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「向かい風」という名の応援


 
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:赤木 広紀(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「お前、そんなことで飯食っていけるのか?」
 
前職を退職した後、先に会社を辞めていた先輩に誘われて会うことになった。
 
会社を辞めてしばらくのんびり過ごしていたが、そろそろ何をするか考えようかと思っていた頃だった。
 
先輩は、すでに講師の仕事を始めていた。
お世話になった先輩からの誘いは、断ってはいけない。
 
もしかしたら退職祝いにご飯でもおごってもらえるかも! そんな甘い期待も湧いてくる。
 
「どうも、先輩、お久しぶりです」
 
「よく来たな、まあ、あがれよ」
 
一緒に勤めていたころの話でひとしきり盛り上がったあと、
 
「ところで、赤木君、これからどうしていくつもりなの?」
 
と、少し心配そうに尋ねられる。
 
「そうですね~ 去年から勉強しているコーチングを仕事にできたらいいなーって思ってるんですよ」
 
と、軽い気持ちで答えたが、先輩から返ってきた言葉は思いもかけないものだった。
 
「お前、そんなことで飯食っていけるのか?」
 
えっ、いや、そりゃまぁ、やってみないと分からないですけど……
 
ショックで、頭が真っ白になった。
そのあと、何を話したか、正直、覚えていない。
 
が、自分の中に沸き起こった気持ちだけはハッキリと覚えている。
 
反骨心、だ。
 
「今に見てろ。絶対に見返してやる!」
 
という「反骨心」を。
 
それまでも「コーチになりたいな~」という気持ちはあった。
でもそれは「なれたらいいな~」という淡い願望だった。
 
だが、先輩の「お前、そんなことで飯食っていけるのか?」の一言で、自分の心に火がついた。
 
「やってやるよ!」
 
本気でコーチになると決めたのだ。
 
それから動きが変わった。
 
「コーチになりたい」と思っていた頃も、「コーチングっていいよ〜」と周りの人に語ってはいた。
 
しかし、火がついてからは「コーチングを受けませんか」と、ハッキリと意思を伝えるようになった。
 
もちろん、断られることもある。いや、そのほうが多かった。
当たり前だ、打率10割なんてイチローでも不可能だ。
 
だが、本気の決意は、どこかで相手に伝わるのだろう。
それから2,3ヶ月の間に、一気に20人を超えるクライアントさんとコーチングの契約を結ぶことができた。
 
この話には後日談がある。
 
コーチングだけで前職の収入を上回るようになったあと、その先輩から、また声がかかった。
 
「なんだ、また説教でもされるのか?」
 
前の印象が悪かったので、正直、行きたくなかった。
だが、先輩は先輩。むげには断れない。
 
「やあ、赤木君、久しぶり。どう元気にしている?」
 
「えぇ。おかげさまでボチボチやってます」
 
「そういえば、前に会ったとき話していたコーチングってどうなの?」
 
「えぇ、おかげさまでお客さんも増えて、仕事になってます」
 
さすがに、あんたの一言にムカついて頑張ったとは言えない。
 
「そうなんだー。いや、実は赤木君の活躍を聞いて、僕もコーチングを勉強したいと思っていてね。どこで勉強したらいいかって教えてくれないかな?」
 
はぁっ、ちょっと待って。
この前、そんなので飯を食えるかって言ってたよね?
何、その手のひら返しは!?
どの面下げて言うねん!
 
と、内心ムカムカしてきたが、やはりお世話になった先輩は先輩。
ここは大人の対応をしようと、努めて冷静に「僕はここで勉強しました」とスクールを紹介する。
 
「おぉ、赤木君、ありがとうね!」
 
お礼を言われたら、「見返してやるぞ!」という気持ちもなんだか失せてしまった。
まぁ、活躍しているねと言われたのは嬉しいけど素直に喜べない。そんな釈然としない気持ちのまま、岐路につく。
 
だがその後、先輩がコーチングの講師として全国各地で活躍しているという話を聞いたときは素直に嬉しかった。その頃には、もうすっかり反骨心の火は消えていた。
 
「お前、そんなことで飯食っていけるのか?」
 
その言葉を聞いたときは、半沢直樹の名セリフ「倍返しだ!」じゃないが、「今に見ろ、見返してやる!」という反骨心しかなかった。
 
そのおかげで、「コーチになれたらいいな~」というフワフワした気持ちが、「コーチになる!」という本気の決意に変わった。
 
その本気の決意で動いたからこそ、コーチングを仕事にすることができたのだ。
 
もちろん、先輩への反骨心だけで頑張ったわけではない。
先に独立した先輩コーチ、一緒に学んでいるコーチ仲間の支えがあったからこそ、頑張ることができたのは間違いない。
 
だからこう思う。
 
応援というのは、温かく見守り、励ますだけではない。
「なにくそ!」と心に火がつくような言葉や関りもまた、一見、応援には見えない応援だと。
 
実際、「人の話を聴くだけで、仕事になるんですか?」「話を聴くだけでお金をもらえるってうらやましですね」などと皮肉交じりに何度言われたかわからない、
が、それでも心が折れなかったのは、あのとき先輩に言われた言葉で、心に火がついていたからだろう。あとはどれだけ言われても火にくべる薪と油でしかない。
 
ダメだしや疑いは、やる気をくじき、心を萎えさせるネガティブなもの、良くないものと一般的には思われているだろう。僕もそれに異を唱えるつもりはない。
そういう言葉は、前に進もうという気持ちを邪魔する向かい風のようにも見えるだろう。
 
でも、あなたは知っているだろうか?
 
飛行機は、追い風ではなく、向かい風によって飛び立つということを。
 
温かい声援、励ましの言葉という追い風も絶対に必要だ。
だが、あなたが本当に飛び立つときに必要なのは、向かい風なのだ。
 
「お前、そんなことで飯食っていけるのか?」
 
そう。先輩の一言は、僕にとって、まさに向かい風だったのだ。
 
その向かい風のおかげで、僕は飛び立つことができたのだ。
 
 
 
 
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2019-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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