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週刊READING LIFE vol.132

サーバーになって初めて理解したチップという習慣《週刊READING LIFE vol.132「旅の恥はかき捨て」》


2021/06/29/公開
記事:武田かおる(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
海外旅行に行ったとき、文化の違いや言葉の壁で戸惑うことがある。それも旅行の醍醐味と言えばそうなのだが、できればいろいろなことをスムーズに行えたら旅行が一層楽しくなることは間違いないだろう。
 
欧米諸国においてレストランで食事をした際、最後にチップを支払うという習慣がある国が多い。これは日本にはない習慣で馴染みがないため、チップの渡し方や金額などどうしたらいいのか迷うことがあるのではないだろうか。
 
私はアメリカに12年間ほど住んでいるのだが、最近になってやっとレストランでのチップという習慣に慣れてきた感じがする。ただチップ事情について、最近変わってきたこともあるように見受けられるので、それらを主観的に書いてみたいと思う。

 

 

 

まだこちらに引っ越ししてきて間もない頃に、あるレストランで働いたことがあった。オーナーの方を知っていたので、「働きたい」とお願いしたところ、ありがたいことにアメリカで仕事経験のない私を雇ってくださることになったのだ。
 
仕事は、ランチタイムの時間で、サーバー(接客)として働いた。お給料はチップがベースになるので、お客さんが多い日は収入は多くなるし、少ないと少なくなるし、チップが多い日と少ない日でも日給が異なる。
 
常連のアメリカ人のお客様は、私の拙い接客や英語でも結構良いチップを払ってくれる事が多かった。カードでの支払いのときは伝票をチェックしないとわからないが、一方で現金で払われる場合は、テーブルにチップを置いて帰ったり、「お釣りはすべてチップに」とおっしゃるお客様もいるのでチップの金額が露骨にわかる。
 
少し慣れてきた頃に知り合いが食事にやってきた。オーナーの方もその人たちのことを知っていたので、オーダーしていないものをサービスで知人に出されていた。私も知人ということもあり、いつも以上に気を使って接客したつもりだった。
 
最後、ランチタイムが終わり、チップをクレジットカードの機械に打ち込む作業があった。普段いちいち一人一人いくら払ったか注意を払わずに機械的に数字を入力していたが、たまたま知人がランチタイムの最後の客だったということもあり、その知人が払ったレシートに気がついた。そしてチップの金額を入力するのに数字を見て驚いた。アメリカでは、レストランで食事をしたときのチップは飲食代の総額の課税前の金額15%から20%と言われているのだが、最低の15%がレシートに記入されていたからだ。
 
「私の接客になにか不満でもあったのかな。そうだとしたらなんだろう。オーナーの方も特別にオーダー以外のものを出してサービスしていたのに……」と、とっさに不安やネガティブな気持ちになった。食事に来た知人に確認することもできないし、オーナーにも言うこともできないのでぐるぐるとしばらく考えた。
 
その時に、はっと私がイギリスに留学中にレストランに行き、一緒に行ったコロンビア人の友人が言った一言を思い出した。

 

 

 

アメリカに移住する数年前、私は1998年〜1999年にかけてイギリスに留学した。当時滞在していたロンドンで、友達のコロンビア人とイタリアンのレストランで食事をした事があった。
 
私は貧乏学生だったので、食事のほとんどが自炊だった。そのため、レストランに行くのは久しぶりだった。やはり、チップのことがよくわからず、食後チップを計算する際に、ぼそっと友人に聞いてみた。
 
「チップはいくらにしたらいいかな?」
 
「食事料金の15%でいいんじゃない?」
 
と彼女は迷わず言った。イギリスでは食事料金の10%から15%がチップの相場になっているので、飲食代の15%を支払うということはチップの最高額を払うということだ。私は、習慣や文化をよくわかっていなくて、経済的に余裕がなかったこともあり、
 
「10%でいいんじゃないの?」
 
と答えた。すると、彼女は
 
「それでは接客してくれた人に対して喧嘩を売ることになるわよ」
 
と私の言葉に半ば困惑しながら言った。
 
私はただお金を節約したいだけの気持ちで最低のチップ額でいいのではと考えてしまったのだが、当時の私は、サーバーの報酬はチップが大部分を占めていることや、良いサービスを受けたらきちんとチップとして支払うべきだということまで気がついていなかったのだ。
 
