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週刊READING LIFE vol.151

最弱で最強の「すっぴん」《週刊READING LIFE Vol.151 思い出のゲーム》


2021/12/14/公開
記事:河口真由美(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
自分の子供がゲームばかりしていると「何時間してるの!!」と、つい怒ってしまうが、本当のことを言ってしまえば、子供を怒れる立場ではない。
今でこそ全くゲームをしなくなったが、私も小学生から高校生までの学生時代、家にいるほとんどの時間をゲームに捧げてきた。もしかすると自分の子供よりもゲームをしていたかもしれない。
 
特に愛してやまなかったRPG(割り当てられたキャラクターを操作して、冒険をしていく)ゲームがある。
ゲーム界では知らない人がいないほど世界的に有名な『FINAL FANTASY(以後、FF)』シリーズだ。
1987年から始まったこのシリーズは、2021年現在は15作目となる「FF XV」まで発売されていて、今後16作目となる「FF XIV」が発売予定のようだ。
 
私が思うFFの魅力は何と言っても作品全体のストーリーが壮大なことだ。ゲームをクリアすると、ひとつの大作映画を見終わったときのような感覚になる。なおかつ自分でストーリーを進めていくので、映画よりも、より感情移入がしやすい。
メインキャラクターだけではなく、登場する各キャラクターの設定も非常に細かく、キャラクターひとりひとりが隠された過去や秘密、目的をもっていて、自分が育てたキャラクターたちが、葛藤しながらも成長していく姿は、“自分事”として物語の世界観に引き込まれてしまう。
 
どのシリーズも本当に面白く、特に「FF V」から「FF XII」が発売されたのが学生時代だったこともあり、それらは何度も繰り返しプレイした。この中から、どれかひとつだけ思い出の作品を選ぶなんて、難しすぎる! 何か条件をつけなければ、とても選べない。
なので、“今の私の目線”という条件をつけて、シリーズの中から、あえて……、あえて、ひとつだけ選んでみる。
 
私の思い出のゲームは『FF V』だ。
 
『FF V』は、スーパーファミコン時代の1992年にスクウェア(現:スクウェア・エニックス)から発売された『FF』シリーズの本編第5作目にあたる。
 
『FF V』の世界では風・水・火・土の4つのクリスタルの力によってバランスが保たれている。この世界の住人たちは、クリスタルの力を増幅させるマシンを開発し、そのエネルギーを使って生活していた。
しかし、それがクリスタルの破壊を招き、クリスタルに封印されていた暗黒魔導士エクスデスが解き放たれてしまう。エクスデスは4つのクリスタルを次から次に破壊していき、世界を支配しようとする。
これを阻止しようと、4人の光の戦士たちが、立ち向かっていく物語だ。
 
この物語の中で、主人公たちは違う世界を行き来したり、次元の狭間に落ちたり、飛竜に乗ったりと、まさにファンタジーそのものの世界を生きている。
けれども、キャラクターが成長する過程は、現実世界に非常に通ずるものがある。
 
『FF V』には「ジョブチェンジシステム」と「アビリティシステム」といわれるキャラクター育成システムがある。何といってもこれが本当に面白い。
 
まず、各キャラクターは、ナイト、狩人、白魔導士、黒魔導士、忍者、侍のほかに、面白いのは吟遊詩人や踊り子など、全22種類(※スーパーファミコン版の場合)のジョブが設定できる。
そして、そのジョブには「アビリティ」という、ジョブ固有の特性なものがあり、ジョブのレベルが上がっていけば、アビリティのレベルも上がっていく。
 
うーん、ちょっと難しい。
わかりやすく現実の世界に例えてみよう。
 
私の場合、ジョブは「システムエンジニア」、アビリティは「プログラミング」みたいな感じだ。
そして、アビリティのレベルとして、「プログラミング」⇒「プロジェクトリーダー」⇒「プロジェクトマネージャー」に成長する。
 
 
各キャラクターはいつでも好きなジョブになることができ、ジョブ固有のアビリティの他に、一つだけ別のアビリティが使えるようになる。
 
これも、難しい。
もう一度、私で例えてみよう。
私がジョブチェンジしてYoutuberになった場合、私のジョブは「Youtuber」で、アビリティは「動画制作」になる。これに「プログラミング」というアビリティもつけることができ、プログラミング動画を制作できるよ、というような感じだ。
 
もし私がシステムエンジニアのアビリティレベルとして、「プロジェクトマネージャー」までレベルアップしていたら、「Youtuber」になったときに「プロジェクトマネージャー」のアビリティをつけて、動画制作を外部発注して管理ができるよ、というようになる。
 
