週刊READING LIFE vol.149

たまらない美味しさ、カリサクッ、しっとりの豚レバー《週刊READING LIFE Vol.149 おいしい食べ物の話》


2021/11/29/公開
記事:なつき(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)
 
 
豚レバーを食べたことがあるだろうか。食べたことがある場合好きだろうか、苦手だろうか。
そして、どんな料理を思い浮かべるだろうか。
 
私は小学生時代豚レバーが苦手だった。母はレバーは鉄分が豊富だし体に良いからと時折食卓に出した。豚レバーと鶏レバーが続く時もあった。鶏レバーは、千切り生姜を入れたあまじょっぱい味付けだったり、サッと茹でてマヨネーズと醤油をかけて食べたりした。鶏レバーは、そんなに臭みも無かったのと、食感もしっとりしていたので比較的好きな部類だった。でも豚レバーは、食べた後口の中に残る独特の癖みたいなものがどうしても好きになれなかった。豚レバーが食卓に出る時は、先に急いで2枚ほど食べてから、好きなおかずを食べて口の中にレバーの存在が残らない様にした。
 
豚レバーの調理法でよく知られているのはレバニラ炒めだろうか。豚レバーとニラともやしを炒めたものが主流だろう。レバニラ炒めの場合はレバーとニラが癖を消しあってくれるので比較的食べられた。更には野菜から出る水分でレバーも水を含んで柔らかくなるので食感も良く後味もさほど残らなかった。この調理法の時はそんなに苦にはならなかった。問題は豚レバーを焼いただけの状態で出てくる時だった。母は豚レバーの臭みを消すようにガーリックの粉末を掛けたり、牛乳に潜らせて臭みを減らしてから焼いたりなど工夫してくれた。でも私の口には合わなかった。父は美味しいと言っていたので、栄養あるからというだけでなく、父のために作っていたのもあるのだろう。
 
また豚レバーの日がやってきた。なんだか母が嬉しそうだった。「いい方法を聞いたのよ」と母は言った。多分豚レバーの臭みや食感の対策を誰かから聞いたのだろう。今までも色々試してくれてはいたもののどれもあまり変わらなかったし、あまり期待しないでおこうと思った。焼き立ての豚レバーがフライパンからお皿に移された。
 
「熱いうちに食べてみて」母に即されるまま仕方なく箸を伸ばす。
 
カリサクッ、ホクホク、しっとり。え? なにこれ、え? よくわからないまま1枚食べ終えた。今のは何だったんだろう。確かめるように2枚目を口に運んだ。やはり、カリサクッ、ホクホク、しっとり。2枚目も同じだった。そして1枚目同様あっという間に食べた。え? まだわからないまま、3枚目にいった。自分から3枚目に行く日が来るなんて思ってもみなかった。
 
ここではっきり認識した。美味しい。あんなに苦手だった豚レバーが美味しい。苦手どころかもっと食べたい。「美味しい」と口をついて出た。「もっと食べていい?」と言った私の言葉に母は驚きつつ嬉しそうに「片栗粉がいい仕事をしてくれたね」と言った。
 
カリサクッとさせていたのは片栗粉だったのか。片栗粉はとろみをつけるものだと思っていた。それまで食べてきた揚げ物などは小麦粉を使っていたので、片栗粉でこの食感が出せるのは新鮮だった。この食感があれば豚レバーも美味しく食べられるのか。食べ物の好き嫌いがほとんど無いことがちょっとした自慢だった私にとって豚レバーの克服はとても嬉しいものだった。そしてこの日から豚レバーが食卓にあがるのが楽しみになった。
 
この後も実家にいる間は何度もカリサクッしっとりの豚レバーは登場した。苦手だったのが嘘のようにたくさん食べた。そしてある時調理法を知りたくなった。
 
母は調理する前の豚レバーを見せてくれた。艶やかで赤い塊だった。「レバーは心臓のことよ」と母は教えてくれた。豚の心臓って食べられるものだったのか、ちょっと衝撃を受けた。私に塊を見せた後、母は慣れた手つきで豚レバーをスライスした。
 
