えられず、私は震える声で母に打ち明けた。
一通り聞き終えた後、母はきょとんとした顔をした。
 
「逆なんじゃない?」
「逆?」
 
みなさんは雨の匂いを知っているだろうか?
雨が降る直前、空気に漂う、少し重たくて水気と、土の香りを混ぜたような、微かな香りである。
その匂いを外国の方、日本人でも都会生まれの方は感じられないという。感覚的なものなので、言葉で説明しても首を傾げられることもある。
 
終わりの気配。物悲しい憂いの匂い。
 
それに私は引き付けられるのではないかと言う。
 
なるほど、と思った。
雨が降る前のしっとりとした物悲しい匂いをかぎ分けて、私はみんな会いに行っている。
そうならいいのに、とも思った。
 
何かが終わる時、私はその姿を見届けに行く。
友人が悲しんでいる時、心に雨が降ろうとしている時。
私は、さっと駆け寄って、傘をさして上げれたらいい。
ただ、寄り添うだけでも力になれたらいい。
 
お店に行った時は一期一会。
ありがとうございます、おいしかったです。
お店の方が晴れやかになるような笑顔で、お店のドアを潜ろう。
 
あなたもどうか、大切な人がさみしそうにうつ向いて、かすかに雨の匂いをさせていたら、さりげなく傘を差しあげて欲しい。
初めて行ったお店、いきつけのお店でも、お店の人に声を掛けて欲しい。
終わりでなかったとしても、彼らの明日に繋がるかもしれないから。
 
終わりは始まり。
新たなスタートができるように祈るばかりだ。
 
しかし、私はまだちょっぴり恐ろしい。
特に、看板〇〇がいるお店に行くのが。
キーワードが、「私が一人、または主体で来店すること」ならば、
 
「ねぇ、ハリネズミカフェができたんだって! 今度一緒に行こうよ」
「は、ハリネズミ? ……さ、誘って一緒に行ってくれるなら大丈夫だと思う」
「どういうこと?」
「……話せば長くなる」
 
どこかすてきなお店を見つけたら、どうか私を誘って連れて行ってください。
 
 
 
 
***
 
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2019-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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