メディアグランプリ

山梨の自然が教えてくれたこと


 
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記事:白石明香(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
私にとって第二の故郷はいくつかあるが、最近できた第二の故郷は山梨である。
 
今年の2月まで、縁もゆかりもない土地、山梨に住んでいた。
山梨に住みはじめた頃、私はよく途方に暮れた。特に土曜日。地元福岡では、土曜日の深夜にB級映画の放送がある。それを楽しみに甲府の自宅に戻ってくると……ない! どのチャンネルに合わせてもやってない! 土曜日の深夜をどうやって過ごせばいいんだ。私は途方に暮れた。
 
あるいは休日。県庁所在地らしからぬ、車がないと不便な街、甲府。街に買い物に出ようとするも、交通手段が……ない。バスはお店の集まる駅周辺やモールのある大きな道路にしか走っていない。タクシーでわざわざ行くほどの買い物でもない。私は休日をどうやって過ごせばいいんだ。私はまた途方に暮れた。
 
途方に暮れっぱなしの私だったが、観念して、いつしか静かに過ごす習慣ができた。山梨の夜は、とにかく静かだった。友人がターンテーブルをくれたので、アンプに繋いでレコードを聴いたり、読書に没頭したりした。そんな日々を送っていると、あるとき、山梨の静寂を意外と気に入っている自分に気づいた。音楽を消して、静けさに耳を澄ます。九州と違って、山梨の空気はどこか張り詰めているものの穏やかで、驚くくらい澄んでいる。その静寂に身を置いてみると、時間がピタッと止まって、嫌なことを全部忘れられた。ただひたすらにボーッとしているだけだったけれど、何時間でもそうしていられる感覚があった。そして、この静寂の向こうには、山梨の自然があると、なぜか直感的にわかった。おそらくその夜、私は山梨の土地に受け入れられたのだろう。九州からやってきた山梨のことを何にも知らない人間だったけど、静寂に身を委ねると自然は応えてくれた。
 
それ以来、私は自然と積極的に触れ合った。富士山、河口湖、八ヶ岳、清里、小渕沢。温泉、スキー、登山。いろんなところに行って、自然の遊びを満喫した。九州にはない、爽やかな色合いの緑がまぶしかった。白樺も初めて見た。びっくりするような積雪も。南アルプスの岩肌に美しく積もる白い雪も、映画で見たことしかなかった。いちばん感動したのは、富士山の裾野。近くにある山に登山したとき、後ろを振り返ると富士山の雄大すぎる裾野が広がっていた。視界いっぱいに広がる裾野に、思わず息をのむ。「え?この全部が富士山の一部!?」私の心は震えていた。一緒に登山した友人の声に気づかないくらい、しばらくぼーっとしてしまうほどだった。
 
それから私は自然の美しさ、偉大さに魅了され、すっかり田舎好きになった。友人たちと湖の近くに畑を借りて、野菜づくりをはじめたり、同僚の親戚のぶどう狩りを手伝ってみたり。採れたての野菜、果物は、お店で買うのと違って驚くほどみずみずしく、味も濃かった。収穫したキュウリをそのまま丸かじりしたとき、パリッとした食感とみずみずしさは清々しい気持ちにしてくれたし、長ネギを収穫して、友人たちと鍋パーティしたときには「ネギってこんなに甘いんだ!」と思わず声に出た。大量にあった長ネギだったけど、美味しいからすぐに消化した。自然の美味しさを知ったのも山梨に住んでからだ。
 
山梨には、自然の気持ちよさを教えてもらった気がしている。食べるのも空気を吸うのも静寂を感じるのも、私を清らかな気持ちにしてくれた。お金とは違う種類の豊かさを教えてもらったように思う。資本主義社会に生きている限り、お金は必要だけど、お金では買えない豊かさもあるんだと、大人になって初めて、心の底から理解できた。なにも、見栄を張るための装飾品にお金をかけるのが豊かさではない。静かに読書に更けるのも、鳥の声に耳を澄ます時間も、豊かなのだ。
 
思えば、山梨の自然に受け入れられたと感じたあの夜、私は一瞬、自然と一体化したように思う。今でも、嫌なことがあったり、辛いことがあったりすると、自宅の裏山を眺めながら、ぼーっとする。そして山梨の静寂を思い出すと、不思議と嫌な気分が一掃されるのだった。
 
そんな自然の偉大さに気づいたからなのか、九州に帰ってきた今、自然をウリにしたホテルとの仕事が不思議なご縁ではじまった。これから、山梨で教わった「自然の豊かさ」を多くの人に伝えていきたいと思う。
 
 
 
 
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2019-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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