週刊READING LIFE vol.151

夏休みという、人が生き方を追い求める時空間──私たち兄弟はその夏休みでどのようにプレイスタイルの道を分けたのか《週刊READING LIFE Vol.151 思い出のゲーム》

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2021/12/14/公開
記事:高橋拓己(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
小学生の夏休みというのは、不思議な時空間だ。
1ヶ月半という幼心にはとても長く感じる時、毎日変わらない1日の連続で絵日記をつけるのに苦労したのを覚えている。今の私が仕事先の業務日報に書いている「報告:前日と同様」と何ら変わらない内容だった。
 
退屈だったかと聞かれれば勿論そうでもない。夏休みの子供には適当にゲームと虫取セットがあれば十分だ。近所でけたましく鳴き続けるセミを捕まえに外出はしたくなるし、あるいは冷房のきいた部屋でずっとTVの前に座りゲームをし続ける。
新たなモノを見つけに、新たな何かを得るために。
夏休みとはそういった冒険を存分に楽しめることが出来る時空間だ。
 
そういった外出やゲーム熱中には事故や知能教育の妨げという危険性をはらんでいると世間の常識は耳が痛くなるほど注意してくるが、しかし成る程私のように生傷の絶えない成績不振な小学生が生まれる一因にはなっただろうが、外へと視点を広げる積極性と何かに集中するという情操教育にはなるのではないかと物書きとなった私は考える。
 
私がそんな学生たちと少し違う点は、日中常に弟と二人で過ごしてたところにある。
それ自体は世界全体で1億無数にありふれた、地域全体に範囲をしぼってもそんな家庭はあるあるなものであったが、普通に仲がいいか、もしくは気まずさや馬の合わなさで距離を置くかのどちらかだろうに対し、私と弟はそのどちらでもあった。
 
小学生の頃の私といえば一番は本が好きであり、小学生時代の半分は図書室で過ごしたと言えるほどだ。この半分というのは、3年生の頃から図書室へは自由に出入りしていいことを知ったからであり、もっと早く知っていれば私の小学生時代の居場所は全て図書室だっただろう。それほどまでに私は本を求め、己が求める知識を探索し続けた。
 
弟は弟なだけあって、いつも2番目に遊ぶ、私の後ろをついて遊びにいくような奴だった。私の遊んでいるゲームには進んで協力プレイを求め、私はよく弟と共にゲームをプレイしていた。
それでいて、私よりもゲームは上手い、運動神経がある。何をしても私の上を行く。高学年になるとバスケットの道へも進み始め、私と違い仲間と協力して全力で勝つ喜びというのを知っていった。
そのことについて、私は少なからずコンプレックスを抱くのと同時に、そんな上手いプレイを見せる弟を見るのが素直に楽しかった。
 
つまりは、私と弟はよくある正反対な性格の仲であり、虫取りやゲームだけがお互いに楽しみを共有し合えるものだった。
ことさらに、ゲームが一番兄弟感で盛り上がるものであった。共に競いあい、勝っていく興奮と自尊心がお互いを盛り上げたのだろう。
 
性格の違いが顕著に表れたのは、ベーゴマという古きよき遊戯で遊んだときであった。
私にとってコンプレックスと羨望の対象である弟は、よく夏休みに私をゲームに誘った。
遊んでいたシリーズの名は『ニンジャゴー』というものだった。ベーゴマ的なレゴパーツの上に忍者のレゴフィギュアをセットし、武器を持たせて互いのコマをぶつけ合って相手を落とすゲームだ。
 
弟のカスタマイズしたコマは、レゴのチェーン状のパーツをコマ本体の周りに取り付けた、さながら鎖鎌を振り回す忍者。もっというなら、処刑用の斧を鎖で振り回す無慈悲な執行人のような風貌。
対して私は、コマ本体には牙状のパーツを取り付け、相手のコマを引っ掻けて転がすことを目的とした、口内剥き出しの獣、もしくはインディアンのように誇り高い装飾を身に纏った戦士。
勝敗は今にして思っても覆ることは不可能なものだった。リーチは弟の方が明らかに上であり、牙を装備して近づく前に私のコマの上の忍者は弟のチェーンに絡み取られ、常に遥か彼方まで投げ飛ばされ決着がついた。
常に勝ち続けることに喜んだ弟、対して私はそりゃ負けるわなという諦めからの自嘲、そしてそれ以上に自らの信じる誇り高き装備でどう勝てるか、答えの行き詰まっている問いに模索し続けた。
 
夏休みの間、弟は勝つ楽しみを求め続けた。面白いのは、私が本を優先してわざと負けると激昂した点だ。弟は一度怒ると中々それを納めてくれない。それほどまでの方向性が私の怠慢へと向けられたことに、弟にとっての並々ならぬ拘りというものを今では感じ取れる。
 
