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週刊READING LIFE vol.134

あの一言で私は大きなものを失った《週刊READING LIFE vol.134「2021年上半期ベスト本」》


2021/07/12/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「そんな意味で言ったんじゃないんだけど……」
 
私は、断捨離トレーナーという仕事をしている。
提唱者である、やましたひでこの認定を受け、第一期の断捨離トレーナーとして活動を始め、今年で9年目を迎えた。
当初、断捨離トレーナーという仕事は、断捨離を伝えてゆく講師業と漠然と想像していた。
断捨離を学んで、自分が実践して、その概念を伝える仕事。
そんなふうに捉えていた。
ところが、仕事の経験を積み、年数を重ね、たくさんのお客様と接するにつれ、ある大きな事実に気づいたのだ。
それは、断捨離トレーナーとは、お客様の話を聴く仕事でもあった、ということ。
長年、お家の片づけが出来ずに困っている方が、断捨離のお客様だ。
実は、その、片づけが出来ない背景には、様々な問題があるのだ。
断捨離では、見える世界(お家の様子)には、見えない世界(心の様子)が現れているとお伝えしている。
つまり、お家の片づけは、心の片づけにもなるのだ。
そのため、断捨離のサポートを受けに来られるお客様には、そのお家の有様となった背景が必ずあるのだ。
幼少期からの親との関係。
共に暮らす、夫や子どもとの関係。
仕事や子どもの親などとの人間関係。
お家を見ると、様々なものが見えてくる。
 
つくづく感じるのは、自分だけが話す、しゃべるという行動は本当に簡単だ。
一日中でもしゃべっていられる。
ところが、人の話を聴くということは、そうはいかない。
こちらが、どんな言葉を返すかで、相手の気持やこれからの行動までにも影響を与えるからだ。
友だちの悩み相談もそうだが、仕事となるとやはり言葉を相当選ぶものだ。
そう思うと、カウンセリング、ヒヤリングを仕事としている人は、相当なトレーニングも必要だと思う。
 
私はかつて、人生で三本の指に入るくらいの言葉、コミュニケーションでの失敗をしたことがある。
3学年上の兄が結婚したとき、私と妹はOLをしていた。
兄嫁は社交的な人で、兄嫁のお姉さんも交えて、私たち姉妹はとても仲良くなった。
一緒に香港旅行をしたり、兄嫁のお姉さんのお家にまでも泊まりに行って、東京を案内してもらったり。
家族としての楽しい付き合いをしていたのだ。
兄は結婚して東京で暮らしていたのだが、母は兄のことを本当に大事に思っていて、いつも心配をしている人だった。
そんな兄のお嫁さんに対しても、母は普通以上に気を遣い、気を配っていた。
そんな母の様子をある時、兄嫁が軽んじるような言葉を言ったのだ。
今となって思うと、軽くあしらうつもりもなかったのだろう。
ただ、まだ若かった私にはそこまでの理解が及ばず、その言葉にとりつかれてしまい、言ってしまったのだ。
 
「お兄ちゃんが結婚してから、お母さんは元気がない」と。
 
この言葉は、何気ないようでとても怖い内容だ。
兄嫁に対して、まるであなたが兄と結婚したから、母は元気がなくなってしまった、あなたのせいよ、と言っているようにも捉えられる。
いや、間違いなく、兄嫁はそう捉えたのだ。
その深夜、兄から激怒の電話がかかってきた。
 
「僕らが結婚したことは、お母さんの元気を奪うことか」
 
そんな内容で矢継ぎ早にまくしたてられた。
 
「そんなつもりで言ったんじゃないんだけど……」という言葉は、もはや通じなかった。
 
私はただ、遠く離れて暮らす母が、兄をとても思っていること、その重みを少しでも忘れずに感じて欲しい、お母さんを思って欲しいと言いたかったのだと伝えることしかできなかった。
それ以来、兄嫁とは糸がプツンと切れたようにこれまでの縁は途絶えてしまった。
少し時間が経って、謝るための手紙も書いたのだが、そこには返事は一切なかった。
つくづく思った。
血がつながっている兄とは、大げんかをしても時間が経つとまた付き合いは出来る。
ところが、血のつながりのない、いわば元々他人である兄嫁とは、そう簡単には元には戻れないということ。
人に発する言葉というものは、本当に怖いものである。
この経験が、その後の私の人生において、人に対してものを言う時にとても考えるきっかけを与えてくれた。
 
人間関係とは、まさに言葉によって如何様にでも変わってゆくものだ。
いや、良好な人間関係は言葉のコミュニケーションによって、成り立っているということだ。
そんなことを思う私は、今年、ある本に出会った。
 
大野萌子さんの「言いかえ図鑑」
 
この本は、小説でもないのに、魔法のようにスラスラと読み進められた。
日常の、何気ない自分自身の言葉遣いがそこにあって、素直にうなずけるし、気を付けるきっかけがす~っと入って来る。
 
例えば、人と会ったときに何気なくかけてきていた言葉、「疲れてる?」
実際、自分が言われたら、「そんなに元気なく見えるのかな?」と、ちょっと不安になるのに、なぜか他人には思ったことを、思ったまま言葉にしてきていたように思う。
 
心配している声掛けなのだけれど、その言葉は相手を思いやっているようで、不安材料を相手に与えているだけだ。
そんなとき、「元気だった?」という言葉に変えると、自分の体調を含めて、心を開いて会話を始められる。
簡単な言葉のようで、大きな違いがあるものだ。
 
それから、一番難しいと思うのが断るときの言葉だ。
「できればやりたいのですが」というように、人との摩擦を避けたり、空気を読むつもりで言うのだが、「ノー」をはっきり言うことにいかに慣れていないかがわかる言葉だ。
その言葉を言われた相手は、「じゃあやってくれたらいいのに」という感想になってしまう。
断るときには、言い訳の言葉自体が不要なのだ。
「都合が悪いためできません」そう言い切ることは、決して相手に対して失礼なことではないのだ。
言葉遣いというものは、本当に少しの違いで相手との関係を良くも悪くもするものだ。
 
人間の三大悩みとは、健康、お金、人間関係だとよく言われる。
私自身の考えだが、健康、お金の問題は、自力でなんとかできると思うのだ。
食事に気を付けたり、運動を心がけたりして、健康維持に務めることは出来る。
一生懸命働いて、お金を手に入れることもできる。
ただ、人間関係に関しては第三者がいるので、自分だけではどうしようもできないことがある。
これこそが、難しく最後まで残る悩みとなるのだろう。
その人間関係の礎にあるのは、まさにコミュニケーションだと思うのだ。
 
今から30年ほど前、兄嫁にかけた言葉で私はその後、兄夫婦との良好な関係を失ってしまった。
しかも、長年、忘れることができない、人生においての汚点となる経験を残したのだ。
あの時、もう少し私に言葉をチョイスするセンスや気遣いがあれば、と悔やまれる。
 
仕事をしている、していないに関わらず、社会で生きている限り、コミュニケーションは必須だ。
大野萌子さんの「言いかえ図鑑」を読むことで、職場だけでなく、子どもの親同士や地域の人たちとの人間関係を良好にする言葉遣いが学べると思う。
普段何気なく使っていた言葉だけれど、相手に愛と思いやりを込めたメッセージとして伝えることが意識できるようになるのではないだろうか。
人間関係に悩んでいる方には、是非、言葉の使い方を変えてゆく、大野萌子さんの「言いかえ図鑑」をおススメしたい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

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2021-07-12 | Posted in 週刊READING LIFE vol.134

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