そして私の苦手を克服してくれた英雄片栗粉の登場。母は片栗粉を平たいバットに底が埋まるくらい入れた。そしてスライスした豚レバーを片栗粉の海にダイブさせた。片栗粉って水に溶いて使うものじゃないの? と疑問が生まれたけどそのまま見ていることにした。
 
豚レバーの両面に片栗粉をつけて余分な片栗粉は軽くはたいて落とす。そして油を敷いたフライパンに並べ始めた。揚げ物だったら小麦粉と卵を混ぜたものにパン粉をまぶして、たっぷりの高温にした油に入れる。確かそんな感じだったと思うけど、これはパン粉をつけずに油も少ない。どこにカリサクッ要素があるんだろう。
 
母はフライパンに並べた豚レバーをそのまま焼き始めた。数分後に頃合いを見て裏返す。両面が焼けたのを確認して軽く塩を振り入れ火を止めた。どうやら完成らしい。
 
なんともシンプルな工程だった。もっとカリサクッにする秘訣が何かあるのではないと見ていたけどこれだけだった。そして食べてみるとやはりいつものカリサクッ、しっとりが口に広がるのだった。
 
そんなことを思い出しながら結婚して家を出た今、今度は自分で作っている。あの素晴らしいカリサクッ、しっとりを再現して大満足な料理を披露して、となるはずだったんだけど、おかしい、あの美味しさが中々出せない。どうにもパサついたものになる。
 
母は、長年の勘なのか豚レバーを焼く時に時間を計らなかった。母から聞いた、裏面がきつね色になって半分位火が入ってレバーの色が変わってきたら裏返す、という技は私にとって高度だった。豚レバーはしっかり火を通さないと危ないと聞く。多分それもあってしっかり焼かなければと思っていたのだと思う。いつも焼きすぎになった。豚レバーは血の塊のようなものなので焼きすぎると水分も抜けてパサパサしたものになる。焼きすぎだと分かっているのに生焼けが心配になりつい火を止める時間が遅くなってしまう。長年の勘はまだ私には無い。何かいい方法はないものだろうか。
 
そう言えば鶏もも肉の塊を焼く時もそういうことがあったっけ。前は強火でサッととすることが多いしかっこいいから好きだったけど、中火を使うようにしたら、表面には焦げ目がつきつつ中までじんわり火が入って、強火でやっていた時よりもしっとりできた。以来、鶏もも肉はそのやり方が定着していた。豚レバーも同じ要領でやったらパサつきを抑えられるかもしれない。鶏もも肉より薄いからすぐに火が入るし強火が良いと思っていたけどちょっと変えてみよう。
 
豚レバーを買ってきてスライスして片栗粉をつける。そしてフライパンで中火で焼く。すると豚レバーの色が徐々に変わっていくのが見てとれた。強火でやっていた時にはあっという間に表面の色が変わって内側が見えないので中まで火が入ったかわかりにくかった。だから心配になって火を通す時間が長くなっていた。中火だと、表面が変わってきて、豚レバー自体の色も変わってきて、内側から透明の液体が表面にプツプツと浮きあがるのがわかる。お肉を焼く時は、透明の液体が出てきたら火が入った証拠と言われている。中火にするとその微妙な違いがはっきりと分かった。いつもだったらもう少し火を入れたいところを合図に気づけたお陰でちょうどいいところで火を止めることができる。そして食べてみると、「しっとり」が再現できていた。
 
やった、しっとりしたレバーになった。
 
母のものともちょっと違ってきている、いまの私バージョンのカリサクッしっとり豚レバーの作り方はこんな感じ。まず材料は二人分だとして、豚レバーひと塊で約250g、片栗粉半カップ位、塩と焼く用の油を適量を用意する。豚レバーを食べやすい大きさに切る。幅は5~7㎜程度が火を入れやすく食感もいい。豚レバーを切りにくい時はカットをしてくれるお店もあるので聞いてみるといいかもしれない。
 
