週刊READING LIFE vol.155

耳つぼダイエットで7㎏減量に成功した私、でも、それ以上に得られたモノがあった《週刊READING LIFE Vol.155 人生の分岐点》


2022/1/31/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「えっと、今日のお昼ご飯はだいたい550キロカロリーね」
 
短大時代、そして会社員になって数年経つ頃まで、私はいつも食べ物のカロリー計算をしていた。
というか、勝手に頭で計算をしてしまっていたのだ。
大人になって、周りの人からは、「そんなに太ってないやん」と言われるようになったが、私のコンプレックスは、小学生の頃から太っていたことだった。
 
昭和一桁生まれの母は、私たち兄妹3人には、いつも大量の食事を用意していた。
晩ご飯のおかずが餃子やシュウマイなら100個は当たり前、小学校が午前中まであった土曜日のお昼ご飯には、ホットドッグは18個くらい普通に作っていた。
当時の母は、子どもは太っているくらいでちょうどいい、と思っていたのだ。
食べ物がない時代を経験した母にとっては、食べられることはありがたい、食べられる時にたくさん食べておくべきだ、という考えもあったのだろう。
そんなこともあって、食べ盛りの3兄妹は争うように食べていた。
 
すると、ある時、自分が周りの友だちと少し違うことに気づいた。
 
「私、太っている」
 
そうすると、周りの女子はみんなかわいいのに、なんだか自分だけはぼてっとした体型と、二重あごの顔が嫌いになっていった。
おまけにメガネをかけていた私は、さらに最悪の見た目だったのだ。
ずっと太っていることがイヤだったが、小学生の頃は母の思いが強く、食べ物を残すものならば、叱られたのだ。
好きなモノは大量に食べ、好きでないモノも無理にでも食べさせられた私に、痩せる機会は全くなかった。
 
そんな私が意を決して、本気で痩せたいと思ったのは、高校に入った時だった。
ちょうどそのころ、近所に出来たバレエ教室に通うことになったのだ。
宝塚歌劇にハマり、もうさすがに高校生からは宝塚音楽学校の受験は無理だが、どうしても真似事でもいいからやってみたくてバレエのレッスンを始めたのだ。
バレエのお教室というのは、壁という壁は全て鏡張り。
どこをどの角度から見ても、自分の姿が見えるのだ。
しかも、バレエのレッスンには、レオタードという水着のようなウエアにピンクのタイツをはくのだ。
体型がこれでもかという程、見せつけられるその姿に私は毎日うんざりしたものだ。
 
そんな話を腰痛の治療で通っていた鍼灸院の先生に話すと、こんなことを言われたのだ。
 
「耳つぼを刺激する鍼があってね、食欲を抑えることができるんやけど、やってみる?効果には個人差があるから、効くかどうかはやってみないとわからないんやけど」
私は即答した。
 
「先生、それ、やりたいです」
 
耳つぼダイエットの鍼は、円心鍼といって5ミリほどの円の形になっているところから3ミリほどの鍼が直角に立ち上がったような形をしていた。
耳のツボに刺した鍼を肌色の小さな丸い絆創膏で留めておくのだ。
耳には食欲を司るツボがあるそうで、そこに円心鍼を刺して1週間過ごすのだ。
それを通院ごとに、左右順番に施術してもらった。
すると、みるみるうちに効果が現れて、うそのように食欲がわかなくなっていったのだ。
日ごとに痩せてゆくことが、生まれて初めての経験で、嬉しくて仕方がなかった。
鍼灸院の先生もびっくりで、「効いてるね、良かったね」と、円心鍼のダイエット効果に驚かれていた。
 
その耳つぼダイエットを始めたのは、確か秋だったのだが、冬になる頃には私は7キロのダイエットが出来ていた。
人間、7キロ痩せると、あまり親しくない人も声をかけてくるくらい、明らかな変化が見て取れるものだ。
バレエのお教室で、痩せてすっきりした自分の体型を見て、先生方からも、「ウエスト、こ~んなに細くなってスゴイね」と言われるとさらに嬉しかった。
 
ところが、今思うととんでもないことなのだが、その耳つぼダイエットで7キロ痩せたのは、たったの1カ月半くらいの時間だった。
急激に痩せたことで、後から色んな不具合が出て来た。
まずは、生理が止まってしまった。
さらには、いつもの冬の寒さが耐えられないくらいの寒さで、外出が出来なくなってしまった。
体育の時間、息切れが激しくて授業が受けられないくらいになってしまったのだ。
きっと、痩せるところがなくなり、内臓にまでも支障が出てきていたのだろう、考えてみたら怖い状態だった。
 