喜びはいつしか飽きへと変わり、誇りはいつしかコンプレックスへと変わった。
弟は常に喜び、しかし私をこの勝負に誘う機会は減っていた。私はといえば、今思えば素直にチェーンをつければ良かったんじゃないかと。または私が忘れただけで、最後には己が誇りを捨てて弟の二番煎じを作っていたかもしれないと回想している。その方向転換の寸前になって、弟と私は『ニンジャゴー』を回すことを止めていった。
弟と私の興味はすぐにゲームへと移り、お互いに協力し合える遊びへと道を求めた。
その点、マリオのゲームは対戦要素が少なくお互いに協力し合う前提の攻略法方が私たち兄弟の夏休みに楽しい思い出をもたらした。
『ニンジャゴー』のことなどすぐに忘れ、心境の変化というものは幼心の楽しさというものへの欲求によって消され、よくある仲良し兄弟の姿へとなり、夏休みを過ごし終えた。
当時家庭にあったのはWiiというゲーム機であり、持っているソフトは『マリオカートWii』『大乱闘スマッシュブラザーズx』、そして『スーパーマリオギャラクシー』と『NewスーパーマリオブラザーズWii』であった。
 
どのソフトでも、弟は私の上をいく実力でゲームを攻略していった。
別にゲームが特別上手い訳じゃなく、ただ良いタイミングでボタンを操作するだけ。『マリオカートWii』ではカートの間をすり抜けて自車を勢いよく走らせ、『大乱闘スマッシュブラザーズx』ではガードや絞め技も駆使して相手をねじ伏せる。ただ私よりもセンスがよく、私よりは物覚えが良かっただけのこと。
 
私はといえば、今回想すると確かに弟に対して色々思うところはあったようだが、当時は自分なりに楽しく遊ぶプレイに熱中していた。
夏休みは虫をたくさん捕まえるだけ、ゲームをたくさんクリアするだけ。それだけを追い求め、私は弟の誘いに乗ってゲームなどを遊びこんだ。
プレイスタイルの差は一目瞭然だった。素早いボタン入力で無駄のないコマンドを叩き出す弟、大振りでインパクトのある技しか打たない私。
弟にとって動きが単調な私は足手まといであったかもしれないし、逆に大技が決まったときは共に爆笑するほど楽しみを共有はし合っていたと思う。
 
今そんな不思議な関係性の一時を覚えているのは私ぐらいで、ゲーム実況配信者となった弟にこんな回想はないだろう。
お互いに進む道も変わった。私は大学をのんべんだらりと過ごして卒業し、何だかんだ職にもありつけて悠々自適な生活を自分なりに過ごしている。一方弟の方は私より先に社会の荒波を経験し、今はバイトで生活費を稼ぎながらゲーム実況を行っている。
 
それが何だという話だし、別に夏休みをそんな経験したからとって今の生活があるわけでもない。
 
ただ、私はあの日から殆んど変わっていない。自分の求める格好よさと知識を求めて今でも図書館に入り浸るし、弟は上手いゲームの攻略法を常に魅せ続けている。
 
『ニンジャゴー』でのプレイスタイルの違いは、今のお互いのライフスタイルの縮図だったのだろう。弟は堅実な生き方を、私は格好よく生きることを選んだ。
その事に今まで気づけなかったのは、社会が私たちのそんな生き方を受け入れるわけでもなかったからだ。
バイトへと落ち着いた成人の弟を見ていると、アイツはアイツなりの生き方で社会と向き合い、紆余曲折を経て今に至ることは私の想像の範囲を越えたところにあるのだろう。
私はといえば未だに弟に勝つビジョンすら見れないまま今日へと至り、本当に今の自分は格好いいのか自問自答しながら物書きを続ける毎日だ。
 
しかし、夏休みに「レゴ ニンジャゴー」を遊ぶなかで明確になったプレイスタイルは、互いなりのライフスタイルとして貫き続けている。
上手くいったいかなったというよりも、小学生の頃に培ったスタイルで今を過ごせている。これは奇跡でもあり、そして夏休みの遊びが必ずしも悪影響が出るわけではなく、むしろ兄弟2人の生き方という道を舗装したものではないだろうか。
 
弟はもう私の後ろを歩かず、自分のやりやすい生き方を模索し続けている。
私はといえば、あの時空間で弟に勝てなかったコンプレックスだけは既にない。今では何を持って弟に勝てるか考えるだけで要らぬものであるし、私は私なりの楽しさを追い求め続け、あの夏休みを過ごしたことから弟ともに殆んど変わっていない。
私はその生き方という牙を尖らせ誇りに思っている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
高橋拓己(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京成徳大学人文学部卒。将来刻む墓碑銘は「クールなライター高橋拓己、ここに眠る」

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2021-12-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol.151

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