週刊READING LIFE vol.149

「好きな食べ物の数だけ、愛情の証である?~動物霊視鑑定でグルメ犬と判定され大笑いした日~」《週刊READING LIFE Vol.149 おいしい食べ物の話》


2021/11/29/公開
記事:珠弥(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「赤いジェラートみたいなスイカ。それが大好きだったそうです」
「あ、赤……?」
 
この人は一体何を言っているんだ?
思わず困惑したまま、素の声を上げてしまった。パソコン越しで対面するセラピストのMさんは、そのままにっこりと笑顔を向ける。
 
「生前知らないところで、食べたのかもしれませんね。開口一番、美味しかった食べ物を教えてくれました」
 
絶対嘘だ。そう思いながらも、曖昧に相槌を打ちながら私はMさんを見つめた。
オンライン上でも私の疑心暗鬼している内側を見破ってしまったのかはわからないが、Mさんはちょっと噴き出すのを堪えているかのような面持ちで再び口を開く。
 
「あとは茶色い煎餅みたいな食べ物と、ジャーキーみたいなものと、白いご飯?」
「白いご飯」
「ええ、お母様が夕飯に出してくれていたんですかね。それがとっても美味しかったと言ってました。……結構グルメな子でしたか?」
 
堪えきれなくなったのは私の方で、声を上げて笑ってしまった。赤いジェラート以外はうっすら正解だった。私の愛犬が良く食べていた好物の第一軍達に違いない。
 
動物霊視鑑定を開始して早々、私は気持ちが晴れやかになっているのを体感していた。身体の細胞達が、空気の入替で震えているかのような心地だった。

 

 

 

転職、コロナ禍、引っ越し、そしてペットロス。目まぐるしい変化の中で、愛犬とのお別れは突然だった。幸か不幸か、私の愛犬は倒れてから一ヶ月だけ、私たち家族に猶予期間をくれた。
 
「副腎に腫瘍ができていて、手術も難しい場所なんだって」
 
実家住まいの頃、帰宅して早々、涙声の両親からリビングで話されたことをよく覚えている。
私が出かける直前に倒れた愛犬は、何でもないように振舞っていた。けれど家を出た後、やはり調子が悪く倒れてしまったようだった。両親が慌ててかかりつけの病院に連れて行き、そう診断されたと言う。
 
たかがペット、されど長年共に過ごした家族。一ヶ月間で、できることはあまりに少なかったけれど、私たち家族は目前に迫るお別れに備えることができただけかなり恵まれていたのかもしれない。ただ、天国に旅立つ直前まで痛みに苦しんでいた様子は、あまりに辛く、見守ることしかできなかったことは、思い返しては度々悔やんでしまう。

 

 

 

“アニマル霊視鑑定、承っています”
 
そんな文字を見かけたのは、愛犬が天国に行ってから半年程経った頃だった。過去に耐え切れなかった私は、一度ペットロスカウンセリングをオンラインで受講した。カウンセラーのHさんは有名な方で、私も小さい頃のペット番組でよく目にしていたため、信頼していた。当時お話を聞いてもらって、ある程度気持ちの整理ができたこともあって、私はHさんのSNSをフォローしていた。どうやらHさんが宣伝していたため、私の目にも入ったようだった。
 
「アニマルリーディングセラピー?」
 
Hさんは冠婚葬祭関連で有名な宝石店や仏具店とタイアップをして、商品を宣伝したり集団で受けるタイプのペットロスカウンセリングを開催したりしている。今回は、Mさんとのタイアップで、飼い犬の気持ちを読み解いて、飼い主に伝える趣旨のイベントを開催したようだった。
そのまま、Mさんのアカウントに移動すると、毎月様々な飼い犬と飼い主の交流の橋渡しをする活動を意欲的にされているようだった。動物霊視鑑定は、Mさんの活動の一つに挙げられていた。
 
“フォローありがとうございます”
 
興味本位でフォローをすると、早速Mさんからメッセージが届いて動揺する。メッセージで既に愛犬旅立っていて、Hさんからフォローをしたことだけ伝えると、Mさんは温かい返信だけ残してくれた。
 
