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週刊READING LIFE vol.165

負の感情に突き動かされ、たどり着いたのは「文章」という文字の羅列《週刊READING LIFE Vol.165「文章」の魔法》


2022/04/11/公開
記事:川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私が文章を書き始めた動機は、負の感情から以外の何物でもなかった。
 
結婚を前提に、という話で当時付き合っていた彼氏に、面白いくらいにあっさり振られた。思うことや言いたいことはたくさんあったにも関わらず、こんな奴にしがみつくのはみっともないという思いの方が勝ってしまった私は、彼の目の前で思い出の写真と連絡先を、自分のスマホから抹消した。あーあ、これですっきりした!
 
……わけもなく、私はしばらくの間、怒りに満ち溢れていた。
 
自分史上、いまだかつてなかったほどに仕事に打ち込み、余計なことを考える時間をなくした。仕事は打ち込んだ分、評価として自分に返ってきた。給与も上がったし、こんなご時世なのに賞与も増えた。
 
確率としてはかなり低いが、万が一、街中で奴に遭遇したときにめちゃくちゃ後悔させてやりたいという思いから-10㎏のダイエットも始めた。糖質が多い食べ物が大好きで、運動が嫌いという致命的な状態ではあったが、見返してやるという一種の執念のおかげで約1年後には-10㎏を達成していた。あーあ、これですっきりした!
 
……わけがない。なんで仕事での評価が上がっていて、前より綺麗になった私を奴が知らないんだ。すべて奴への復讐心で始めたことなのに、なぜ奴が何も知らないんだ。知らないどこかでぬくぬくしているんだ。ぬくぬくしているかは知らないけれど。
 
気に入らない!!!!
 
と言っても、冒頭に書いたように私は奴の連絡先やら何やらすべてを、奴の目の前で抹消してしまっている。お気づきの通り、私自ら、奴に今の私のパーフェクトな状態を知らしめる術はないのだ。なんてことでしょう。そんなことにも気づかず、私は1年もひたすら頑張り続けていたのだ。負の感情に突き動かされすぎると、こんなにも本末転倒になってしまうのか。
 
自分の頭の弱さに少し落ち込みながらも、奴に知らしめられる可能性としては極めて低いが、一つ思いついた方法がある。それが「文章を書いてネットで晒す」だ。
 
文章を書くことは昔から好きだった。文章というか、文字を書くことが好きだった。文章を書いてみたいと思ったことは何度もあるが、なんというか、書きたいことが上手くまとまらないのだ。ブログやnoteを何回か立ち上げてみたが、書いているうちに「……おもんね」と思ってしまい、サイトの閉鎖や記事の削除を何度も繰り返していた。
 
でも今回は本気だ。ちゃんとこの思い(執念)のありったけを文章にまとめて、誰かに読んでもらいたい。運が良ければ、奴がその記事を読んで「ああ、俺はなんて良い女を振ってしまったんだ……」とめちゃくちゃに後悔してほしい。そして、そろそろこの執念を成仏させて、私も次へ進みたい……。
 
以上が、私が天狼院書店のライティング・ゼミに参加した経緯である。
そしてあろうことか、初回の課題でこの執念を書いた文章を掲載してもらえたのである。
 
「ご自身でも拡散してみてくださいね!」と、アップロードされた記事のURLと共に書いてある。拡散……、さて、誰に拡散しようか……。
 
とりあえず、ライティング・ゼミを受講することを伝えていた数人の友人と、会社の同僚に送ってみた。するとみんなすぐに読んでくれ、感想をくれた。
 
「そこまでの並々ならぬ思いでダイエットしてたとは」
「なんか、ちょっとつらい話やのに笑ってしもた」
「川端が書いたな、っていうのが文章から滲み出てたわ」
 
ビギナーズラックと言えばそうだったのかもしれないが、これに気をよくしてしまった私は調子に乗ってプライベートのSNSにもこの記事をシェアしてみた。
すると、SNSでは繋がっていたが、何年も会っていなかった人からたくさん連絡がきたのだ。
 
「ダイエット法教えて!」とかそういうものもあったが、ほとんどの連絡は「元気もらった」とか「もっと他の文章も読みたい」とか、そういうものだった。
 
私は自分を表現するのがとても下手だ。人見知りだし、言葉足らずで誤解を招くことも多いし、かと思えば言葉が過剰すぎて言い合いを生んでしまうこともある。言いたいことや伝えたことが頭の中でごちゃごちゃしていて、自分でも何を言っているのかがわからないことがよくある。ただ、文章に関しては、そんな感想を貰うことはなかった。読んでいるのが友人や仲の良い会社の同僚だけ、というのもあるかもしれないが、それでも安易で調子に乗りやすい私は「文章書くの、楽しいかも」と、書き続ける動機になったのだった。
もっと、誰かに何かを伝えたり、有名人でもなんでもない、自己肯定感がちょっと低めで飛び抜けた才能も何もない私がツラツラと書く文章で、知らない誰かがちょっとでもクスっと笑ったり、わかる~と共感してくれたり、私こいつよりマシだわ! ちょっと元気出たわ! と思ってくれたり、そういうことを感じてくれたら。そういう文章が書けたらすごく楽しそうだ。そういう文章が書きたい!
 
