週刊READING LIFE vol.245

私はまだ、自分を知らなかった。〜初めての秘めフォト体験記〜《週刊READING LIFE Vol.245》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/12/25/公開
記事:Kana(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)


「お姉さん、めちゃくちゃ好みです〜」
モデルのような美人が下着姿の私を見て、ニコニコしている。
こんな異常事態は、人生初めてだ。

これは、天狼院書店「秘めフォト」に参加してきた時の出来事だ。


「秘めフォト」は、自分史上最高にSEXYな写真を撮るフォトサービスである。
リピーターも多く、ハマる人は全国各地の会場を梯子するほどだという。
そんな中毒性のある謎のイベントは、ずっと気になる存在だった。

「秘めフォト」に参加した理由は、ライティングゼミの講義の中で、秘めフォトの話が出た時に「26歳から女性は変わる」と三浦社長がおっしゃっていたからだ。
昔は18歳が女性の美しさのピークと言われていたけれど、今の平均寿命に当てはめて計算しなおすと、ちょうど26歳ぐらいに相当するそうだ。
有名な女優さんも、26歳ごろになぜか色気が出てくる人が多いらしい。

おりしも、私はちょうど26歳。
このタイミングで「26歳から女性は変わる」という話を聞いたのも、何かのご縁だろう。
普段メイクもろくにせず、仕事ばかりしている自分を見つめなおすためにも、ここらで写真をとっていただこうという気持ちになった。

だが、しかし。
秘めフォトというイベントに参加するのは、非常に私にとって勇気がいる行動だった。
なぜなら、「女性であること」は、ずっと私にとってコンプレックスだったからだ。
秘めフォトで女性性を目の当たりにしてしまうのは、少し怖い。


「女性として見られたいのか、見られたくないのか」
これは私の中で根深い問題であり、26年間ずっと葛藤していた。

葛藤の発端は、中高生の頃から始まる。
癖毛で目立たない性格をしていたから、全く男子の視界に入っていなかった。
中学生男子はサラサラストレートヘアの運動部の利発な女の子が好き、と相場が決まっている。
さらには、中学の後半から患っている過敏性腸症候群のせいで、人と関わるのが怖くなっていった。
お腹にガスが溜まりやすく、頻繁にお腹が鳴ってしまうし、トイレも近い。
症状の悪化に伴って、周囲に悪口を言われているのではないかと考えてしまうことが多くなった。
男子だけで、ニタニタ笑って何かを言っているのが、本当に恐怖で仕方なかったのを覚えている。


大学に入ると状況が変わった。
化粧をするようになったのと、大学受験のせいで少し太って胸のサイズも大きくなったことから、急に恋愛対象として見られることが発生した。
「手のひらを返したな」と思った。
中学・高校とずっと見向きもしなかったのに、今さら気をひこうとしてくるのが許せなかった。
容姿でここまで態度が変わるのか、と呆れた。
「こんな馬鹿どもに負けたくない」
理系の学部でたくさん勉強して、成績は学科の誰にも負けなかった。

しかし、女の子として見られたいという気持ちも、同時に捨てきれなかった。
パッとしない中高時代の反動で、飲み会とかでチヤホヤされると少し嬉しかった。
髪を茶髪に染めて、服も白いニットにブラウンのタイトスカートを選び、ゆるふわ女子になっていった。
でも心の中では、見ためだけで寄ってくる人を軽蔑しているから、恋愛とは遠ざかっていた。


大学4年生になり、研究室に配属されると、また風向きが変わった。
頭の良い研究者ばかりの環境で、みんな知的な議論が大好きだった。
勉強は好きだけど、頭の回転の速い人に萎縮してしまって、その場でポンポンと言葉を返せない私は、劣等感でいっぱいになった。
技術補佐員のお姉さんに「なんかトイプードルみたいだよね」と言われて、誉められたではなく貶されたと思った自分がいた。
ゆるふわ女子と思われるのが嫌で、だんだん自分をクールに見せたいと思うようになっていった。
この頃から、髪をバッサリ切って、ショートカットとメガネで過ごすようになった。
「小娘がなんか言ってるわ」と思われたくなくて、早く28歳くらいになりたいと心から思っていた。

大学院に上がってから、研究と並行して就職活動をした。
バリバリ活躍している女性の准教授の先生に、修士卒で就職する旨を伝えた。
すると、驚くべき言葉が飛び出した。
「女性は博士号を持ってないと、軽く扱われるよ」
女性として働くことの難しさを渾々と語られた。

ちょうどその頃、インターンシップ先のメーカーの工場の懇親会で、中堅社員が若手男性社員と私を仲良くさせようとしたり、恋愛トークをしようとしてきたことがあった。
「あぁ、この人たちは一緒に働く人としてではなく、ただ女性として私をみている」
この出来事は、私を落胆させた。
「女性が働くのは難しい、女だからといって舐められてはいけない」という気持ちを、一層強めたのであった。


しかし社会人になってみると、舐められるどころか、逆の現象が起こった。
年代の近い男性陣に必ず1回は、「〇〇大学の院卒でしょ?」と敬遠される。
飲み会で知的なジョークを放った先輩に、「間違ってたら指摘されそうで怖いわ」と言われる。
もう、存在しているだけで圧力を与えてしまっているようだった。

