週刊READING LIFE vol.149

「天職」とは探すものではなく、ある日気づくもの《週刊READING LIFE》


2021/11/29/公開
記事:深谷百合子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
会社員を辞めてフリーになってから、いつも私を苦しめている言葉があった。それは「天職」という言葉だ。仕事は面白いし、やりがいも感じていた。けれども、自分の中でずっと「これが私の天職だ」という確信を持てずにいた。
 
「これこそ私の天職だ! と自信を持って言えるものに、私はいつ出会えるのだろう?」
私はその答えを色々な場所で色々な人に求めた。
 
自分の強みは何か?
自分はどういうタイプの仕事が合うのか?
 
色々な診断ツールで分析したり、色々な人からアドバイスをもらったりした。
 
自分の好きなこと、夢中になれたこと、得意なこと、乗り越えてきたことを幼少期まで遡って棚卸しもした。
 
そうすると「こんなことができそう」という「答えらしきもの」が出てくる。
 
でも結局、「やっぱり違う」という結論になるのだ。なぜなら、「私は何でもそこそこできるけど、専門性が高くない中途半端な器用貧乏」とか「私にはこの道一筋何十年みたいなものがない」ということが、心にひっかかっていたからだ。
 
だから私は「自分にどんな価値があるかわからない」と思っていた。それを口にすると、「人は存在しているだけで価値があるんだから! そのままでいいんだから」とよく言われたものだ。
 
その言葉に心で感謝し、頭では分かっていても、腑には落ちていなかった。
「そうは言うけど、やっぱり自分の力を発揮して、何かの役に立ちたい」という気持ちは変わらなかった。だからずっとモヤモヤした日々を過ごしていたのだ。
 
9月のある日、私は知人から1本の電話を受けた。
「オンラインで実施する研修のサポートをしてもらえないか? あなたは操作に慣れてて、そういうのが得意な感じがするから、お願いしたいのだけど」
 
「えっ? そんなことで?」と思ったけれど、操作方法は知っているし、できない理由はない。その仕事を引き受け、操作するだけでなく、操作方法の手順も簡単にまとめて渡したら、ものすごく喜んでもらえたのだ。
 
もちろん私はITの専門家でもないし、オンライン配信を専門に仕事をしているわけでもない。それでも、相手の求めていることに対して私にできることをしたら喜んでもらえた。その時、ふと思ったのだ。これって私の価値を提供できたってことじゃないかと。
 
「自分の持っている価値って、案外自分では気づいていないのかもしれないな。出会う人に気づかせてもらうことなのかもしれないな」と思っている時、もうひとつの頼まれごとが舞い込んできた。
 
「今度私のコミュニティで、何か講座をやってくれない?」
「講座ですか? 何ができるかな……」
 
お世話になっている方だから、何かしたい。色々考えていると、そのコミュニティに入っている人たちの中には「文章を書くのが苦手」と言っている人が多かったことを思い出した。
 
「それなら、文章を書くのが苦手と思っている方に向けて、講座をつくってみます」
そう答えたものの、そんな講座など今までつくったこともない。
 
「文章を書くのが苦手っていうのは、具体的にどういう問題があるんだろう? ちょっと聞いてみようかな」
 
私は友人に連絡をして、「書けない悩み」の詳細をインタビューした。すると、私の想像だけでは思いつかないような、沢山のヒントを得ることができた。
 
「なかなか書けないなぁと思った時って、こういうこともあったよ。私ね、自分が本当にやりたいのはネイルケアだったんだけど、その時にやってたのはネイルアートでね。ネイルアートのことを発信しようとしても気が乗らなくて……」
 
「書けない」とひと口に言うけれど、書けない理由って様々なんだなと気づいた私は、他にも色々な人の「書けない悩み」を聞き、その悩みに対して私自身が経験して得てきたことや、普段文章を書くときにやっていることを整理した。そして、最終的に講座をつくることができたのだ。
 
実は私は過去に2回ほど、自分オリジナルの講座をつくろうとして、できなかった経験がある。かなりの時間を費やし、色々な人からアドバイスをもらったりしたのに、最後まで完成できなかった。
 
