週刊READING LIFE vol.157

終わりまでのカウントダウン《週刊READING LIFE Vol.157 泣いても笑っても》


2022/02/14/公開
記事:河口真由美(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
月曜日、火曜日……、金曜日。あぁ、ようやく金曜日だ!
週休二日制の会社に勤務する私は、月曜日からカウントダウンが始まる。一番苦しいのは木曜日。ここでひと踏ん張りをすれば、ようやく金曜日になる。金曜日は心が半分休みに入っているので、ある程度仕事が辛くても、なんとか頑張れる。そして土日が一瞬に過ぎ去って、またカウントダウン……。
毎日が同じことの繰り返し。
電車に乗って、コンビニでお昼ご飯を買って、挑戦的なロックミュージックを聴きながら、気合いを入れて会社までの道のりを歩く。エレベーターに乗り、席に着き、その日のタスクを次々とこなしていく。
 
今の会社に入って18年目に突入した。
私は、15,000人規模の社員を抱えた大手会社の業務を支えるためのシステムを開発・保守する部門に所属している。国の法改正に合わせてシステムを修正したり、WindowsのバージョンがXPから10に上がったりするようなIT社会の進化に合わせて、古くなったシステムを新しく作り替えたりするのが主な仕事だ。
 
客先の担当者が替わることがあっても、対会社としては、ずっと同じお客様と仕事を続けている。
そして、ひとつひとつの仕事内容が違っていても、基本的には同じことの繰り返しだ。
新しいプロジェクトが立ち上がったら、そのプロジェクトに参画して、納期から逆算し、スケジュールを作って、開発を進めていく。
 
仕事をする客先の担当者は、システム部門の担当であって、実際にシステムを利用しているわけではない。そのため、私はシステムを実際に利用している人たちの顔を見ることはない。
作って、テストして、納品して終わりだ。
自分が関わったシステムを利用しているお客様の顔を見ることができない。
ましてや「このシステムがあって助かった」という声を聞くことなんて一切ない。
システム部門の担当者からは、やって当たり前、できて当たり前と思われている。
こんなにやりがいを感じないことがあるだろうか。
私は何のために仕事をしているんだろう……。
 
入社して17年もたった頃には、そんな悩みも通り過ぎて、ただのロボットのように仕事をしている自分がいた。
毎日同じことを淡々と繰り返して、そこには情熱もなく、思いもなく、目の前にあるのは山のようなタスクだけ。

 

 

 

私たちの会社では、40歳という年齢で、選択定年を選ぶことができる。私も来年度中に、ちょうど40歳を迎えるのをきっかけに、選択定年という道を選んだ。
仕事に“やりがい”がないことだけが辞める理由じゃない。
自分のやりたいことに挑戦してみたい、子供と過ごす時間を増やしたい、人の役に立てることをもっと増やしたい、などさまざまな理由がある。30歳になったころから、ずっと考えてきたことだった。
 
2020年度終わりの面談で上司にそのことを告げ、退職まで1年のカウントダウンが始まった。
 
仕事を辞めると決めたら、仕事へ対する不満や、会社に対する不満をいったん隅に置いて、客観的な目線から物事を見ることができるようになった。客観的な目線というのは、“きっと来年にはこの場所にはいないから”という本当に客観的な立場に自分を置いて、良くも悪くも仕事と向き合えるようになったということだ。
 
そして不思議なことに、一緒に仕事をする仲間から、感謝してもらえることが増えてきた。
「この資料すごくわかりやすかった。こっちも頼んでいい?」
「もう、そこ調整してくれたんですか? ありがとうございます」
「このツールのおかげで、半日かかっていた作業が5分で終わるようになりました!」
 
こんなに自分の仕事ぶりが変わったのは、天狼院書店のゼミをいくつも受講して、自分の中で時間の使い方や、仕事の仕方、ライティング力、デザイン力が上がっていったことも大きかったが、何よりも私の意識が変わったことが大きかったように思う。
 
今まで会社や仕事に対して不満があったものの、私に働き方を教えてくれたのは、今の会社だった。17年も続けてこれたのは、常に社員のことを一番に考えてくれる会社の居心地がよかったからだ。
残りの1年は会社に恩返しをしていきたい。
一緒に働いてきた仲間が、少しでも楽になるように、足りない部分や不要な作業を整理しておきたい。
お客様の顔が見えなくても、一緒に働いている仲間の顔は見える。
みんなのために自分ができることは何か? 常にそればかりを考えて仕事をしていた。
そう思いながら行動していたことが、結果的に仲間からの感謝になったのかもしれない。
 
私の求めていた仕事のやりがいは、お客様からもらうものがすべてじゃない。一緒に働く仲間からももらえるものなんだ……。18年目にしてようやく気付くことができた。
 
 
以前、ツイッターで編集者の竹村俊助さんが、こんなことを言っていた。
“「会社は3年でやめる」と宣言する
あなたが会社員なら「3年でやめる」と決めましょう。
会社を3年で辞めるつもりで本気でがんばったら、同期よりも絶対に成績はよくなるはずです。
これからの働き方は、期間を「刻む」ほうがいいと思います。200日、1年、1000日など、最初から期限を決めてカウントダウンをしていくのです。“
(出典元:竹村俊助さんのツイッター @tshun423より)
 
確かにその通りだった。昔の私のように、月曜から金曜までを数えていく意味のないカウントではないく、“1年後に退職”という短い期間があったことで、自分が退職するまでの道筋を具体的にイメージすることができて、実行することができた。
毎日が同じことの繰り返しなんて、これっぽっちも思わなかった。
 
大げさな言い方をしてしまえば、「死ぬまでにしたい〇〇のこと」のように、余命宣告を受けてから、生きている間にやりたいことをやって、毎日を大切に生きるのと同じかもしれない。
終わりが見えたとき、終わりを決めたときは、人はそこに向かって必死に生きていくはずだ。
 
 
月曜日、火曜日、水曜日……どの曜日もいつもと変わらない日かもしれない。
でも、その曜日の中に誕生日、お正月、バレンタイン、クリスマスのように特別な日があることも確かだ。
いつもと変わらない月曜日であっても、特別な日は、豪華な食卓とケーキを買ったりと、特別な過ごし方をしているはずだ。
つまり、毎日を同じことの繰り返しとして過ごすのも、毎日が特別な日として過ごすのも、自分次第なのだ。
 
 
退職まで残り5か月を切った。
もっとたくさんの「ありがとう」をもらって、最後の退職のあいさつで、「ありがとう」ということばをお返しするために、私は毎日を刻んでいく。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
河口真由美(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県在住。システムエンジニアとしてIT企業に17年間勤務。
夢は「おばあちゃんになってもバリバリ働いて、誰かの役に立ち続けること」
40歳で人生をリニューアルスタート(予定)。ライティングをはじめ、新しいことにチャレンジしながら夢に向かって猪突猛進中。

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2022-02-09 | Posted in 週刊READING LIFE vol.157

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