平凡な日常を七転八倒したくて、私は書いている《週刊READING LIFE Vol.25「私が書く理由」》
記事:牧 美帆(READING LIFE編集部公認ライター)
私はこれまで、「ライティング・ゼミ」「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」「READING LIFEライターズ倶楽部」と自分の話を綴り、何度もメディアグランプリに掲載させていただいた。
自分のことを書いた話に絞って時系列に並べてみると、こんな感じだ。
【10代】
『我が告白に一片の悔い無し』
中学1年生の時に、周りに乗せられて無謀にも同級生に告白し、振られた話。
『佳代ちゃんを大切にできなかった、あの日の自分を殴りたい《プロフェッショナル・ゼミ》』
初めて出来た彼氏を優先して、仲の良かった友達を失ってしまった話。
『あの頃、私たちは17歳と18歳だった《週刊READING LIFE vol.16「先輩と後輩」》』
彼氏と彼氏の親友、なぜ差がついたか。という話。
【20代】
『夜這いして、撃沈しました《プロフェッショナル・ゼミ》』
友達以上恋人未満な男友達の家に突撃して、振られた話。
『それでも私が出産を諦めた理由《週刊READING LIFE vol.4「いくら泣いても、泣き足りないの。」》』
元気な子を妊娠して出産するのって、奇跡だよねという話。
『彼と別々にお風呂に入った日《プロフェッショナル・ゼミ》』
好きな人にべったりではなく、一人で楽しむことも大事だと今更気づいた話。
さよならの北海道旅行《週刊READING LIFE vol.9「人生で一番思い出深い旅」》
私はこれで結婚やめました、という話。
【30代】
本を出したら、奇跡が起こると思っていた《プロフェッショナル・ゼミ》
まったく売れませんでした! という話。
『父を人生最期の「お風呂」に入れた日《プロフェッショナル・ゼミ》』
湯灌について書いた話。
「タッチ」に憧れてキャンピングカーを購入した《プロフェッショナル・ゼミ》
今のところ、唯一今の夫と子どもがメインの話。
改めて、我ながら平凡な人生だと思う。
なんだか男に振られてばっかりだし。
彼氏にかまけて女友達がおろそかになるのも、まあ10代ならありそうな話だ。
今時、バツイチも珍しくない。
唯一、ちょっと特殊かもと思うのが、本を出すきっかけにもなった、自分の20代の妊娠経験だ。
しかし、誰だって人生において、特殊な経験をすることの1つや2つあるだろう。
誰でも一作は小説を書けるというではないか。
書いたものの、自分が未熟で掲載に至らなかったエピソードもいくつかある。
一度不掲載になったものの、視点を変えて書き直して掲載に至ったエピソードもある。
まだ書いていないエピソードや、出していない人もいる。
今後、週刊READING LIFEのお題とうまくマッチすれば、書くこともあるかもしれない。
しかし、それらが既に掲載いただいたエピソードと比較して特殊かというと、多分、変わらない。
「この人、よく書こうと思うよね」
なんて感じる人もいるんだろうなぁと思う。
誰にでも、人生で衝撃を受けた言葉、心をえぐられた言葉があるだろう。
私にも、15年以上心に引っかかっている言葉がある。
金原ひとみさんの『蛇にピアス』という小説を、ご存知の方は多いだろう。
2004年の第130回芥川龍之介賞を受賞した小説だ。
金原さんは20歳、『蹴りたい背中』の綿矢りささんは19歳と、史上最年少でのダブル受賞も話題になった。
『蛇にピアス』は、19歳の主人公が、蛇のように舌を2つに割った男性と知り合い、自分も舌にピアスを入れてそこからどんどんエスカレートしていったり、その舌を2つに割った男とも、二人の施術をした彫師の男とも関係を持ったり、という話。
どの雑誌かは忘れてしまったが、当時図書館で手に取った小説誌に、『蛇にピアス』のレビューが掲載されていた。
そこにはこんなことが書いてあった。
「平凡な日常を七転八倒する小説が多い中、この『蛇にピアス』は……」
それはもしかしたら、「平凡な毎日を七転八倒する小説」だったかもしれない。
