週刊READING LIFE vol.138

写真展は大人の文化祭だ!《週刊READING LIFE vol.138「このネタだったら誰にも負けない!」》


2021/08/09/公開
記事:森 団平(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「文化祭」それは青春のハイライト。
大人になると二度と味わうことができない、そんな期間限定のイベントだと思っていた。
 
写真仲間とグループ展を開催するまでは。
 
このメンバーで写真展、グループ展を開催できたことは、この先いつになっても、僕の中で文化祭の思い出として残ることだろうと思う。
 
僕らが写真展を開催することになったのは、写真好きの仲間9人で集まって話していた時のことだった。
「このメンバーで写真展やったら面白いんじゃない?」
誰かがそんなことをポロっと言った。
 
撮っている写真も様々、向いている方向も違うけれど、写真にかける熱量だけはみんな変わらず「熱い」そんな仲間達。
それぞれに写真が好きで各々SNSなどに投稿したりしているけれどそれだけでは物足りなかった。もっとなにか別のことで自分を表現してみたいというどこか鬱屈した気持ちがあったのだ。
 
しかし、それぞれ写真は撮っていても写真展はだれもやったことがない、何を準備すれば良いのかもわからない。
そんなゼロからのスタートだった。
 
まず初めの壁は、会場だった。
9人のメンバーで十分な広さ、価格、そして立地。手分けしながら、いろんな会場を見て回った。もちろん実績も何もないメンバーのこと、会場によっては実績がないことから断られることもあった。
その中で選んだのは渋谷にある「ギャラリールデコ」
会場は広く9人で使っても十分な広さがある。逆に一人でこのスペースを埋めるのはかなり大変だろう。
3階から6階までがギャラリーで毎週の様に様々な写真展や絵画、デザイン系の展示がされているのも敷居が低くて良かった。
広いだけに価格も高いが、そこはグループ展。みんなで分け合えば何とかできない額でもない。
 
次に悩んだのは「テーマ」だ。
写真展をやる以上、タイトルをつける必要がある。
それぞれが撮っている写真には個性があるが、しかしこれはグループ展。
だれか一人に寄せるわけにはいかない。
それぞれの展示を邪魔せず、全体を纏めてくれるテーマ。
これはかなりの難題だった。
 
グループチャットで意見を出し合い、貸し会議室に集まって話し合う。
まずは、たくさん出たアイデアを否定することなくグループ分けしていった。
「カラーズ」、「レインボー」様々なアイデアが出たが、お互いしっくりこない。
会議は持ち越しになった。アイデアは煮詰まってぐるぐると回る。
 
日を改めて、また会議室に集まる。
渋谷は。貸し会議室がたくさんあっていい。お菓子を持ち寄ってポリポリと摘まみながら意見の集約を図っていく。
グループ分けをしたテーマ案を見ながら、何を伝えたいのかを纏めていく。そうして残った案は。
「Nude」と「Spice」の二つだった。
 
「Nude」は、素のままの自分を見てもらう、さらけ出す。
「Spice」は、見てくれた人に何かの刺激を与えたい、ピリッと何かを感じてほしい。
 
という意図が込められていた。
どちらの意見もそれなりに良い。でも納得いかない。9人のメンバーで意見が分かれた。
この二つのうちのどちらを取るかで1時間は議論を交わした。なぜこんなにも延々と話し続けることが出来たのだろうと思うが、自分たちのいわば顔になるテーマだ。誰しもが妥協できなかった。
ちなみに僕はSpice派で、どうにもNudeとなってしまうとどうにもテーマで誤解を生みそうなのが嫌だったのだ。
議論が煮詰まっていた時に、誰かがアイデアを書き連ねたホワイトボードを見て呟いた。
 
「タマネギ」
 
その文字は、Spiceのカテゴリーの中にあるアイデアの一つとして書かれていたものだ。
もう一人がホワイトボードを指さして言った。
 
「むく」
 
それは、Nudeに至る議論の中で出たアイデア「むく」=無垢、剥くの意味を込めた言葉だった。
 
「これ! 合わせたらいいよ」
だれかが手を叩いて、パッと立ち上がった。
 
『たまねぎをむく』
 
剥けばいろんな色が表れ、切れば刺激を伴い、煮ても焼いても美味しく食べられる。そんな意味を持つ言葉。
そんな風にして僕たちの写真展のテーマは「たまねぎをむく展」になった。
 