コロンビアでもレストランではチップを支払うことが習慣になっていて、彼女は大学を卒業したてで当時私よりも数年年下だったが、チップという文化に慣れていた。だから友達の言うことは最もだった。
 
特に接客に問題があったわけではないのに、チップの相場の最低金額しか渡さなかったら、サーバーは私がその接客に不満があったと捉え、そのサーバーは困惑したり、「頑張って接客したのになんで最低金額なのか」と、私の友人が言ったよう怒りさえ感じるかもしれない。そういうことをコロンビア人の友人は教えてくれたのだ。
 
そして数年後、私はアメリカに来て初めて自分がサーバーになってみて、チップが収入のベースになっていてることを知り、イギリスでのレストランでの経験を思い出し、やっとチップを受け取る側の気持ちを自分ごととして理解できたのだ。
 
今、またこの記事を書くにあたってインターネットでチップについて検索してみたところ、「ランチなら10〜15%、ディナーなら15%〜20%が相場」(1)と記載されているサイトもあるので、知人は、私の接客態度に不満があったわけではなく、ただそういったサイトから知ったチップ額に習って支払っただけの話だろう。だが、サーバーとして働いた経験がある今では、チップの習慣を形式的に捉え、サービスの内容に関わらず最低限のチップを一律で払うことにに対して私は疑問に感じている。

 

 

 

アメリカに来て、自分もサーバーになったりした経験から、自分がレストランに行く際、いいサービスや接客を受けたらときに20%以上のチップを支払うこともある。またサービスに不満があった場合は、範囲内で少し低めの金額を払ったこともあった。人数が多いグループのときはサーバーの方も大変なので相場よりも高めに支払うこともある。
 
その他に、空港やモール内でのフードコートでの食事やファーストフード、スターバックスなどのコーヒーショップではチップは不要だが、時々チップを入れる箱が置いてあったりする。その時は、チップを入れてもいいし、入れなくてもいいと思う。チップを払いたい場合、お釣りが出た際のお釣りの一部をチップ用の箱やカップに入れる事がよくある。カードでの支払いのときにチップの額を記載するところにチップ額を数ドル記載してもいいし、チップを払わない場合は0(ゼロ)と記載してもよい。
 
また、食事の配達をお願いした場合、例えばピザのデリバリーの際は、ピザの代金にチップは不要だが、配達の方に数ドルチップをお支払いするようにしている。
 
テイクアウトについては、基本的には接客を受けていないのでチップは不要だと今まで思っていたが、最近になって、様子が変わってきたようなことを肌で感じている。
 
昨年からのコロナ禍で飲食店は営業に制限がでたりし、経営にも影響が出ていることが多い。特にレストラン内での食事に制限もあったので、サーバーをしている人にとっては経済的に影響を受けた人が多いだろう。
 
我が家も昨年3月からコロナになって以来レストラン内での食事をまだしていないが、テイクアウトは時々している。私自身も毎日食事を作るのは疲れるし、地元のレストランをサポートしたいという思いからだ。(コロナの現状はワクチン摂取が始まって以来改善しているので、近日中にレストランには行っててみたいと思っている。)
 
アメリカ人の夫が仕事帰りにテイクアウトの品を取りに行くことが多い。以前はチップを支払うとしても数ドルだったが、お店をサポートしたいという思いで最近はチップを多めに支払っているようだ。
 
テイクアウトも、従来のやり方で電話でオーダーして店先に取りに行くときに精算するやり方もあるが、最近ではオンラインでオーダーし、支払いも一緒にオーダー時にオンラインで済ませてしまう方式をとっている飲食店が増えてきた。この方法だと店先で支払う必要がないので、キャッシュレスで店員さんとのやり取りも最小限にできるので楽だ。
 
その方式で少し驚いたのが、オンラインで最後に支払う際に必ずチップ支払いのステップがあり、10%、あるいは15%、20%など選択するようになっていることだ。よく見ると、チップ額でその他という項目があり、手入力でチップ額を自由に入力できるようにはなっていて、0(ゼロ)と入力することも可能だ。だが、スマートフォンでオーダーしているときなど、ワンタップで済ませられることもあり、お店のサポートをしたいという思いで、10%のチップを支払うことが多い。
 