ゼミを受講し続け、課題を出し続け、不掲載になって落ち込みながらも、ネタが浮かばなくて死にそうになりながらも、読者メリットってなんやねんと思いながらも、課題は出し続ける。文章を書くのが楽しいときもあれば、書きたくないなと思うときもある。掲載されたからと言ってお金が貰えるわけでもないのに、私は何にこんなに熱くなっているのだろうか、と考えることもある。でも、なんだかんだ思いながらも、続けている。
 
いつものように課題を提出し、フィードバックを貰った。その時に提出した課題では「社長に働き方について直談判した」という内容だった。今の自分って、なんだかなーと思っていて、じゃあどう働くかを考えて、それを社長に「こう働きたいんですけど!」とプレゼンしに行った、という内容だった。無事、掲載されることになり、いつものように仲の良い友人たちに拡散した。
 
私の友人たちは優しいので「面白かったよ」とか「ここがよかったと思う」と、いつも優しい感想を送ってきてくれる。私はいつもそれに気を良くし、文章を書くモチベーションにしている。その心優しい友人たちのうちの一人が「なんか、考えさせられた」と感想を送ってきてくれた。
 
その友人は高校時代からの友人で、社会人になってからよく遊ぶようになった。ここ数年は、だいたい月1は会っている。私からすると彼女は頭も良いし、気遣いもよくできるし、お洒落でセンスも良いし、体型もスラっとしているし、優しい旦那さんもいるし、羨ましいなと思うところをたくさん持っている。でも、私もそうだが、彼女もまた自己肯定感が低い。そしてここ数年の情勢もあり、働き方について悩んでいると聞いていた。そのやりたいことに必要な準備はしているが、最後の一歩がどうにも踏み出せないとも聞いていた。
 
そんな彼女と、いつもと同じく先月も会った。そのときに「やりたいことが学べるスクールに申し込んで、4月から通い始めることにした」と聞いた。そして、なんとその後押しとなったのが、私が書いた文章だったというのだ。今までいろいろ理由をつけて踏み出していなかったけれど、私が書いたあの文章を読んで「私もやらなければ!」という衝動に駆られてスクールを探して申し込んだというのだ。
 
私の文章が、誰かを突き動かした。
その事実を改めて考えても、嬉しいことに間違いはないけれど、現実味が湧かなかった。
しかも私の文章に突き動かされているのは、知らない誰かではなく仲の良い友人。
 
友人から溢れ出る言葉は、全部夢に溢れていた。スクールに通ってこれができるようになったらこれがしたい、あれもやりたい、そしたらこういうのを作りたい。夢に溢れているし、話している友人はとても楽しそうだ。私はとても不思議な気持ちになった。
 
私の書く文章で、誰かに何かを感じてもらったらいいなと思ってはいた。ちょっとクスッとしたり、共感できたり、そういう「そういうこと思っていたの、私だけじゃないんだ」と思ってくれる人が何人かでもいたらいいなと思っていた。そう思いながら文章を書き続けていた。よく書けた! と思った文章もあれば、書けないなと落ち込みながら書いた文章もあった。書き始めてまだ半年くらいだ。期間はそんなに長くないし、課題を出すのに精一杯だというときの方がほとんどだ。特筆した何かがなければとびきりの美人でもない、本当にどこにでもいる普通の30歳だ。
 
そんな私の文章が、誰かの人生を少し変えるきっかけになるなんて。信じられない反面、文章を書いていて良かったと、心の底から思った瞬間だった。そして、これからも文章を書いていきたいとも。
 
ちなみに友人が学び始めるのは、ウェブデザインだ。
結婚、出産、育児、メイク、ダイエット、エンタメなど、働く女性が知りたい情報がまとまっているサイトを作りたいと。
 
「え、じゃあさ、そのサイトができたら私ライターとして雇ってよ!」と言ってみた。
「そう思ってた!」と嬉しそうに言ってくれる友人。
友人と働くと、上手くいかなかったときに友人関係が破綻してしまいそうだなと思っていたが、こんなに自然にお互いから言葉が出てきたなら、上手くやっていけるんじゃないかなと思えた。友人と仕事をしたことなんてないが、一緒に仕事ができたらいいなと思っている。だから、4月から始まる友人の新たな一歩を、私は前のめりで応援したい。
 
そして私も彼女に負けないように、彼女がサイトを完成させたとき、私がそのサイトで文章を書かせてもらえるように、私も負けずに頑張り続けなければならない。将来一緒に何かを作り上げるために、これからも良い友人関係を継続しながら、共に切磋琢磨していける、良い意味でのライバルのような関係も築いていけたらいいなと思う。
 
文章を書き始めたときには、半年後にこんな未来が待っているとは思っていなかった。負の感情に突き動かされた結果にたどり着いた「文章」に、こんなに魅了されると思わなかった。文章は、ただの文字の羅列じゃない。誰かを突き動かす可能性がある、とんでもない魔法なのだ。
 
私か書いた文章に、いつの間にか魔法がかかっていた。
友人は、私が書いた文章の魔法にかかった。
それを聞いた私は、自分の文章に魔法がかかっていることを知った。
 
この文章も、魔法となり誰かを突き動かすことになるのかもしれない。
そう思いながら、私はこの文章を書き終える。
そして、これからも新しい魔法を生み出していくのだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。大阪府在住。
自己肯定感を上げたいと思っている、自己肯定感低めのアラサー女。大阪府内のメーカーで営業職として働く。2021年10月、天狼院書店のライティング・ゼミに参加。2022年1月からライターズ倶楽部に参加。文章を書く楽しさを知り、懐事情と相談しながらあらゆる講座に申し込む。

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2022-04-06 | Posted in 週刊READING LIFE vol.165

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