写真を撮り始めてもう4年目になるが、いやまだ4年目か?
正直、僕には「作品」というものが良く分からない。元々、旅行好きで旅の風景を誰かに伝えたいと思って撮り始めたのが始まりで、そこには深い意図なんてない。
美術鑑賞もあまり好きではなく、学生時代から考えても演劇、音楽、美術、デザインなど「表現」といわれることには手を出してこなかった。苦手意識もあったし、そんな美術的センスが自分にあるなんて思ってもみなかったからだ。
しかし、ここに至ってはその言葉から逃げることは出来ない。
とにかく何かしらの「作品」を展示しないといけないのだ。
 
そんな追い詰められた環境から、僕は「作品」という言葉と向き合っていくことになる。
 
自分の展示について悩みながらも、写真展の準備は続いていく。
会場が決まり、テーマも決まれば、次は具体的な実施法案に入っていく。
 
・展示の場所の決定
・受付方法(コロナ対策)
・展示に使う小物の準備(キャプションや在廊表等々)
・広報活動(DMの作成、ポスター作製、宣伝活動)
・配信イベントの準備
・アンケートの作成
 
様々な準備事項が並ぶ中、各々が役割分担をしていく。
その時感じたのが、やはりそれぞれの社会人としての、そして人生の経験値が生きていると言うことだ。
仕事でデザインをやっている人がいる、趣味で小物を作るのが上手い人がいる。イベントの仕切りの経験がある人がいて、プロジェクトマネージャーとして、全体を統括するのが上手い人がいる。
それぞれが、自分の得意分野を生かしながら、準備を進めていく。
僕? 僕は、あんまり役に立つ得意分野はなかったけれど、アシスタントとして作業をするのはいろいろお手伝い、やれることを出来る範囲で。
 
準備も佳境に入り、展示についても纏めないといけない。
それぞれに自分なりの展示案を作り、みんなで発表しあう。
どの写真をどういう配置で展示するのか? 額装、プリントはどうするのか?それぞれにどういう意図が込めたのかをメンバーで発表しあう。
メンバー間は、みんな良く知っているので、その分遠慮もない。
肯定する意見もあれば、意図を深堀する質問も出る、
「意図しているところを考えたらこの展示方法では伝わらないのでは」と辛らつな意見も出た。
見直す部分と譲れない部分。
そんな風にそれぞれの展示を研磨していく作業もグループ展ならではだと思う。
 
そうしてメンバーの展示のレビューをする中で気づいたことがある。
みんな、それぞれに明確な「伝えたいこと」があるのだ。
 
パンダが大好きで好きすぎて、魅力を伝えたい人
路地裏に物語を見出す人
花の美しさ、儚さを伝えたい人
 
それぞれの目線で伝えたいことがある。
そこには、メンバーそれぞれの熱量が宿っていた。
ぼくに、そんなにも伝えたい熱量はあるのだろうか?
 
写真を展示すると言うことは、単に自分が好きな写真を並べたら良いというわけではない。それでは単なる羅列であり、自分の意図を込められない。
伝えたい何かがあって、それを伝えるための写真であり、配置であり、額装・プリントなどの展示方法。
 
僕は、「船乗り」なので船の写真、海の写真を展示する予定にはしていたのだが、なにが伝えたいのかが明確になっていなかった。
しかし、メンバーと一緒にレビューをする中で、
「航海する中で感じた感動や興奮、恐怖などを船に乗っている目線で感じてほしい」
と思うようになり、船が写っていて、晴れた日、嵐の日などいろんな航海のシーンを展示することにした。そうすることでただの景色ではなく、自分も船に乗っている感覚で見てもらえるのでは。
海と空の広がりを感じてもらいたいので、額もマットも使わずFMプレートという鉄板にフチなしのプリントを貼り付ける形を取った。
 
「作品」という言葉に対する明確な答えはない。
でも今この瞬間に、僕が伝えたいのはやはり自分が見た景色を誰かに伝えたいという思いで、船乗りがこんな航海を経て荷物を運んでいるということだと思った。
 
そんな意図と展示案については、メンバーとは別の写真友達にも見てもらって意見を聞いてみたりもした。第三者の意見を聞きたかったのだ。
写真の色合い、展示の順番など、事前に純粋に鑑賞者として感じる感想が聞けたのは本当に参考になった。こうして相談できる友人がいることに改めて感謝した。
 