“Hさんからのご縁、ありがとうございます。いつか、助けが必要になったら鑑定依頼してくださいね”
 
そんなやり取りから一年後、私は気晴らしに鑑定を受けてみたくなって、Mさんに依頼をした。スピリチュアルなものはどうしても胡散臭く感じてしまったり、疑心暗鬼になってしまう面もあるけれど、Mさんの投稿から滲み出る優しい言葉遣い達は、安心できる気がした。

 

 

 

動物霊視鑑定。字面だけ見てしまうと、なんだか夏に盛り上がるホラー番組を連想して、仰々しい儀式でもするのかのような妖しい雰囲気が醸し出されている……かもしれない。
 
Mさんの活動地域と私の居住の関係上、オンライン鑑定一択ではあったがそのくらいの距離感がいいのかもしれないなんてぼんやり思ったりもしながら、当日を迎えた。
 
「はじめまして!」
「よろしくお願いいたします」
 
時間になってオンラインミーティングに入室すると、Mさんが早速通話を開始してくれた。
快活そうで、はきはきとした話し方は、メッセージに滲み出ていた雰囲気とはまた違っていたけれど、安心感は一貫していた。一貫していたところで、開口一番に切り出された言葉に、私は面食らう。
 
「早速ですが、天国にいる愛犬ちゃんと交信いたします。私の声が聞こえる範囲でしたら、違う作業していても構わないので、リラックスしてお待ちください」
 
交信って、どうやるんだろうか。何か呪文とか唱え始めたらどうしよう……?
ドキドキしながらも、私は自分のカメラと音声をミュートにし、そのままMさんを見守ることにした。

 

 

 

結局、Mさんは呪文を唱えたり、奇怪な儀式を始めたりすることはなかった。私は、ホラーゲームやホラー番組を見過ぎていた自分の妄想を恥じた。
Mさんは20分程、瞑想のように瞳を閉じ、時たま画面の手元を見ながら何か書き込むような動作をしては、鼻をすすりながら涙を浮かべていた。
 
愛犬に伝えたいこと、聞きたいこと、知りたいことがあればMさんがこの交信を通して伝えてくれるという。私は後悔も感謝も混ぜこぜな気持ちを、事前にある程度用意した言葉通りに伝えるも涙ぐんでしまった。その時には穏やかだったMさんが、今涙を浮かべているという状況は、不思議な感覚だった。
 
「愛犬ちゃん、とっても話しやすかったです。警戒する犬や虹の橋を渡れない犬もいるので、こんなに話せて、私も楽しかったです」
「そうなんですか?」
 
Mさんが、再びはきはきと私に話しかけてくれる。
今愛犬がいる場所の様子、天国で出会った愛犬の友達、好きだった食べ物、私の謝罪に対しての言葉……
聞いていた時の最初の間隔としては、当たらずとも遠からず、といった気分で、正直に言うと気休め程度には十分癒される時間だと思いながらMさんの話に相槌を打っていた。私の体が身震いをしてしまったのは、その後だった。
 
「あとですね、これはとても不思議というか……正直、私にはよくわからなかったのですけれど」
 
Mさんは今までの話し方が嘘のように、突然歯切れが悪くなった。首を傾げながら、とても言いにくそうに、カメラからも少し視線を逸らして話し始める。
 
「お祖母さん元気か、という質問されました」
 
Mさんとは、SNS上でやり取りをしていたが、私が使用しているアカウントはほとんど閲覧用で、個人情報は当たり前かもしれないが、愛犬の情報以外一切掲載していない。
 
私が口に手を当てたまま固まっていると、Mさんは愛犬から聞いたらしい家族構成を報告してくれた。どんぴしゃだった。今までの鑑定に対しての姿勢と距離感を、一気に穴埋めするかのように、私は前のめりになった。依頼をしておきながら、ある程度距離を取ってしまっていたが、愛犬の言葉だと私は信じた。
 
「実は、祖母が認知症のため、私達が祖父母と同居した経緯があります」
「そうでしたか。私にはピンと来なかったのですが、ご家族のことよく観察していたみたいで……家族からのメッセージお伝えしようとしたら、そんなこと聞かれました」
 