次に片栗粉を平らな大きめのバットに用意し豚レバーの両面にしっかりつける。小さなバットでもいいけど豚レバーを裏返す時に粉が結構舞うので大きい方が周りが汚れなくていい。また、洗い物を減らそうとして豚レバーが入っていたトレーに直接片栗粉をまぶしたこともあるけれど、トレーに水がついていると豚レバーに満遍なくまぶせなくなるので別に用意したほうがいい。
 
そして肝心の焼く工程。フライパンに油を敷き片栗粉をつけた豚レバーを並べる。全部並べ終えたら火をつける。ここでフライパンを熱した状態で並べると表面だけ一気に火が入ってしまうので、全部並べてから火をつけるのが大事。そして中火で少しずつ火を入れる。この時蓋は閉めないことがカリサクッにするコツ。蓋をすると水蒸気で片栗粉が水を含んでべったりした状態になってしまう。
 
豚レバーの底面が赤から茶色に変わってきたのが横からも見えるようになったら裏面をチェックする。ここできつね色の焦げ色がついていたら裏返す。この時点でだいぶ火が入っているので火を少し弱めて中火~弱火の間にする。間が難しい時は弱火にする。両面に火が入ってきたら豚レバーの表面にプツプツと透明の肉汁が浮かぶようになる。赤い汁が出ている時は生焼けなのでもう少し火を通す。この透明の汁が出たら中まで火が通った合図なので火を止める。
 
冷めないうちに塩を振って味を調える。フライパンに余熱が残っている状態で塩を振ると片栗粉のカリッとした部分に塩の粒が入り込むので塩が少なくてもしっかり味がつく。何度か豚レバーを焼く前に塩を振って馴染ませて下味をつけてから片栗粉をまぶしたこともあったけど、焼いている時に塩が豚レバーから余分に水分を出してしまうのでパサパサのもとになる。味を調えるのは仕上げ段階がいい。
 
完成。熱いうちにハフハフ言いながら食べる。片栗粉がほんといい仕事をしてくれている。外側はカリカリサクサクッとして、内側に水分も閉じ込めておいてくれているので口当たり滑らかでしっとりした豚レバーが味わえる。このコントラストがたまらない。ここだけの話、材料として2人分で豚レバーひと塊と書いたけど、美味しすぎてこの量じゃ物足りないことがよくあるほどだ。
 
以上が材料と作業工程だ。なんともシンプルな工程でとても美味しい豚レバーが味わえる。とてもおすすめの食べ方だ。作り方以外に1つだけポイントを挙げておくなら、お肉売り場で美味しそうな豚レバーを見かけたら逃さないこと。というのも豚レバーは他のお肉の部位と違ってそんなにたくさん出回らない。それもそうだ、レバーは心臓なので豚1頭につき、1つ。食べたいと思ってスーパーやお肉屋さんに行っても無い日もある。この食べ方が広まったらもっと買えなくなるかもしれない。鉄分の宝庫の豚レバー、美味しそうなものと出会ったら、それがきっと食べ時だ。
 
そうそう、片栗粉についてだけど、最近、よりカリサクッ度合いが増すものを見つけてしまった。「感動の未紛つぶ片栗粉」という商品だ。袋書きを見ると、昔ながらの手間のかかる工程で作られているらしいのだけど、そうするとなぜ美味しいのかは私にはよくわからない。でも片栗粉を変えるだけでも、味がまた変わるということだけは確かだと思った。この辺りもいろいろ試してみると、面白いところだと思う。
 
こんな話をしていたら、またカリサクッ、しっとりの豚レバーが食べたくなってきた。昨日食べたばかりなのに、明日スーパー行かなきゃ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
なつき(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)

東京都在住。2018年2月から天狼院のライティング・ゼミに通い始める。更にプロフェッショナル・ゼミを経てライターズ倶楽部に参加。書いた記事への「元気になった」「興味を持った」という声が嬉しくて書き続けている。

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2021-11-24 | Posted in 週刊READING LIFE vol.149

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