週刊READING LIFE vol.150

本当にエコロジーなの?《週刊READING LIFE Vol.150 知られざる雑学》


2021/12/06/公開
記事:山田THX将治(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
『持続可能な開発目標』の旗の下、猫も杓子も“SDGs(Sustainable Development Goals )”を掛け声にしている。
持続可能な社会を実現することに、異論を挟み込む余地はない。しかし、細かな点で疑問を禁じ得ないのも事実だ。
例えば、持続可能とは、必ずしも新規の開発を伴わなければならい必要があるのだろうかということだ。これまでの活動を、改善することで持続出来ないのかと思うのだ。
その方が、親しみやすくもあり、受け容れ易いと考えるからだ。
人間誰しも、とくに年配者は、新しい物事を躊躇い面倒と思うのが常だ。
 
ここは一つ、難しい話は専門家に任せる方が得策なのかもしれない。
 
 
このところ、地球環境の健全な持続性の為に温室効果ガス削減が叫ばれている。最近の地球の気温上昇は、看過出来ないという観点からだ。
当然のことだ。
何しろ毎年夏に為ると、地球上の至る所で、史上最高気温が更新されているのだ。
 
温室効果ガスの代表的なものは、CO₂(二酸化炭素)だ。そこで世界各国は、一斉にCO₂削減を声高に叫んでいる。今の内に、CO₂排出を抑制しないと地球上で人間が住むことが出来ない環境に為ってしまうというのだ。
思い起こせば、1970年代も環境汚染が問題視されていた。その際は、温室効果ガス等という語彙は無く、そこに有ったのは単に“排気ガス”だけだった。現代と大きく違っていたのは、工場の煙突から出る真っ黒な煙だ。遠目で見ているだけでも、身体に悪いことが解る程だった。それ程、排出されている煙は黒かった。
 
しかも、現代では考えられない位に住宅街と工場が近かった。言い換えるならば、住宅街に平気で工場が存在していた。特に、私が住んでいた東京の下町では、町工場の隙間に、住居があるといった方が的確だったかもしれない。下町の空は、現代と色が全く違っていた。冗談ではなく、真夏の日中に子供は外へ出させて貰えなかったし、窓は閉め切られたものだった。外気の状態が、見るからに汚染されていたからだ。
工場の排煙と同時に、自動車の排気ガスも問題視された。当時の自動車は、現代よりも数段濃い色の排気ガスをマフラーから吐き出していた。
 
ただ、その時代を過ごした者は、温室効果ガスと聞いても、然程の危機感を感じてはいない。何故なら、最悪の時代を過ごしてきたからだ。
 
 
昨今の温室効果ガス削減の、矢面に立たされているのが自動車だ。しかしこれだって、先の1970年代に燃費の悪さ故、有鉛ガソリンをそれこそバラ撒く様に走っていた時代に比べれば、現代の自動車は十二分にクリーンと言える筈だ。
それでも自動車が、温室効果ガス排出の元凶とされているのは何故だろう。
多分それは、日常生活で目にし易いからだろう。
実際、石油を最も精製した状態のナフサで構成されるガソリンは、船舶で用いられるB・C級重油よりは、排気に含まれるCO₂は格段に少ないと思われる。
航空機だって、燃料であるジェット燃料は、成分はほぼ灯油と同じだ。従って、燃やすとガソリンよりは高温になる。高温の排気が、遥か上空で排出されるのだから、地球も守るオゾン層に悪影響を加えない訳が無い。
 
しかし、手っ取り早く批判の対象とされた自動車は、あれよあれよという間にガソリンを燃料とするレシプロ内燃機(エンジン)動力から、モーターを電力で動かすEV(電気自動車)にシフトしつつある。
一部の外国では、2030年までに新車販売を全てEVにすると宣言している。
ドイツ最大の自動車メーカーでは、段階的にガソリン・エンジン車を減らすと宣言した。
日本人としてショックなのは、内燃機の申し子の様な自動車メーカーが、EV化の対応する為に自動車(ガソリン・エンジン)レースの最高峰から今年一杯で撤退する。
 
だたこれでは、自動車の内で自家用車のカテゴリーしか対応してはいない。自動車の多くを占める、トラックやバスといった商用車は対応出来ていない。
何しろ、充電した電気で走らせるEVは、未だに走行距離が短いからだ。走行距離を延ばす為に、今まで以上に大きな充電用蓄電池を積むと、今まで以上に車重が重くなる。自家用車は走行距離が短く為るし、商用車は積載量が減ってしまうデメリットがある。
その上、簡単に給油できるガソリン車に比べ、EVの充電時間ははるかに長くなる点も問題だ。
要するに、毎日コンスタントに車を利用したり、旅行等で長距離移動をしなければならない時に、EVは実に不便極まりない乗り物なのだ。
 
 
自動車のEV化は、自動車産業が主力である日本経済にとっても大問題だ。
何故なら、2万点ともいわれるガソリン車の部品点数が、EVと為ると1/4程に為ってしまうのだ。
自動車を造る方としては、部品点数が減ることは良いことかも知れない。しかし、多くの部品をこれまで必要としてきた日本の自動車産業は、巨大なサプライチェーンを構築している。当然のことながら、そこに従事する人は大変多い。
もし、一気に自動車がEV化してしまうと、多くの人が職を失い、路頭に迷う状態に為り兼ねないのだ。
 