それから、とMさんは言葉を続ける。
 
「貴女にも聞きたいことがあるそうで……失礼でなければいいのですが」
「どうぞ」
「看護のようなお仕事されていましたか? 愛犬ちゃんは、仕事決まったかとても心配してました。なんだか事情をよくわかっているから、犬じゃないみたいでびっくりしました」
 
雷が落ちてきたような気分というのは、こういうことなのだろうか。Mさんが伝えてくれた愛犬の質問と映像として見えたという風景は、私がひと際大切にしている愛犬との思い出に間違いなかった。

 

 

 

休職期間中の頃である。当時、福祉系の職場に勤めていた私は、挫折をして引きこもっていた。その日はリビングで愛犬と二人っきりだった。引きこもり生活、それから家族にも話しにくい悩みでもあり、口を閉ざしている状況が続いていた。耐えかねてしまった私は、愛犬に話し相手になってもらうことにしたのだ。
 
「大好き! お仕事決まるまでの間、たまにはこんな風に仲良くしてね」
 
散々悩みや心配事を口にして、愛犬をべた褒めしてから盛大に抱きしめる。そのまま、気晴らしにスマートフォンで自撮りをしたところ、いつもよりも何となくニコニコした様子の愛犬を撮影できた。

 

 

 

その時の画像は、お気に入りの一つで、私は元気がなくなると、当時の画像や動画をこっそり見返していた。愛犬の晩年には次の職場で働いていたので、厳密には時期にずれがある。偶々当たっただけかもしれない。けれど、Mさんの様子には、悪意が一切なかったことと、家族にも隠していた思い出と私の職歴を言い当てられたこともあって、私は、自分の気持ちが上向きになるなら、Mさんからの報告を信じようと心に決めた。
 
「特別な思い出があって、今の内容も、風景も、心当たりがあります」
 
私が涙声で伝えると、つられたかのように、Mさんが目元を手で素早く拭う。
 
「同じ気持ちだったのかもしれませんね。心は繋がっているんだけれど、もう相談に乗れないと気にしていましたよ」
 
Mさんの言葉で、私は過去に受けたのペットロスカウンセリングで伺った、Hさん自身の言葉を思い出す。
 
『天国に行っても、心は一本のリードで、歴代の犬達と今でも繋がっている』
 
Mさんは、当時カウンセリング中に話してくれたHさんの心境と、同じことを伝えてくれた。その真心を受けることができただけでも、私は愛犬との思い出と気持ちを再確認することができて、十分満足した。
 
「もし可能でしたら安心して、って伝えてください」
 
鼻をすすりながら伝えると、Mさんが急に笑い出す。
 
「リクエスト来ましたよ。今日はお饅頭の気分らしいです。ぜひお供えしてあげてください」
「もうやだあ! いつ食べたんですか?」
 
こうして私の動物霊視鑑定は、爆笑したままの締めくくりとなった。

 

 

 

ジャーキー、白米、パン、赤いジェラート、それからお饅頭……
 
赤いジェラートとお饅頭は絶対に食べたことがないでしょ。
そう確信しつつも、その日の私は律儀にコンビニで買った栗饅頭をお供えした。
 
犬の好きな食べ物の数は、きっと愛情の証でもある。
なぜなら、口に含むには必ず、犬に分け与える誰かの存在があるはずだからだ。我が家の愛犬は、おこぼれを強奪することはあっても、机に置かれた食べ物を所かまわず食べ荒らすことはしなかった。それだけ愛犬と触れ合い、密かに分け与えていただろう家族の存在があって、結果的に我が家の愛犬はグルメ犬になっていたのかもしれない。
 
全てを鵜呑みにする必要も、全否定する必要もない。少なくとも、家族以外の誰かに愛犬との思い出を話せる機会と、耳を傾けてくれたMさんに出会えたことも含め、動物霊視鑑定を受けてみて正解だったと思う。
 
穏やかな心のまま、私はベッドサイドに立てかけた愛犬の写真をゆっくりと撫でて眠りについた。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
珠弥(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

働く傍ら、日常体験を軸に執筆修行中。心を温められるような、記事を届けられるようになりたい。2020年12月~天狼院書店で受講開始。

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2021-11-24 | Posted in 週刊READING LIFE vol.149

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