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週刊READING LIFE vol.161

サラリーマンと個人起業家と、どっちが幸せ《週刊READING LIFE Vol.161 人生100年時代の働き方》


2022/03/14/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「今月の売上はどうなんだろう」
 
かつて、月末になるとそんな不安で押しつぶされそうな時期があった。
当時、夫がサラリーマンを辞めて、会社を創ったのだ。
その夫とは、大阪の商社に勤務していた時に知り合い結婚したのだが、その15年勤めた会社を夫は突然辞め、自分で仕事を始めると言い出した。
もちろん、私も手伝うことになり、会社の設立の準備から始まり、経理や雑用を一手に引き受け、無我夢中で仕事を始めた。
サラリーマン時代には、毎月20日になると当たり前のようにお給料が振り込まれ、収入の心配などしたこともなかった。
 
ところが、自営業となると毎月の売上はバラバラだ。
毎月、まるでジェットコースターのような売上に、ハラハラドキドキする日々だった。
気が抜けない、落ち着くことが出来ない、大変な仕事だとつくづく感じた。
そんな思いをするたびに、私はやっぱりサラリーマンがいいなと心の中で小さく思っていたものだ。
 
私の実家は、かつて兼業農家だった。
父は銀行員で、祖父がお米を作っていた。
当時、実家の近くに田んぼを何反か持っていて、田植えや稲刈りの季節には、家族が総出で手伝っていたのだ。
私が幼稚園の頃には、祖父も含めて、近所の農業の担い手の高齢化がピークを迎えた。
さらには、人口の増加に伴い住宅が必要となってゆき、田んぼが多かった実家の周りにもやがては新しく家が建ち始めた。
そこで、最後まで持っていた田んぼを祖父は全て手放した。
 
それからは、銀行員の父の収入と、実家の敷地内で経営し始めたアパートの家賃が収入となっていたようだ。
そんな父は、私が高校二年生の時、初めてのガンを患った。
当時の私は、世間の高校生と同じように、父と口をきくこともなく、側にいるのに、なんだか遠くにいるような存在に感じていた。
 
「そうか、病気になったんだ」
 
病名の大きさの割に、私が冷静だったのは、そんな父との関係性のほかに、母が落ち着いていたからだ。
もちろん、大きな病気だから心配はしていたし、毎日のように父が入院していた病院に通っていた。
お互い、初めての大きな出来事で、びっくりしたり、不安だったり、両親の間では色々な思いがあったと思う。
ところが、そんな温度が子どもの私に伝わってこなかったのは、経済面での変化がなかったからだと思う。
ずいぶん後で聞いたことだが、病気療養中もお給料は全額ではないが支払われていたという。
それを聞いて、サラリーマンって有難いんだなとつくづく思った。
サラリーマンがスーパーマンのように思えてきた。
やはり、企業に勤めていると守られていて安心なんだな、そんな思いを強く抱いた経験でもあった。
 
そんなこともあって、私も短大卒業後、商社に就職した。
父からは、自分が大病をした時に、サラリーマンで助かったからではなく、私が結婚する相手はサラリーマンだろうから、その経験を私にもするようにと言われていたのだ。
そうすると、夫になった人の苦労がわかるし、サラリーマンの生活が想像できるだろうというのだ。
どれくらいのお給料がもらえて、そのお給料をやりくりして生活するということ、その経験をしなさい、と。
 
当時の社会は、一度勤めた会社に骨をうずめる、というようなイメージがあった。
定年するまで、その会社にお世話になるものだと思い込んでいた。
ところが、新卒で勤めて2~3年経ったくらいに、「とらばーゆ」という雑誌が発行された。
それは、転職の雑誌だったのだが、その頃から一度務めた会社に一生お世話にならない人も出始めたのだろう。
 