無理なダイエットというのは、身体に変化を起こすだけでなく、精神面にも影響を及ぼしていった。
ヤル気がなくなっていったのだ。
ちょうど受験に向けて勉強を追い込んでゆかなければならない時期なのに、勉強をする気が起こらなかったのだ。
それどころか、学校へ行く気力さえもなくなっていった。
 
食べることを抑えていると、面白いもので、食べることにしか興味がわかないのだ。
せっかく痩せた身体をキープしたくて、もう二度と太りたくなくて、カロリー計算を始めたのだ。
 
「お昼ご飯は〇〇キロカロリーまでならば食べていいから」
 
食事のメニューを決めるのも、カロリー計算からだった。
ちょうど思春期、食べ盛りだったのに私の食事は味気ないものへとどんどん変わっていったのだ。
お菓子も食べたいから、自分でカロリー計算をして作っていた。
朝からお菓子が作りたくて、学校を休む日もあった。
テレビを一日中見ながら、お菓子を作って、カロリー計算をした食事を食べて。
デザート用のリンゴやミカンを黙々とむいて、タッパーに詰めたり。
 
今思うと、絶対に精神までも病んでいたのだろう。
救いだったのは、母が学校に行かないことも、一日中好きなことをしていることも、一度も叱らなかったのだ。
 
「好きなことをしてたらいいやん」「学校に行きたくなかったら、休んでゆっくりしておいたらいいやん」
と言って私のやることを放任してくれていた。
 
学校に登校する日は、制服だけでは寒かったので、スカートの下にニットのスカートを重ねてはき、なんとか通い続けた。
あの頃、学校で友だちと何を話していたのか、どんな勉強をしていたのか、ほとんど記憶がないのだ。
学生生活の一番楽しい時期、私は無理なダイエットによって、心身に支障が出てしまい思い出しても危ない時間を過ごしていた。
 
ただ一つだけ、今思うと良かったことがある。
子どもの頃から几帳面で何でもきっちりとやらないと済まない性格だった私。
大雑把な母からは、いつも「やりにくい子」と言われていた私。
そんな性格が、耳つぼダイエットをすることでガラリと変わったのだ。
 
きっちりとしたくても、寒くて動けなかったり。
気力がなくなっていったとき、初めて「面倒臭い」という思いを体験し、やり切らない気持ち悪さがなくなっていった。
いつも尖っていた角が全部とれてゆき、まあるい自分になっていったのだ。
 
「別にきっちりやってなくても、死なへんし」
 
そんな考えが初めて生まれてきたのだ。
 
私が自分の人生を振り返ってみると、たくさんの経験をしてきた。
失敗と思えることもたくさんあったし、離婚も経験した。
けれども、私の初めての人生の分岐点と呼べるのは、あの耳つぼダイエットで無茶苦茶なダイエットをして、心身共に変わったことだろう。
自分でもしんどかった性格が、時には「テキトーでいいやん」と思えることが出来て、逆に生きやすくなっていったこと。
これは、その後の人生を身軽に生きられるようにしてくれた。
 
誰にもおススメ出来ないし、もうあんなダイエットは絶対にダメだと思うけれど、そんな経験からも得られるモノはあったし、成長させてくれたと思う。
止まっていた生理は、短大を卒業するころには再開したし、娘を授かることもできた。
 
そして、今から10年ほど前、私は耳つぼダイエットに再会した。
それは、鍼灸院での治療というものではなく、スワロフスキーのきらきらした石がついたシールを耳のツボに貼るというものだった。
教えてくれた友人は、ジワジワと効き目があって、さらには耳元のアクセサリーのようでおしゃれだというのだ。
私は、久しぶりに、あの無謀だった耳つぼダイエットを思い出した。
 
結局、会社員になって、ストレスや業務の忙しさで自然に体重が落ち、ダイエットを意識することもなくなっていった。
大人になってから再開したバレエのレッスンで、鏡を見てコンプレックスを感じることもなくなった。
 
友だちが教えてくれた、赤や青、緑のキラキラしたスワロフスキーの石がのった耳つぼダイエットシールを見ていると、高校生の頃、無我夢中で痩せたいと思っていた自分が愛おしく思えてきた。
必死だったよな、痩せたいと思う一心だったよな。
今思うと、健気だったな。
 
そんなことが頭をよぎると、一生懸命頑張っていたあの頃の自分を心の中でギュッと抱きしめたくなった。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。

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2022-01-26 | Posted in 週刊READING LIFE vol.155

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