週刊READING LIFE vol.165

「文章」の魔法のきっかけは「わずかな勇気」だった《週刊READING LIFE Vol.165「文章」の魔法》


2022/04/11/公開
記事:村人F (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「文章」の魔法を初めて実感したのは高校時代だ。
友達に勧められて読んだ『出口汪のメキメキ力がつく現代文』
本書で私の人生が180度違うものになったと確信しているからである。
 
現代文は多くの人にとって何をしているのか理解不能の科目だろう。
「作者の気持ちを答えよ」に代表される意味不明の質問と、根拠がよくわからない答え。
酷い場合だと先生すら「何を教えればよいかわからない」と言うこともあるほどだ。
そのため「なぜ日本語なのにこれほどわかりにくいのか」と悪い印象の強い教科だと思う。
 
しかし、この本で行われた授業は凄かった。
現代文は根拠を本文中から探す科目である。そしてその根拠は論理によって導かれる。だからこそ全員が満点を取れるのだと。
こう断言した彼の解き方は、今まで抱えていた悩みをあっという間に払拭した。
 
何より文章がとても面白かった。
テーマパークに行き長時間並んで過ごすより、正月早々に風邪で寝込んだ方がよほど楽しいレジャーだと断言した『風邪熱談義』の問題文。
そしてそれを解説する出口先生の熱量。
文字だけで表現されているはずなのに、彼が目の前にいるかのような臨場感を持っていた。
全6巻の本だったが、全て読み終えるのに2ヶ月もかからなかった。
人生の中であれほど熱中して読んだ経験はない。
 
そして本書から得た内容は、魔法と言って差し支えがないほどに影響を与えた。
以前の私は、考えることが全くできていなかったように思う。
学校の勉強は理解できていたが、思考はイメージのみであり人の気持ちを考えるといった発想すらなかった。
その意味で大きく欠如していたように思う。
 
しかしこの本に書かれていた論理的思考法を日々実践していく中で、脳の構造が別物になっていったのである。
「彼は何に悩んでいるのか」
「なんと声をかけるべきか」
こういった人の感情を言葉で想像できるようになった。
そして相手がどのような反応をするか、そういった予想までできるようになった。
こうして漠然としていた思いを文字で表現できる思考が、本書を通して身についたのである。
 
この出口先生の授業は、直接会って聴いたわけではない。
あくまで文章を通してのみである。
それなのに、私に大きな影響を与えたのだ。
これこそ魔法だろう。
 
この経験があるから必然だった。
天狼院書店の「ライティング・ゼミ」に申し込むことは。
そして、2度目の「文章」の魔法にかけられることは。
 
出口先生の授業で読むことには人より自信があった。
しかし、こと文章を書くことに対しては未だにコンプレックスを持っていたのだ。
自分の思いを正確に表現することが全然できない。
さらに上司から毎日のように「文章がわかりにくい」と怒られ、その度にどうすればいいんだと途方に暮れる日々だった。
 
この状況だったから、天狼院書店の「ライティング・ゼミ」に申し込んだ時はすがるような気持ちだった。
もう文章がわかりにくいなんて言わせたくない。
このゼミで逆転してやろうという意気込みである。
 
だから2000字の文章を毎日書く過酷コースでも完走できた。
さらに終わった後も継続して受け続け、毎週4000字書き続ける生活を続けた。
そして、もう上司から「文章のわかりにくさ」を指摘されることはない。
自分の中ではまだまだという思いもあるが、かつてに比べたら大幅な向上だ。
この変化も魔法と言っていいだろう。
 
これも出口先生の授業を受けたからこそ、続けられたことだろう。
世の中には文字だけで、まるで目の前で授業しているかのように表現できる人がいる。
だから私も、書き続けた先にそういう魔法を人々にかけることができるのではないか。
この希望があるから、今も努力し続けられるのである。

 

 

 

しかしこれらを振り返り、改めて思う。
魔法と呼んでいる事象は、実はそれほど劇的なことではないと。
出口先生の授業も本を買っただけであり、ライティング・ゼミも受講しただけである。
ただそれだけのことだ。
それなのに、巨大な影響を人生に与えたわけだ。
 
このとき思い出した。
「わずかな勇気が最高の魔法だ」という言葉を。
『魔法先生ネギま!』という少年マガジンで連載されていた美少女マンガの台詞だ。
魔法使いでありわずか10歳ながら先生になったネギくんが、第1話で生徒に伝えた言葉である。
そうだ。
私が感じた魔法もまさに、わずかな勇気によって生まれたものではないか。
 
本を買う。
講座に申し込む。
出した勇気は、文字にしたら全く大したことのない内容である。
それなのに、その後の人生に大きな影響を与えた。
魔法というべき効果から考えると、本当にわずかだ。
 
