週刊READING LIFE vol.245

欲望のままに生きよ《週刊READING LIFE Vol.245 あの日、涙を流した理由》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/12/25/公開
記事:松本 萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
自分でもどうしてか分からなかった。
ただただ涙が出た。最初はポタポタと、そのうち拭っても拭っても大粒の涙が溢れ鼻水が止まらなくなり、顔をぐちゃぐちゃにして泣いた。
久しぶりの号泣だった。
 
涙の原因は友人がくれた小田桐あさぎさんの「女子とお金のリアル」という本だ。
 
「なんでその本で号泣するの?」と思うだろう。
そうなのだ。本来涙が出るような本ではないはずなのだ。「号泣する本」というよりビジネス書や女性の生き方について書かれた本であり、感動するシーンや胸に迫るエピソードは書かれていない。
それにも関わらず私は泣いてしまった。
 
3年前の今頃、私は失意のどん底にいた。
子供のころから進んで人前に出ていくタイプではなく縁の下の力持ちが性に合うタイプだったが、そんな私のことを歴代の上司は評価してくれていた。しかし4年前に異動した部署ではさほど評価されず、むしろマイナスととらえられ叱責される毎日だった。
そんな日々の唯一の楽しみが当時好きだった人との他愛のないLINEのやり取りだったが、ある日「結婚することになった」と言われた。
仕事もプライベートもどん底で八方塞がりになった私は、「このままではダメになる」と一念発起しマインドの講座に飛び込んだ。その講座で同期として出会った友人と今でも続いており「オススメの本があるから読んでみて」と小田桐あさぎさんの本をくれた。
 
なぜ私は泣いたのか。
それは「我慢はあたりまえ」の精神で「欲望の無視」を当然のことと思い、自分の人生をあきらめることを受け入れている自分に気づかされたからだ。
マインドの講座で「自分を否定せずありのままでいる」ことの大切さ知り、マインドを整えるワークを習ってずいぶん生きやすくなった。人生のステージが上がったと実感していた。
その時から後退したわけではない。
「さらなるステップアップをしたい」という意識が、小田桐さんの本と出会わせてくれたのだろう。その本をマインドの講座を共に学んだ友人がプレゼントしてくれたというのも、意味深い。
小田桐さんの本は「なんで我慢するの?」「どうして自分の望みから目を背けるの?」「自分の人生をあきらめないで」と私に優しく語りかけてくれた。
 
我慢しなくていいのだ。
「私のしたいことはこれです!」と堂々宣言すればいい。
欲望を持っていいのだ。
夢というつかみどころのない言葉で語るのではなく「わたしはこうしたい!」と宣言すればいい。
自分の人生をあきらめる必要なんてないのだ。
この世界で唯一無二の自分が自分の人生を諦めてしまったら終わりだ。
 
それなのにどうして人はいろいろなことを我慢し、あたかも欲望なんて抱いていないかのように振る舞い、ただただ時が過ぎるのを受け入れるのだろう。
それは多くの人が今までの経験の中でそうしなければいけないと思い込んでいるからだ。
そして私もその一人だった。

 

 

 

「我慢しなさい」
子供のときに何度も親や周りの大人たちに言われる言葉だ。
 
今でも覚えている子供のころのエピソードがある。
両親はともに関西出身で、毎年夏休みは両方の祖父母に会いに行っていた。ある年の夏、父と一緒に父の実家に泊まった後母の実家に行くことになった。父の都合で母の実家にいる日数が少なくなったため「新幹線で一人で帰るから母の実家に長くいたい」と伝えたところ受け入れられなかった。数回頼んだところ「しつこい」と父に怒られ「そんなわがままを言うなら連れて行かない」と言われてしまった。
 
