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週刊READING LIFE vol,114

原稿用紙3枚で音を上げていた私が、毎週記事を書くようになった理由《週刊READING LIFE vol.114「この記事を読むと、あなたは○○を好きになる!」》


2021/02/08/公開
記事:今村真緒(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
皆さんは、文章を書くことが好きだろうか?
文章といえば、読書感想文などの作文を、夏休みの宿題ということで書かされることも多かったと思う。
私は、この宿題が一番苦手だった。もちろん得意な人もいるだろうが、400字詰め原稿用紙に3枚程度書いてくるようにと渡されたそのマス目を眺めては、どう書いていいか分からず途方に暮れていた。
そして、結果的に夏休みの最終日まで持ち越して、始業式の前の晩に寝る時間を削って何とか書き上げるというのが常だったのだ。
 
本を読むのは好きだった。手紙を書くのも好きだった。
それなのに、読書感想文や何かテーマのある作文は、私にはハードルが高かった。
ちょっとひねくれた子どもだったのかも知れないが、読書感想文やテーマ付きの作文には、大人がこう書かせたいのではという意図が透けて見えるような気がして、素直に書くことが憚られたからだ。
自分の素直な気持ちや感情を記せば良かったのに、どこか優等生的な書き方でなければいけない気がしていた。
こう書いた方が良く見えるのではないか? 評価が高いのではないか?
あくまでも私が気にしていただけに過ぎないのだが、自意識過剰なまでに自分に鎧を被せて書く文章など楽しいはずがなかった。
 
そんな私が、現在、天狼院書店のREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部と言う場所で、毎週記事を書くという課題に励んでいるのだから人生分からないものだ。
 
私は、ひょんなことがきっかけで天狼院書店という一風変わった書店を知った。
当時入院していたベッドの上で、私はこの書店と出会ってしまった。
横になるばかりの日々で、雑誌も読み終え、見たいテレビ番組もなかった私は、暇つぶしにスマホでネットサーフィンをしていたときだった。
突然、天狼院書店の「人生を変えるライティングゼミ」という宣伝文句が目に入ってきたのだ。
 
実は、人生を変えるというキーワードに引っかかったのには訳がある。
病を患い、20年以上勤めた職場を去ることを考えていた私は、これから先、自分に何かできることはないかと思案していたところだった。
まさに第2の人生を歩まなければと思っていたから、「人生を変える」という言葉にピタッと引き寄せられてしまったのだ。
 
「人生を変える」というのはパワーワードだ。
今の境遇から脱却して、どこか明るい未来を目指せるような前向きな魔法の言葉だ。新しい自分との出会いが待っていると、期待させてくれる言葉でもある。
忙しい日々の中、自分の現状に満足感や充実感を感じている人はどれくらいいるだろうか。体だけはてんてこ舞いで、精神的に充足感を得ることはなかなか難しいように思う。
 
当時、フルタイムで仕事をしながら家事育児をしていた私にとって、「人生を変える」ことを考え付くことすら、思い至らなかった。
忙しすぎると、目の前しか見えなくなって周りの景色はぼやけていってしまう。次から次に仕事をこなすことが最優先され、いつも臨戦態勢で過剰にアドレナリンが出ている状態だ。
そんなことを長く続けていると、夢とか希望とか、本来人間にとって道標になるものが置き去りになってしまうのだ。
そのうち、何のために働いているのか、何をしたくてそうやっているのか自分でも分からなくなってしまう。自分の心の声には耳を傾けないまま、優先順位が高いとされることを終わらせるので精一杯だからだ。
 
手術後に体調が落ち着いてくると、リハビリのほかには何もすることがなかった。思いがけず久々の休暇をもらった形になった私は、長い間ほったらかしにしていた自分の心を見つめる時間をようやく得ることができた。
ところが、である。
いざ、自分の心を覗いてみて愕然とした。
トントンと心のドアを叩いても、返答がないのだ。まるで居留守を使われているかのように、存在しているはずの本音が見えてこないのだ。
「何がしたいの? どう思っているの? どう生きていきたいの?」
自分の心に矢継ぎ早に質問してみても、返ってくるのは無言の沈黙ばかりだ。私は、焦り始めた。
自分で、自分の気持ちが分からないなんておかしいじゃないか。これはヤバいのではないか?
どうして自分がやりたいことを即答できないのだろう? どうして自分が好きなものをすぐに答えられないのだろう?
悶々として数日過ごした。私には、何かが欠落してしまっているのではないかとまで疑った。
 
自分の気持ちを眺める作業は、ある意味、新鮮で慣れないものだった。久しぶり過ぎて、どうやったらいいか迷っていた。こわごわとガラス細工を扱うように端っこから触れていると、その時私には蘇ってきた記憶があった。
 
ああ、この感じ、作文だ。
子供の頃から苦手だった作文を書いている時と、似た感覚だった。書かなければならないのに、書けない。どう書いてよいか分からない。読み手の視線を意識しすぎて固まってしまい、素顔を素直に晒せない。
思えば、それだけ長い間、自分の想いに蓋をしていたのだろう。麻痺してしまった私の本音は、
完全に心の中で迷子になってしまっていた。見て見ぬ振りをして進み続けたツケは、思いのほか大きかったのだ。
 
やらなければならないこと、やるべきことに追い立てられて走り続けた年月も、確かに私の人生の一部だ。
けれど、改めて別の道を行くのならば、今度は違う走り方をしてみたい。人生のマラソンの中で、自分のペースで走ることができる靴や途中で寄ることができる給水所、あるいは目指したいゴールなどを少しずつ焦らず見つけながら進んでいくことも面白いのではないだろうか? 自分を追いつめていたものから自由になったとき、隠れていた自分の気持ちを見つけられるのではないか?
退院の日が迫ったある日、リハビリの自転車に乗りながら、ようやくそんな考えがよぎった。
 