しかし、この事実は最初の一歩を踏み出すことがどれほど困難かも同時に示している。
私も最近、写真でこの事実を痛感した。
 
それまでの私はカメラを買うことに興味を持っていなかった。
天狼院書店で行っているフォト散歩には暇な時に行っていたが、何度薦められても購入しようとしなかった。
 
理由は値段である。
カメラは安くても10万円もする。
その後もレンズ買い換えやらイベント参加などで、多額の追加出費が目に見えている。
これに手を出してしまったら、財布が速攻で空になってしまう。
そうウジウジ考え続けたせいで買えなかったのである。
おそらく他のことを始められない理由も、このようにかかる値段やら時間やらを想像してしまい、尻込みする場合がほとんどだろう。
 
しかしこの流れもまた、わずかな勇気をきっかけに打破されることになる。
その時の私は天狼院書店のクーポンが有り余っている状態だった。
「超ライティング・ゼミ」という講座で運よく首席になり、特典として大量に貰っていたのである。
そのためたった1年で、どうやって使い切ればよいのかと頭を悩ませていた。
 
だからこそ、踏み出す一歩もわずかな勇気ですんだ。
プロカメラマンによる、料理の写真を撮る「テーブルフォト講座」
これがクーポン使用で無料受講できたからである。
 
ここからはもう雪崩のようなスピードだった。
通信で聴いていただけでも授業が面白かったので、その1ヶ月に名古屋で行われた「パーフェクト・ポートレート講座」にも参加した。
ここでカメラではないと表現できない世界を実感してしまったのである。
そして1週間近く電気屋を探し、どこへ行っても売り切れだと言われた欲しいカメラを店頭で見つけた時は、8万円だろうが迷い無く購入を決めてしまった。
この大きな買い物も、きっかけは無料の「テーブルフォト講座」に参加するわずかな勇気だったのだ。
 
これらの経験を踏まえると劇的な効果を「魔法」という表現で示すことも考え物だなと思う。
出口先生の本やライティング・ゼミで受けた影響は、この言葉を使用して差し支えがないほどである。
しかし、これを「魔法」などと言ってしまうと、同時に滅多に起こることではないというニュアンスを含んでしまう。
確かにここまで変化がそうそう発生しないのは事実だ。
だが特別なことだと思い込みすぎると、挑戦しても意味がないという捉え方をされかねない。
 
野球を始めたところで、プロになれる確率なんて1%もない。
数万円もライティング・ゼミに払ったところで、人生が変わるなんてことは起こらない。
そんな都合のいい話はフィクションの世界だけの話だ。
このように「魔法」であると見なすことで、やらなくてもよいと自分を納得させることができてしまう。
大げさすぎる故に、ネガティブな方向にも使えてしまうのである。
 
しかしこれらのきっかけは、わずかな勇気だけなのである。
そして一歩踏み出した先に、生活を劇的に変えるかもしれない世界が見えてきたのだ。
だからこそ私たちは、この魔法をもっとハードルの低いものとして扱わなければならない。
これは一部の天才たちにのみ許された事象ではない。
私たちのような普通の人でも、十分起こりえることなのである。
そのきっかけは、小さくていい。
あとは、歩き続ければよいのだ。
晴れの日も、雨の日も、自分のペースで進み続けていけばよいのだ。
そしてふと後ろを振り返った時に気付く。
スタート地点から遙か遠くに来た自分に。

 

 

 

『魔法先生ネギま!』で、「わずかな勇気が最高の魔法だ?」という言葉を初めてみた中学時代は、ここまで考えることはできなかった。
言葉を吟味する脳がまるで無かったから、ただの台詞として処理していた。
 
しかしこれが私の中で再発見された理由もまた、「文章」の魔法によるものである。
高校時代に出口先生の本を読んでから、言葉から得られる情報が大幅に増えた。
これをきっかけに多くの本やマンガを読んでいったからこそ、文章全体に含まれる普遍的な真理を感じ取ることができるようになったのだ。
これをわずかな勇気から得られたのだ。
まさに「魔法」と呼ぶべき事象だろう。
 
そして私はこれからもライティング・ゼミなどで文章を書くことを続けていく。
出口先生の文章や、『魔法先生ネギま!』の作者である赤松健先生。
これまで多くの文章から魔法をかけてもらったのである。
だから私も文章を通して、他の人に魔法をかけたいのだ。
 
今書いているこの文章など、影響を与えてくれた方々の作品に比べたら米粒みたいなものだろう。
しかしそれでも1週間、1年と続けていくことで、だんだんと大きな力が得られるようになるはずである。
きっと偉大な先生方も、こういった過程を歩んできた。
だから私も、少しでも近づけるように歩み続けていきたい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
村人F(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

名乗る名前などございません。村人のF番目で十分でございます。
秋田出身だが、茨城、立川と数年ごとに居住地が変わり、現在は名古屋在住。
読売巨人軍とSound Horizonをこよなく愛する。
IT企業に勤務。応用情報技術者試験、合格。
2022年1月から、天狼院書店ライターズ倶楽部所属。

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2022-04-06 | Posted in 週刊READING LIFE vol.165

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