それなのに、なぜ今回はあまり時間もかけずに最後まで完成することができたのだろう?
そう考えて、はっと気づいたのだ。
 
大事なのは「順序」だったんだ。その中でも重要なのは「聞くこと」だったのだと。
 
つまり、「誰が何を欲しいのかを知ること」が私にとって最初にやるべきことだったんだと気づいたのだ。
 
それまでは、私の強みは何か? 得意なことは何か? 何を乗り越えてきたのか? 夢中になれることは何か? といったことから出発して、自分のコンテンツを作ろうとしていた。
 
でも、今回は人から言われた「こんなことできる?」が出発点だった。そして、「それだったら」と自分にできることで応えただけだ。
 
「何かドラえもんみたいだな」と思った。
目の前ののび太が、「ドラえもーん」って助けを求めてきた時に「〇〇〇(タタタタッタターラーラーン♪)」って道具を出すのに似てないか?
そうだ。私はドラえもんなんだ。
 
「何でもそこそこできる」、「色んなことができる」って、ドラえもんみたいに「道具」を沢山持っているということじゃないか。
 
今までの私は、ポケットにある道具を全部出して、道具を眺めながら「これとこれで何ができるのかな?」、「これは皆が欲しそうかな?」、「これだったら自分の特徴を出せそうかな?」とか考えて、とりあえず使ってみようとしてきたのだ。
 
でも、もっとすごい道具を持っている人が世の中には沢山いるから、「やっぱり私なんて中途半端」と思って引っ込めてきたのだ。
 
でも今回はそうじゃなかった。
 
身近な人に「聞いてみる」から始めたら、色々な人が色々な悩みを話してくれた。
その話を聞いて、「それなら、こんなことでお役に立てるかも」と思っている自分がいた。
 
「こんなことやれる?」という問いに答えてみたら、「ここまでならできる」、「こんなこともできたんだ!」という発見があった。
 
目の前のその人が求めているのは、めちゃくちゃスゴイこととは限らない。
「今のこれを何とかしたい!」
「あ、それならこんなのどう?」
とお助けツールを出せればいいんじゃないか。
 
そう思ったら、
「なんでもできるけど中途半端な器用貧乏」と思っていたことが、
「色んな悩みに対応できる私」になり、
「専門家じゃない私なんて本当にやってていいのかな?」が
「欲しいと言われてやるから価値提供できている実感」を持て、
「結局私って何者?」と思っていたのが
「私はドラえもん!」と思えるようになった。
 
ずっとモヤモヤしていた気持ちがスッキリ晴れて、もう何の迷いもない自分になっていた。
 
だから、以前の私のように「私には何ができるだろう」とか、「私の価値は何だろう?」とか、「私は何者だろう?」とか、「私の使命は何だろう?」とか、「私の天職は何だろう?」と「探しもの」をしている人がいるならば、こう伝えたい。
 
「そんなの探さなくていいよ。もし探すものがあるとすれば、身の回りにいる人の悩みや課題だけ。自分の探していた答えは全部、人が教えてくれるよ」
 
そして、もし「専門性が足りないから、まだまだ学ばなきゃ」と思っている人がいるならば、こう伝えたい。
 
「あなたの持っているものを欲しい人は沢山いるよ。もしも補強することがあるとしたら、相手の欲しいものは何かを理解する力と、欲しいと言われた時に手渡せる力だけ」
 
それを積み重ねていくと、気が付いたら今していることが「天職」になっているんじゃないのかな。「天職」って、きっとそういうものかもしれないなと今では思っている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
深谷百合子(READING LIFE編集部公認ライター)

愛知県出身。
国内及び海外電機メーカーで20年以上、技術者として勤務した後、2020年からフリーランスとして、活動中。会社を辞めたあと、自分は何をしたいのか? そんな自分探しの中、2019年8月開講のライティング・ゼミ日曜コースに参加。2019年12月からライターズ倶楽部参加。現在WEB READING LIFEで「環境カウンセラーと行く! ものづくりの歴史と現場を訪ねる旅」を連載中。天狼院メディアグランプリ42nd Season総合優勝。
書くことを通じて、自分の思い描く未来へ一歩を踏み出す人へ背中を見せる存在になることを目指している。

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2021-11-24 | Posted in 週刊READING LIFE vol.149

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