そうして、僕たちは会期を迎えることになる。
そこからは修羅場だ。限られた時間の中で展示の準備を進めていく。
 
一言に展示と言っても、写真を展示するだけではない。
受付などの準備、キャプションボード、ポスターなど他の準備もある。
もちろん一番重要なのは、写真の展示だ。
釘を打ち、作品を展示していく。
事前に高さや配置を考えていても、実際かけてみるとアンバランスだったり、他の展示との間隔が合わないこともある。
悩んだのは、水平と配置の調整だ。
特に、何枚かの作品を同じ高さで並べるときは、少しでもずれているととても目立つ。
また、釘の角度が狂えば、作品の配置が変わる。
紐を使ってかける場合は紐の伸び縮みがあり更に調整が難しくなる。
一日置けばまた位置がずれたりもする。
メジャーなどで測ることも大事だが、最終的には実際に目で見て違和感を無くすことが大事。
そう、神経質な人ほど悩みは尽きない。
 
やっと位置を合わせたら、今度はライティングだ。
天井から吊るされたライトをそれぞれの作品に合わせて位置や明るさを調整していく、この作業は一人では難しく、ライトを調整する人。ライティングが合っているか確認する人がいると作業が早く進むのでグループ展はこういう時助かる。
 
メンバーと会場準備の残された時間を確認しながら、
「後何分?」
「こっち手伝って」
「ちょっと見てもらっていいかな」
と声をかけながら準備を進めていく。それは学生時代に文化祭の前日準備の空気感。
メンバーみんなで作り上げてきた展示が形になっていく瞬間だった。
 
やっと展示の準備が完了したのは準備時間終了5分前だった。
3時間前には、ガランとした真っ白な壁だけの空間だったのが、全ての壁には、メンバーそれぞれの作品が展示されている。
入り口には大判のポスター、要所にはアンケートの記入を促すカリグラフィや掲示物が貼られてカラフルで賑やかな空間が出来上がった。
 
そうして迎えた、展示会当日。
オープンして直ぐは、人のいない時間もあったが、だんだんと来場者が増えていく。
自分が友人に声掛けをしてきてくれた人もいるが、各地のギャラリーに配ったDMや、展示会を紹介するサイトに登録した情報を見て来てくれた。初対面の人達もたくさんいた。会場のそこかしこで写真談議に花が咲く。
中には「たまねぎをむく展」という僕らのテーマに興味を惹かれて見に来てくれた人もいた。
「たまねぎはないんですか?」と聞かれたときは焦ったが、しっかりテーマの説明をさせてもらった。
 
コロナ禍での開催に悩んだ時もあったが、結果的には多くの方にご来場いただいた。
中でも嬉しかったのは、コロナ禍で疎遠になっていた友人や知り合いも多く駆けつけてくれたことだ。もし僕がこうした活動をしていなかったら、次はいつ会えるのだろうと考えていた人と久々に会えたのはとても嬉しかった。
 
自分の作品を見てもらい。
自分の作品に込めた思いを伝えて、
曝け出すことは少し気恥ずかしくもあるけれど、作品に足を止めて見てもらえたことで、新しい一歩を踏み出せた気がする。
 
今回は、船と海の写真を展示したが、これからはどういう表現をしよう。
ただ、漫然と写真を撮るだけではなく、なにか伝えたいテーマを設定して、写真を撮っていこうか。
そんな風に考えられるようになった。
 
会期も終わり、展示物を片付ける。
準備はあんなに時間がかかったのに、片づけるのは一瞬だ。
30分もあればあらかた片付いてしまう。
 
再びガランとした、ギャラリーをバックにメンバーが集まって記念撮影をした。
記念の一枚。いや、二枚、三枚……。
 
「次はみんなでジャンプしてみよう!」
「ランダムな立ち方で!」
「爆笑写真撮るよ!」
 
みんな写真好きだけに、記念撮影が終わらない。
 
たくさん記念写真を撮って、たくさん笑って、たくさん泣いて。
僕たちの、初めての展示会は幕を閉じた。
 
そして、また始まるのだ。
次の展示への準備が。
大人の文化祭への準備が。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
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2021-08-09 | Posted in 週刊READING LIFE vol.138

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