一方で、こんなこともあった。
同期の飲み会で、男性陣は一般職のかわいい女の子とすごく楽しそうに会話をする。
でも、同じ総合職の私に対しては、「総合職なのに仕事が楽で良いよね。代わりたい」と言う。
確かに技術系の仕事だから、健康への影響も考慮して男性しか担わない仕事も多い。
でも、私の持っている仕事や責任の範囲内で、努力していること、辛いこと、悩んでいることがたくさんあった。
「女だから楽で良いよね」で片付けられると、もう何も話せなくなる。

「あ、なんかもう同期の飲み会行かなくてもいいや」

女なのに学歴があって怖い。女だから仕事が少なくてずるい。
「女なのに」「女だから」が煩わしくて、飲み会を放棄することが増えた。
女性としてみないで能力や働きをみてほしかったけれど、いざ同じ土俵に上げられると、それはそれで居心地が悪かった。

その居心地の悪さは、私だけのものではなかった。
私の上司は、笑顔でキラキラ働いている女性だ。
そんな彼女に対して、「女性の管理職を増やしたいから、下駄を穿かされている」「能力以上に役員に気に入られている」といった、やっかみの声を上げる男性社員が多い。
そんなおじさまたちを目にして、モチベーションも落ちていった。


『女性として魅力があることと能力があることは、共存しないのか?』
『舐められないようにすることと、敬遠されないことのバランス取るのって難しすぎないか?』
『男性と対等に関わるのには、高度な技術が必要なのか?』

私はすっかり混乱し、世の中に失望しつつあった。

インターネットにはフェミニズム議論が渦巻いていて、いくらでも読み漁ることができた。
フェミニズムを主張している人たちの間でも意見が割れ、相対する方を攻撃するようなコメントも見られ、読んでも読んでも釈然としなかった。
むしろ混乱した。

「なんかもう、疲れた。考えるのやめよう」

だんだん、自分の女性性と向き合うのが嫌になり、「見た目に気をつかってないですよ〜」と女性らしくなくサバサバ振る舞おうとした。


ところが。


「秘めフォト」で、カメラ越しに見た自分は、全く知らないひとだった。
しっとりとした雰囲気で、伏し目がちに肌を見せているこの女は、いったい誰なんだ。

「あぁ、私は私のことをまだ知らないな」
この思いが胸いっぱいに去来した。

内省的で冷静だから、幼少期から今に至るまで、自分の性格や容姿、コンプレックス、周りの人の評価など、全てきちんと把握していると思っていた。
でも、この写真の中の自分は全くもって知らなかった。
衝撃を受けた。


他の参加者の撮影を見るのもまた、楽しかった。
さまざまな年代、さまざまな体型の人が参加していた。
自分の母がいつも体型を気にしているから、「太っている方や年配の方なんて、脱ぐの恥ずかしいのかな?」と思っていた。
でも、そんな偏見は一瞬で改めることになった。

持って生まれて、さらに生き方が滲み出た体の造形美は、誰も彼も素晴らしかった。
全員が見惚れるほど美しく、全く体型が違うのにそれぞれ唯一無二の良さがあった。
人によって違う表情や仕草に、いちいちドキッとした。
あまりの美しさにため息や感嘆、拍手が漏れるその空間は、最高に楽しく愛に溢れていた。

自分より年上の人の魅力的な体と表情を見て、歳を重ねるのがとても楽しみになった。
決して「小娘だと思われたくない! 舐められたくない!」といった肩肘張った理由からではなく、純粋に。


『世の中には、特別かわいく生まれた人と、普通の人と、残念な人がいる』
『子どもの頃に受けたコンプレックスは、一生モノの傷だ』
『自己肯定感が高い人は、生まれ育ちが違う』
『かわいくなく生まれた人は、努力しなくてはならない』

秘めフォトに参加する前は、こんな刷り込みがずっと頭の中にあった。
友人と「痩せなきゃ〜」なんて会話をして、意図せず刷り込みを強めあっていた。
しかし、撮影された自分の姿、みんなの姿を見ていると、見た目のコンプレックスなんて、ひらりと軽く吹き飛んだ。

「周りの人からの『かわいい』は、もういらないや」

ずっと周りの人からの「かわいい」「かわいくない」に一喜一憂してきた。
それは生き方のブレになり、生きづらさにつながってきた。
でも、秘めフォトを体験した今、自分は自分の美しさを知っている。
もうそれだけで、十分だと思えた。

光と影の狭間で、堂々とポーズをとっている自分。
まるで、「女性であること」から派生した悲喜こもごもの間で、葛藤しながらも強く生きている自分を表現しているようにも思えた。


『私は、女性でしかない』
『どんな女性も、最強で美しい』
『だからついついやっかまれてしまうけど、そんなの気にすることもない。』
『だって、強いから。美しいから』

「女性として見られたいのか、見られたくないのか」を考え続けていた私が、秘めフォトのおかげで、たったこれだけのシンプルな答えに行き着いた。
それは小手先のフェミニズム議論ではなく、紛れもない真実としてただそこに在った。
三浦社長のカメラを通して、その真実を目の当たりにした。

こじらせ女子が黙るほどの、威力のある一枚。
それは、まさに自分史上最高にSEXYな写真だった。

さぁ、次はあなたの番。
カメラの中には、きっと知らないあなたが写っていますよ。
お楽しみに……

□ライターズプロフィール
Kana(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

愛知県生まれ。滋賀県在住。 2023年6月開講のライティングゼミ、同年10月開講のライターズ倶楽部に参加。 食べることと、読書が大好き。 料理をするときは、レシピの配合を条件検討してアレンジするのが好きな理系女子。 好きな作家は、江國香織、よしもとばなな、川上弘美、川上未映子。

 

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2023-12-20 | Posted in 週刊READING LIFE vol.245

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