一人で新幹線に乗ったこともあるので問題ないのに、なぜ父に怒られなければいけないのか分からず憤慨していた私を「我慢しなさい。お父さんに謝らないと連れて行ってもらえないよ」と母が諭した。
渋々父に謝り、なんとか関西に行くことができた。ただ関西滞在中ずっとモヤモヤした気持ちをかかえていた。夏休みはまだまだあるのだ。しかも私が行くと祖父母は喜んでくれる。それなのになぜ私は怒られなければいけないのだろう。
今思えば両親は私を心配して、どこもかしこも混んだ夏休みに一人行動をさせないようにしたのだろう。ただ子供のときは親の思いに心を馳せることができなかった。
 
「我慢しなさい」と言う大半の親が子供に意地悪をしているわけではない。人生において我慢することが必要な時があるという教訓を伝えたり、経験値の少ない子供を危険から守るために「これ以上先に進むと危ないよ」と諭しているのだ。
ただそんな親心を子供は理解できず「親の言うとおりにしなきゃいけない」「自分の思いは我慢しなきゃいけない」という思いだけが残り、それがいつの間にか「人生に我慢は必要」という謎のブロックを作ってしまう。
人生における「我慢」と程よい距離感を保って自分らしく生きている人もいるが、真面目だったり不器用だとそうもいかない。なんなら「我慢は美徳」なんて勘違いをしてしまう人もいる。私は後者のタイプで、「幸せに生きるためには我慢が必要」とさえ思っていた。
 
マインドの講座の中でブロックを解除するために「それはなぜ?」と問われる場面が何度もあった。ある日講師に「なんで幸せになるのに我慢が必要だと思うの? それって本当?」と問われたことがある。「あれ? 言われてみたら確かに。なんで必要なんだろう。どうして必要だと思いながら私は生きてきたんだろう」と気づかされた。
いままでの常識を覆す絶好のチャンスだったが明確に答えを出すことができなかった。「なんでだろう」という漠然とした思いを抱いたまま、何かが違うと思いながら自己犠牲にも近い「我慢」をする日々が続いた。
 
そんな私が本を読むことで「我慢する必要はない」と確信したのは、本を通じてお金を使うことへの我慢を止めたら生活にゆとりができ、カリカリすることがなくなることで家族の関係が良くなった具体例を知ったからだ。
お金を使うことを我慢することで人生が豊かになるのであれば我慢すればいい。だが我慢することが心に余裕のない生活の原因でなるのであれば、我慢をする必要はない。
これはお金に限ったことではない。言いたいことややりたいことを我慢する人生が楽しいだろうか。自分の心に蓋をして生きていくのは幸せだろうか。
そんなはずはない。幸せな人生を歩みたいなら、我慢しなくていい。

 

 

 

大学のとき、友人に聞かれたことがある。
「どうしたら幸せな人生を過ごせると思う?」
その友人はいつもニコニコしていて人当たりがよく、そこまで親しくない私にも笑顔で挨拶をしてくれる人だった。群れることなく、だからといって敵をつくるわけでもなく、他者と絶妙な距離を保っている人だった。
唐突な質問に頭がついていかず「わからない」と応えた。友人は「多くを望まないことだよ」と笑いながら教えてくれた。
友人の答えを聞いて「確かに」と納得した。振り子と同じだ。大きく前に動くには大きく後ろに下がる必要がある。大きな幸せを得るということは、大きな不幸がセットになる可能性がある。反対に小さな幸せを望むなら不幸の規模も小さくなる。ジェットコースターのような人生ではなく平穏な日々を望むなら、大きな不幸を招かないよう振り子の振れ幅を小さくすればいい。
 
これも人それぞれだ。
小さい欲求で心を満たされるのであれば無理して大きな欲求を持つ必要はない。ただし小さい欲求を満たしているだけで自分が幸せを感じないならば大きな欲求、欲望を持っていいのだ。
欲望と聞くと何やら不穏な雰囲気が漂うに思われるかもしれない。欲望は「欲する」と「望む」という漢字でできている。自分の人生に必要なこと、豊かになることを望んで欲することは不穏なことだろうか。全くそんなことはない。
 
