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彼らが怒るのは

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:村山優(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「そんなのダメだよ」
母親が声を荒げる。
 
「やっぱりか」
心の中でため息をつく。
 
来年から、友人とルームシェアをしようということになっていた。
 
実は、前にも一度、別の人とシェアルームをしようとしたことがある。内見まで行ったけれども、そのときには「まだ自分でお金を払うんならいいけど、学生のうちはやめときなさい」と両親にたしなめられた。そう言われれば、何も言い返せない。その時はおとなしく引きさがった。
 
そして、来年からはついに社会人。引越しや最初にかかるお金もなんとか貯められそうだ。
それなのに、冒頭の言葉。
まぁ、予想はついていた。今までもこういうことがあったから。
「コンタクトは高校になってからね」その言葉を信じていたのに、中学の卒業間際に「来年からコンタクトにする」そう言ったら、めちゃくちゃ渋られたのである。あまりにもムカついた(&私にとってコンタクトにするかどうかは高校デビューに関わるとても大事なことであった)ので、卒業のときに授業参観で渡した感謝の手紙にその旨を書いた。さすがにその場でそんなことをするわたしの執念に圧倒されたのか、その後すぐにコンタクトを買いに行かせてもらえたのだが。
 
もしかしたら、すぐに相談しなかったのが気に食わなかったのかもしれない。
でも、すぐ相談したところで論破されることはわかっていた。前回の反省を活かしてお金の管理や家事の分担の話なんかも固めた上で言ったけれども、案の定ちょっと話したら弾圧されて、とりあえずその場では退散したのだ。だから言わないでいて、親の機嫌がいいチャンスを伺っていたのだ。
 
それが、家族でバーにいたところ両親の東京の友達と再会してしまい、「るりちゃん、ゆう来年東京なんだけど、いい不動産知らない?」なんて母親が言い始めたのだった。
あぁ、もっといいタイミングで言いたかったのに。
 
「あ、、ちょっと待って、、、
あの、、、、ルームシェアするから、、、、、、」
 
母親の顔が険しくなる。
「まだそんなこと言ってるの? まだ、最初からそうなってるとことかならいいし、赤の他人ならいいけど、みかちゃんとそれで仲悪くなったらどうするの?」
 
みかは、中学高校と部活を共にした仲間でありライバルであり同志であり、友人という枠を超えた仲だ。今までも何度も喧嘩をしたし、誰よりも、つまり家族よりも一緒に過ごしていたこともある。彼女がそうもちかけてくれたのは私への信頼で、私がそれを承諾したのも二人で過ごしたら相互にとっての成長になると思ったからなのだ。
しかし、そんなこと、母親には通じない。もどかしい。
「みかはもう友達とかいうのを超えているんだよ……」
そんなこと、言うのも恥ずかしい。弱々しく答える。
「でもみかちゃんと付き合っているわけじゃないんでしょ?」
残念ながら二人とも彼氏がいる。
「だいたい彼氏が来たときどうすんの」
うわぁ、そんなこと親に突っ込まれたくない。
……
残念ながら今日は私がハンドルキーパーで、お酒に酔った母親の声は大きくなっていく。
ああ困った。バーで喧嘩などとんだ迷惑だ。恥ずかしいなぁ。
 
そこに、救世主が現れた。
「まあまあ、ようこちゃん、気持ちはわかるけどさ」
るりさんだった。
 
「私も7月に娘が家でてってさ。『結婚するまでいいじゃない』って言ったの。ひとりじゃ何があるかわからないし。そしたら娘が言うのよ。『お母さん何言ってるの、もうみんな18で家でてるんだよ。当たり前に1人で生活してる。私もう30歳だよ』って」
「それで私は『そうかぁ、そうだよなぁ』ってなったんだけど、旦那は『火事になったらどうするんだ。そこまで考えてるのか?』って。そんなことまで考えるのかってびっくりしちゃった」
「ようこちゃん、もう娘ちゃんも大人なんだよ。もう4年一人暮らしをしているし、友達のことだってわかるよ。ようこちゃんは一人暮らししたことがないから余計不安になるかもしれないけど」
 
そのあと、私の方を向いて言う。
 
「娘ちゃん、お母さんは心配なんだよ」
 
シンパイ。しんぱい。
その言葉はストン、と胸に落ちていった。
 
昔、祖母の家からの帰り道で母親が言っていたことを思い出した。
「ばあばにとって、お母さんっていつまでも子どもなんだよね。もう働いていないのに、いまだにお金くれることもあるし。いつも『気をつけなよ』って心配されるし。お母さんがお母さんになっても、ばあばは私にとってのお母さんなんだね」
 
あぁ、そうか。
私が大人になろうが自分で稼ぐようになろうが結婚しようが子どもを産もうが、私はいつまでたっても2人の”子ども”なんだ。
 
私は説得しようとか言い負かされたくないとかじゃなくて、心配を解消できるように、その心配もわかるよって寄り添いながら話をしなきゃいけなかったんだ。
 
朗らかなるりさんのおかげで空気は柔らかくなり、母親も「確かにそうだね。心配なんだよ」と表情を崩した。
絶縁せずにルームシェアをできそうだ。
 
いつも心配させてごめんなさい。でも、私たち、あなたたちが思っているより大人なんです。
だから、大丈夫だよ。
 
 
 
 
***
 
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2019-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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