細かい文言や、誰が書いたレビューなのかは、覚えていない。
とにかく、「平凡」と「七転八倒」のワードにショックを受けた。
要は、大した事のない出来事を無理やり膨らませて大げさに書いているだけの小説が多い中で、『蛇にピアス』の独特の世界観が新鮮に思えたというレビューだ。
そして、私が趣味でほそぼそと書いていた小説は、まさにそんな「平凡な毎日を七転八倒する」話だった。
いや、七転八倒すらしていない。ちょっと転んで擦りむいただけで泣きわめく、幼い子どものような拙い小説。
ただでさえ、「同年代より少し下の女性が、2人揃って芥川賞を獲った」というニュースだけでも、心がざわざわするというのに……。
23歳だった私は、平凡な日常から抜け出せば小説を書けるんじゃないかと短絡的に考え、少しだけアンダーグラウンドな世界に片足を突っ込んでみた。
しかし、すぐに自分には無理だと気づき、平凡な日常に戻っていった。
そして、趣味で小説を書くのをやめてしまった。
それから約15年。
現在、私はベンチャー企業に勤めている。
先日、あるイベントのスタッフをするために、地方に出張した。
仕事でとある団体と一緒に1年間プロジェクトを進めていて、その集大成ともいえるイベントだった。
私は最初、そのプロジェクトをメインで担当していたが、当初の想定よりイベントの難易度が上がったこと、そして、私が東京や他の地方にいる利害関係者の人たちと、うまくリモートで調整できずにミスをしてしまい、途中でメインの担当を外れることになってしまった。
そのイベントも当初は行く予定がなかったものの、人手が足りずに行くことになった。
イベントは盛況のうちに終わった。
帰り際、私は自分の会社の社長と、団体の代表の方に声をかけられた。
「牧さん、代表の方が、牧のことが好きなんだってさ!」
「そうなんですよ、私、牧さんのファンなんですよー」
社長と代表はイベント後、打ち上げをしており、別の仕事があった私とは別行動だった。
戸惑った。
私は、このプロジェクトに、全然貢献できていなかった。
好かれる要素が、思い浮かばなかった。
お礼を言いつつも、どこか半信半疑だった。
その場で理由を聞くことが、できなかった。
数日後、社内会議でそのイベントの振り返りを行った。
「そういえば、代表の方が牧さんのファンだって言ってましたよね? あれ、何だったんですか?」
社員の一人が、そう社長に尋ねた。
社長は、私に向かって、こう言った。
「ああ、あれね。
牧さん、天狼院で私小説みたいなの書いてるじゃん。で、Facebookでシェアしてるよね。
あれを読んでるんだって。
それで、あんまりSkypeとかでしか顔を合わせることはなかったけど、親近感持ってたんだってさ。
やっぱり自分の想いを文章で発信するのって、大事だなと思ったよ。」
その話を聞いて、涙が出そうになった。
自分にも価値があるんだって言ってもらったような気がした。
私が綴るのは、平凡な日常だ。
平凡な日常を、ただ七転八倒し、もがいているだけだ。
世の中には、もっとスマートな生き方もあるし、非凡な日常を面白く書く人だっている。
平凡な日常も、切り取り方によって、光が当たり、価値に変わる。
まるで宝石のように。
その切り取り方、磨き方を、私はライティング・ゼミやライティング・ゼミ プロフェッショナルで教わった。
平凡な日常を七転八倒したくて、そしてそこに埋もれる価値を伝えたくて、私は書いている。
❏ライタープロフィール
牧 美帆(READING LIFE公認ライター)
2018年にライティング・ゼミと並行してプロフェッショナルゼミの最終である8期を受講。最速で修了し、READING LIFE公認ライターとなる。メディアグランプリやWEB
READING LIFEでは主に自らのしょっぱい恋愛経験を最大化してなんとか情緒に訴えかけようとするエッセイを投稿しているが、新たな方向性を日々、模索中。Microsoft Official Trainer。趣味はキラキラネームの研究。/blockquote>
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