ところが、父から勧められたサラリーマンの仕事、商社での仕事が楽しく、合っていたし、周りの人間関係も問題なかった私にとって、転職なんて考えられなかった。
わざわざ、この状況を全てナシにして、また一から築き直すなんてとんでもないと思っていた。
今思うと、仕事のやりがい、収入などの面で、自分の思うような結果を得られなかった人達は、他の選択肢を模索するのもわかるような気がする。
私は、どうしても慣れたことを辞めてしまうことに怖さを感じるので、やりがいや仕事の内容なんて選ぶという選択肢がなかった。
与えられたことを卒なくこなし、周りの人間との関係がよくて、日々の仕事が上手くこなせてゆけていたら、それでいいじゃない、そう思っていたのだ。
そういう意味では、一生骨をうずめても良いとまで思っていた会社だったが、そこで出会った夫と結婚し、私はその会社を寿退社した。
 
ところが、ずっとそのまま、安定した収入と家庭が続くと思っていたが、夫は会社を辞め独立起業し、その7年後には離婚をすることになった。
その時から、夫の収入で生活していた私は、自分で働かなくてはいけなくなった。
 
そんな時、ふとしたきっかけからご縁をいただいて、断捨離トレーナーという仕事をすることになった。
断捨離トレーナー。
その時、初めて創られるトレーナー制度だった。
私は、まだこの世には存在していない、断捨離トレーナーという職業に就くことにして、その講習を受けた。
私はどこまでもお気楽だと思うのだが、この断捨離トレーナーという仕事は、与えられた仕事をこなしてゆくものだと思い込んでいたのだ。
断捨離の事務局にもたらされた仕事をトレーナーたちに振り分けてくれる、そんなイメージを漠然と抱いていたのだ。
ところが、講習が始まると、自分で自分を売り、仕事を創ってゆくのだと知り、のけぞりそうになった。
個人起業家。
これまで、人から言われたことしかやったことがなかった私が、ブログを書いて、Facebookに投稿して、試行錯誤をしながら仕事を始めた。
 
慣れない仕事に最初は戸惑ったが、続けてゆくことで、なんとかそのリズムもつかめるようになってきた。
収入が不安定なのも、元夫の会社を手伝っていた時に経験済みだったので、そんなに驚くこともなかった。
 
そんなある時、人から言われたことがある。
 
「いいわね、あなたの仕事は定年がなくて」
そう言われた時、すっかり忘れていたけれど、そういえば個人の起業家には定年がないことを始めて意識できた。
 
「そうか、いつまでも働けるんだ」
 
定年がないと言われて、一番に出た言葉がそれだった。
きっと、あのまま商社に勤めていたら、今頃定年を指折り数えていたかもしれない。
それに、企業の定年が、60~65歳と言われているが、私は来年60歳だ。
世間では、そろそろ定年ということを気にする年齢なのだ。
 
断捨離トレーナーの仕事は、まだまだこれからだと思っている。
人生経験を積めば積むほど、人に寄り添うことや人の思いに共感出来る幅が広がり、器も大きくなってゆくように思えて楽しみなのだ。
これが、商社に勤めていた頃、私がわからなかった、やりがいや仕事の楽しさなのかもしれない。
安定のサラリーマンしかないと思っていたが、こうして個人での起業を経験すると、自分が好きなことをずっと仕事として続けてゆけることがわかった。
安定はないかもしれないが、自分で好きな仕事を選び、自分なりのやり方で進め、未来を切り拓いて行く仕事は、経験してみると日々が新鮮でいられることもわかった。
 
人生100年とも言われる今の時代。
だったら、その折り返し地点を過ぎた年齢なんて、まだまだ元気で社会に貢献できる良いモノをたくさん持っているはず。
仕事とは、収入を得ることと同じくらい、社会に貢献出来て、他者の人生に関わることが出来て、心の充足感を得られることが大きいメリットだと個人での仕事を始めてやっとわかった。
これが仕事の醍醐味だとも思う。
サラリーマンのような安定はないけれど、先がわからない新しい断捨離トレーナーという仕事に飛びこんだけれど、こうやって今、楽しく仕事が出来ていることに感謝している。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。

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2022-03-09 | Posted in 週刊READING LIFE vol.161

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