そして、現代のハイブリッドカー(ガソリンとエンジンの併用車)やEVに搭載されている充電用電池は、リチウムイオン電池だ。この、リチウムイオン電池が、今後の環境に大きな影を落としかねないのだ。
何故なら、現行のガソリン車は概ね再生率が98%といわれている。ガソリン車が廃車されても、その殆どの部位・部品が転用されるか再び別の形に変化し利用されているのだ。
ところが、充電用のリチウムイオン電池は、再生“不可能”なのだ。電池を形成するケースは、鉄製なので再生しようと思えば出来ないことは無い。しかし、内蔵されているリチウムは、電気を貯め込む機能が低下しても、再び向上させることは出来ない。その上、リチウムの廃棄方法は、未だ的確なものが見付かってはいない。丁度、核燃料の廃棄物と同じだ。
こうなると、数十年後にはEV化によって温室効果ガスが減ったとしても、リチウムイオン電池の廃棄場所に困ることに為るだけだろう。
 
もう一つ、EVには問題が有る。
先にも述べたが、自動車がEV化されようとしているのは、CO₂の排出を抑える為だ。
だがしかし、工業統計によると、EV生産で排出されるCO₂は、ガソリン車を製造する為に排出されるそれより格段に多いというのだ。こうなると、後でCO₂を出さなくする為に、事前にその分を吐き出しているに過ぎない。
地球環境にとっては、後でも先でも同じ事なのだ。
その点が、日本のマスメディアでは、滅多に報道されないのが不思議でならない。
 
 
見方を変えると、EVにもっと大きな問題点が見えてくる。
それは、EVの動力源が電気だからだ。
 
最近では、水力を始めとして、風力・太陽光・地熱・波動といった環境に優しい発電が推進されている。『再生可能エネルギー』という物だ。
ところが現実は、発電量における再生可能エネルギーの比率は、まだまだ小率でしかない。世界の発電では、その多くが火力発電に頼ることと為っている。
特に日本では、2011年の東日本大震災以降、殆どの原子力発電所が再稼働出来ていない。元々日本では、全発電量の30%を原子力で賄おうとしていた。これが、需給のバランスが最も安定すると思われたからだ。
ところが、震災により事態が一転してしまった。原子力発電所が一斉に停止したからだ。水力を始めとする再生可能エネルギーの比率を上げようにも、一朝一夕で出来ることでは無い。何しろそこ迄、インフラが整ってはいないのだ。
いきおい、火力発電所がフル稼働を始めた。中では、使われなくなった旧式の火力発電所まで稼働させる事態となった。
もうこうなると、CO₂排出抑制はどこへやらだ。
 
また、震災という大事態が有った日本以外でも、諸外国で火力発電所の稼働率が上がっている。それは、経済発展による電力需要の高まりや、EVによる自動車燃料のシフトチェンジが原因だ。
ここで問題と為るのは、日本の火力発電所は外国のそれと違って、まだ、マシな方だということだ。排出されるCO₂が、抑制する技術があるからだ。
ところが外国ともなると、事情が違ってくる。未だに20世紀に建てられた、旧式の火力発電所が殆どなのだ。当然の結果として、大量のCO₂が排出されることと為る。何しろ一部の石炭産出国では、未だに、CO₂を多く排出する石炭発電が主力というのだから驚かされるばかりだ。
 
こうなると、温室効果ガスの代表であるCO₂排出抑制の為に、国を挙げてEV化を推進することによって、かえって余分なCO₂を排出していることに他ならない。
要するに、現代のEV化は、CO₂抑制に思った程の効果が無いのだ。
ここでは敢えて名前を秘すが、ある国では自動車全てをEVにしてもCO₂削減率は数%にとどまるという統計が出ている。
そればかりか、アフリカのある国では、全てEV化されるとかえってCO₂排出が増えてしまうという説もあるくらいだ。
 
 
そして誰も言わないことだが、昨今の暴走による自動車事故の多くが、EVの前身でもあるハイブリッドカーによるものだ。
事故の原因についての断定は、専門家に任せるが、私は、EV化推進が自動車による交通事故を増やしていると思えてならない。実際何度か、後ろから近づくEVやハイブリッドカーに驚いた経験が有る。EVは、全くエンジン音がしないので当然のことだが。
 
 
ここは一つ、CO₂排出抑制の為の安易なEV推進を、一度立ち止まって考えてみませんか。
 
エンジン音がうるさく、排気ガス臭がひどく、しかもシフトがマニュアルで運転に手間が掛かる、環境には最悪なスポーツカーが大好きな私は、そう主張し続けたいのだ。
 
 
そして、後十数年と思われる私の余命の内に、ガソリン・エンジン車が絶滅しないことを祈るばかりだ。
 
ガソリン・エンジンを動力とするスポーツカーのドライブは、EVでは決して味わうことが出来ない楽しさだって有るのだから。
運転のしようによっては、エコにだって貢献出来るしね。
 
ほんの、ほんの少しだけですが。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部湘南編集部所属 READING LIFE公認ライター)

1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数15,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックの想い出を伝えて好評を頂いた『2020に伝えたい1964』を連載
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する
天狼院メディアグランプリ38th~41st Season 四連覇達成

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2021-12-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol.150

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