コーヒーショップなどでも似たようなことがある。特に最近キャッシュレスが進み、支払画面の最後でチップについて選択するように聞かれることがある。このときは、0(ゼロ)という選択肢があるが、やはり飲食代金の10%、15%、20%というように選択することもできる。コロナ前はコーヒーを買うだけなら、0(ゼロ)を選択する事もあったが、コロナ禍、また現在に関しては、お店や飲食業で従事している人をサポートしたいという思いで個人的に10%ほど支払うこともある。
 
このように、テイクアウトやセルフサービスのコーヒーショップでもチップを多めに支払う流れはコロナが終わっても残るのか、そのあたりはわからない。ただ、コロナ禍でチップを通じて見えてくることは、私達にとってただの慣れない異国の文化や習慣ということではなく、コロナで大変な時期でも飲食業で働いている方々やサーバーの方へお礼や頑張ってほしいという気持ちを、客である我々がチップで表現しているということである。

 

 

 

海外旅行に行くと、それ自体お金がかかっていて、お土産を買ったり、自分自身も買い物もしたいしということで、セーブできるところでお金を節約したいという方は多いかもしれない。しかし、そこで少し想像を働かしてみてほしい。
 
あなたは仕事ですごく頑張ったのに、ボーナスの査定が低かったことがあるだろうか。私はその経験がある。すごく悔しいし、頑張っても評価してもらえないと、仕事へのモチベーションが下がる。
 
サーバーはチップが賃金の多くを占めている。言い換えると、毎日お客さんからの評価をチップという形で受けていることになるのだ。
 
あなたは一個人としてそのレストランに行くかもしれない。食事代金以外に余分にチップを払う習慣がよくわからないし、旅先だから旅の恥は掛け捨てだし、もうこのレストランに行くことがないかもしれないので、チップも最低限でいいのでは? と思うかもしれない。だが、もしそんな日本人が沢山いた場合、サーバーの人たちも日本人はどれだけ頑張ってもチップの払いが悪いという印象を持ち、サーバーの方の日本人やさらにはアジア人客へのモチベーションが下がってしまって、あとからレストランを訪れるアジア人や日本人が良いサービスが受けられないということも起こりうる可能性も否定できないのではないだろうか。
 
海外旅行先でチップを支払う際、ぜひサーバーの方のパフォーマンスを見てほしい。明るく自己紹介して、あなたの英語を聞こうという姿勢を持って、オーダーをテキパキ取ってくれて、飲み物がなくなったらタイミングよくおかわりを聞きに来てくれたり、食後、お会計で「個別で支払いたい」と言っても嫌な顔せずに、人数分のレシートを切ってきてくれたりしたら、自分が会社の上司になったつもりでサーバーの方やお料理を正当に評価してほしい。そして、あなたがレストランでのサービスに満足したならそれに見合う金額をチップとして支払ってほしいと思う。
 
そのチップがサーバーの方々の生活を支え、それが彼らの仕事のモチベーションへ繋がり、また次に来るアジア人や日本人の方が気持ちよくレストランでサービスを受けられるということにも関係してくるのかもしれない。
 
 
 
 
 

参考資料
(1) アメリカでのチップの相場は? JUNGLE.CITY.COM 2020年9月更新
(最終閲覧日2021年6月26 日)
https://www.junglecity.com/live/life-culture/common-practice-tip/

□ライターズプロフィール
武田かおる(READING LIFE編集部公認ライター)

アメリカ在住。
日本を離れてから、母国語である日本語の表現の美しさや面白さを再認識する。その母国語をキープするために2019年8月から天狼院書店のライティング・ゼミに参加。同年12月より引き続きライターズ倶楽部にて書くことを学んでいる。
『ただ生きるという愛情表現』、『夢を語り続ける時、その先にあるもの』、2作品で天狼院メディアグランプリ1位を獲得。

WEB READING LIFEにて、「国際結婚ギャップ解消サバイバル」連載中。
https://tenro-in.com/international-marriage-gap/153851

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2021-06-28 | Posted in 週刊READING LIFE vol.132

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