本の中で小田桐さんは「この世には本当に恥ずかしがり屋さんな人が多いです。自分がやりたいことをするのも恥ずかしい。自分がこれが好きと声に出して言うのも恥ずかしい」と言っている。
自分の世界に浸っているときは「恥ずかしい」という思いは浮かばない。他人を意識し始めると途端「どう思われるか」という他者視線に意識が移り、畏縮してしまう人が多い。もれなく私もその一人だ。
「こんなこと言ったら引かれないかな」
「こんなことしたいって言ったら笑われないかな」
人の目を気にするあまり、自分の欲していることをせずに指をくわえている人生は楽しいだろうか。幸せだろうか。「そんなことはない。そんな人生は幸せじゃない」と少しでも思う気持ちがあるなら欲すればいい。「いつか叶えたい夢」なんて先延ばしをする必要はない。自分が欲して行動しなければいつまでたっても「いつか」は実現しない。夢ばかり語っている人の方がよっぽど恥ずかしい。
「私はこれを欲しています。望んでいます」と堂々宣言しよう。それを笑う人がいるなら、それは自分の欲望から逃げている人だ。行動しているあなたに嫉妬しているだけだ。
 
今思うと私は友人の言葉を勘違いしていたように思う。
友人が本当に言いたかったのは「他人に多くを望まないことだよ」なのではないだろうか。自分ではコントロールできない他人にいくら望んだとて叶うかどうかは他人次第だ。20歳前半にして達観した雰囲気を持ち、同級生から一目置かれていた友人は、相手からの挨拶を待たずに自分から挨拶をしていた。自分がしたいからする、まさに自分に軸を置いた行動をしていた。
 
「自分が主人公の人生を歩みたいですか? それとも他人の人生の脇役として生きたいですか?」と聞かれたとき、あなたはなんと答えるだろう。答えが「自分が主人公の人生」ならば、今すぐ自分の思いを我慢することを止めよう。どんなときも自分の欲望に忠実であろう。
可能性に満ちあふれた自分にこれでもかと期待しながら、欲望を口に出そう。そして実現していこう。

 

 

 

本を読み終わったその日に、友人に「本を読んでいたら涙が出てきた」と告白した。
以前の私であれば「本を読んで自分らしく生きていないことに気づいて泣いた」なんて恥ずかしくて人には言えなかった。自分らしく生きるとはどういうことかを学んだ私は、泣いたことを恥ずかしいとは思わなかった。むしろ泣くぐらい心が動かされ感動したありのままの私を、友人に伝えたいと思った。友人から「十分頑張ってるのに、もっと頑張らなきゃ、努力しなきゃ幸せになれないって思っちゃってたんだね。本を読んで気づけてよかったよ。必要なメッセージを引き寄せるお手伝いをできて嬉しいよ」と返ってきた。自分の胸の内を聞いてくれる友人はとても有り難い。
 
我慢を手放し欲望に素直になることを誓った私は、懸念事項に取りかかることにした。
それは付き合っている人へのモヤッとした思いを解決することだった。二人の関係をもっと深めたいと思っていること、そしてそうなるために確認したいことがあるとストレートに伝えた。
結果別れることになった。
あんなにもハッキリ自分の思いを伝えなければよかったと後悔しないだろうか。毎日「おはよう」「今日はこんなことがあったよ」と来ていたLINEがパタッと来なくなったら寂しくなるんじゃないか。と別れた当初は不安だったが、そんなことはなかった。むしろ「自分の思いを我慢せず相手にきちんと伝えることができた」というすがすがしい気持ちでいる。
 
「我慢せずに欲望に忠実に、人生の舵取りは自分でする」
これが涙を流しながら自分に誓った、私のこれからの人生の指針だ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
松本 萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。千葉在住。
2023年6月に天狼院書店の「人生を変える『ライティング・ゼミ』」に参加し、10月よりライターズ倶楽部を絶賛受講中。実体験を通じて学んだこと・感じたことを1人でも多くの人に分かりやすい文章で伝えられるよう奮闘中。

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2023-12-20 | Posted in 週刊READING LIFE vol.245

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