これらを色々な「ジョブ」、色々な「アビリティ」のパターンで、組み合わせて戦って攻略していくことが、この『FF V』のまさに醍醐味ともいえる。
 
 
全22種類のジョブの中でも衝撃的だったのが、「すっぴん」というジョブだ。
「すっぴん」はキャラクターの素の状態で、他のジョブと比べて、ちょっと特殊なジョブになる。
「すっぴん」の特徴を細かく説明すると、難しいので要約すると、「すっぴん」自体は何もアビリティをもっておらず、もし、物語の最初から最後まで「すっぴん」を選んだままでいると、いくら敵と戦い続けてレベル上げをしても、成長せず、何もできない最弱のジョブとなってしまう。というか、敵に勝てないだろう。
けれども、他のジョブをマスターしていくと、その特性やステータス(力や体力、魔力など)を引き継ぐことができる。つまり、他のジョブをマスターすればするほど、「すっぴん」も成長するのだ。
さらに、他のジョブが装備できる武器や防具が限られるのに対し、「すっぴん」はどんな武器や防具でも装備ができる。
 
当時は、なんて面白い仕組みなんだろう! と思ってプレイしていたが、今改めて振り返ってみると、なんて深い仕組みなんだろうと思う。
 
 
まさに現実世界でも同じことが言える。
 
またまた私で例えてみたい。
キャラクターの最初の状態である「すっぴん」は、いわば「無職」のような状態だ。
私はシステム会社に就職し、初めて「システムエンジニア」というジョブを付けて、「プログラミング」というアビリティを獲得する。
さらに「プロジェクトリーダー」、「プロジェクトマネージャ」までマスターさせると、素のキャラクターである私自身にはプログラミング能力や、プロジェクト管理能力が残る。
また、時間内に仕事を終わらせる「力」や、仕事をスピーディにこなす「素早さ」などのステータスも一緒に身についている。
実際の私がプロジェクト管理能力まで身につけれたかどうかはさておき、「システムエンジニア」というジョブをマスターすると、次のジョブにチャレンジしたくなる。
しかし、別のジョブの最弱の状態からスタートするには非常に勇気がいる。
これは、まさに現実世界でいう「転職」のようなものだと言える。
でも、違う職業にどんどんチャレンジしていくことで、「すっぴん」である素のキャラクターは、経験と知識を積み重ねてどんどん成長していく。
 
『すっぴん=何も持たない無職』から、『すっぴん=何でもできるフリーランス』へ成長できるのだ。
 
つまり、「すっぴん」は、最弱であって最強なのだ。
 
 
「ジョブ」と「アビリティ」を組み合わせて、戦って、攻略していくことが、このゲームの醍醐味と述べたように、インターネット上ではプレイヤーたちが、自分が思う最強の組み合わせをWebサイトやYoutube上にアップしている。
それを見てみると、「踊り子」と「かくとう」など、まさかの組み合わせが最強の技を繰り出している。
 
何を言いたいかというと、まったく関係ないと思った仕事とアビリティを組み合わせると、意外な力を発揮するのではないか、ということだ。
ひとつの仕事をずっと続けていると、その仕事の中でしか「アビリティ」を伸ばそうとしないため、そのままではできることも限られてしまう。でも、まったく違う仕事にチャレンジしてみることで、関係ないと思っていた「アビリティ」が組み合わさって、意外な力を発揮してくれる。
 
実際に私も、システムエンジニアの仕事を辞め、新しいジョブへチャレンジしようとしている。
そのために始めたデザインやライティングなどの勉強だったが、最近になって、この2つのアビリティがシステムエンジニアの仕事に非常に役立っていることを身に染みて感じている。
 
「自分のジョブはこれだから、このアビリティしか習得しない」と決めつけるのではなく、幅広くいろんなジョブを知り、勉強することで「すっぴん」は強くなっていくのだ。
 
 
大人になって、ゲームをしなくなってからも、ずっと『FF V』のことは忘れられないでいた。
30年も前に作られたこのゲームは、まさにフリーランスへチャレンジしようとしている“今の私”を応援してくれる思い出のゲームだ。
 
私も最強の「すっぴん」を目指して、レベル上げを続けていきたい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
河口真由美(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県在住。システムエンジニアとしてIT企業に17年間勤務。
夢は「おばあちゃんになってもバリバリ働いて、誰かの役に立ち続けること」
40歳で人生をリニューアルスタート。ライティングをはじめ、新しいことにチャレンジしながら夢に向かって猪突猛進中。

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2021-12-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol.151

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