「人生を変えるライティングゼミ」は、それからも頭の片隅に居座っていた。
年度末の退職まで何とか走り切った後、家にいることが多くなった私は、再び天狼院書店のホームページにアクセスしていた。自分がやりたいと思ったことにチャレンジしてみようと、退職後少しずつ心のリハビリを始めたばかりだった。
ライティングゼミの申し込みボタンをクリックしようと試みる度に、惹かれているならやってみればいいのにと思う自分と、できないのではないかと囁く自分との間で葛藤が続いていた。そもそも作文が苦手な自分にできるはずがない。
けれど、説明できない何かが私の背中を押したがっていた。
 
迷いに迷った挙句、私は勢いをつけてライティングゼミの申し込みボタンをクリックした。
もう後戻りはできない。講義を真剣に聞いて、全16回、毎週2,000文字の課題を全提出することだけを目標に突き進むことを決めた。
ライティングゼミの課題は、決まったテーマがなく自由に書いてよいというものだった。そうなると、今度は何を書いてよいか分からず悩む日々が続いた。
けれど、課題の締め切りはすぐにやってくる。書きたいことと、思うように書けない自分の文章力のギャップに苦しむ日々だった。
 
ある時はワンコの散歩中に、またある時はお風呂の中で、私が思っていることを言い表す表現はないものか探すことが日常になった。
思いついた言葉はメモをしておかないと、すぐに飛ばされてどこかへ行ってしまう。テレビで、コメンテーターが語っている言葉が気になるようになった。本を読んでいても情景の描き方が素晴らしい文章に出会うと、以前よりももっと感動するようになった。
眠っていた心のマグマが、むくむくと湧きあがり、私のアンテナに引っかかってくるものが色鮮やかになってきた。
 
そして、書きたいものをどう表現するか考えたとき、私がどう思ったのか、どうしてそう思うように至ったかを深掘りする必要が出てきた。
今までの自分の価値観や出会った出来事の数々を心の底からすくって見つめ直してみると、本当はこんな風に思っていたのか、こうしたかったんだなということが改めて露わになった。自分の心を因数分解してみると、考え方の癖のようなものがあったことにも気づかされた。
その時にもっと自分の素直な心と対話できていたら、違った結末になっていたこともあったはずだ。けれど、過去を悔やんでも変えようがないし、そこから何を学んで自分なりに活かすかを考えていくしかない。
 
自分の心と向き合うことは、セラピーだった。
自分の感じたことを、良い悪いで判断せずただ受け入れる。ありのままの気持ちを認めて、そこからどうしていきたいかを、周囲のことはひとまず置いておいて考えてみる。
一段ずつ階段を昇っていくように、ゲームのワンシーンをクリアしていくように、区切りをつけて次の段階へと進んでいく。
すると、妙なプレッシャーから解き放たれて、自由に考えることを楽しむ自分を見つけることができた。
自分が感じていることを、これだと思う言葉に乗せることができたとき、ジクソーパズルの最後のピースがはまったように浄化されたような気持ちになった。
そんな作業を繰り返すうち、拙いながらも文章を書くことが面白くなってきた。
今度は誰かに書かされているわけではない。自分が書きたくて書くのだ。
ようやく、自分を解放していいという許可を自分で出せたのだ。
 
書くことは、自分の心との対峙である。向き合うことで、自分の嫌な部分を見ることがあるかもしれない。しかし、真摯に自分と対話をしていると、そういうところも丸ごと認められるようになってくるから不思議だ。もちろん悪いところは反省するし、改善していくことも必要だ。
前に進むために余計なものを削ぎ落としてみたら、心が軽くなった。身軽になった心で見る世界は、以前よりも温もりを感じられるようになった。
 
そして、私は、「人生を変えてくれた」ライティング・ゼミを終了した後、このREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加して、今度は5,000字を目指して毎週テーマに沿って記事を書いている。原稿用紙3枚でため息をついていたことを思えば、格段の進歩である。
 
書くことはまた、癒しや心の整理にもつながると思う。
不安なことや人に言えないことは誰しもあると思うが、書いてみて様々な感情を反復してみると、ちょっと客観的な視点に変わってくる。
「嫌だ!」と思っていたことが、「そういうこともあるよね」と思えたり、なぜか我慢していたことをおかしいと感じたりする。逆に、嬉しいことや楽しかったことは、書いてみると再びその時の感情が蘇ってきて、一層感動を深くしてくれるのだ。
文章を書くときは、自分の心を整理して考えなければならない。知恵の輪を解くように、絡まった思考を解きほぐしていく作業だ。
だからこそ、明確に自分の気持ちが見えてくる。真っ白に覆われた一面の雪景色にくっきりとした足跡が見えるように、それが何であるかが分かるのだ。
 
ぜひ、書くことで自分の心を味わってみてほしい。
例えば日記でもいい。誰かに見せなくてもいいから、心の中の対話という、一人キャッチボールをやってみると、きっと何かが生まれてくるはずだ。
書くことの楽しさに目覚めると、それがあなたの翼となって、この不安定な世の中で生きていくための良き相棒となってくれると私は信じている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
今村真緒(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県出身。
自分の想いを表現できるようになりたいと思ったことがきっかけで、2020年5月から天狼院書店のライティング・ゼミ受講。更にライティング力向上を目指すため、2020年9月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部参加。
興味のあることは、人間観察、ドキュメンタリー番組やクイズ番組を観ること。
人の心に寄り添えるような文章を書けるようになることが目標。

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2021-02-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol,114

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