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週刊READING LIFE vol.167

恥ずかしくても、怖くてもやって良かったこと《週刊READING LIFE Vol.167 人生最初の〇〇》


2022/05/02/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
毎年、秋の声を聴くころに、私が決まってやっていることがある。
それは、健康診断。
なぜ、秋の声を聴くころなのかというと、前夜には大好きなビールを飲めないからだ。
年に一度の健康診断は、忘れずに受診するために、誕生日月に決めるといい、などと聞いたことがある。
ところが、7月生まれの私にとって、ビールが飲めない夏の夜なんてあり得ない。
それは、何かの罰ゲームかと思うくらいに耐えられないのだ。
なので、健康診断よりもビールかよ、と言われるかもしれないが、とにかく受診する時期は秋の声を聴くころにと決めている。
 
思い返すと、30歳を超えてから健康診断は毎年受けている。
元々、会社員時代にあった会社での健康診断。
年に一度、定期的に受診することは、あの頃に身に着いた。
最初は若かったこともあって、血液検査の結果とか、バリウム検査の結果よりも、体重が気になって、午後一番の受診の年には、そんなことを決めた人事部を恨んだものだ。
その日は、お昼ご飯はパンなどで軽く済ませてでも、体重をなんとか軽く抑えたいと真剣に思っていたのだ。
本当に、そんなことを必死で思い、悩みがその程度だった、あの頃が懐かしいものだ。
 
結婚して、会社を退社してからも、扶養家族として何かしらの健診を受けていたように記憶している。
わざわざ健康診断専門の病院に出向いて行って、30代半ばからは、ガン検診も追加していたので、混んでいる日には半日以上かけて受診していた。
それでも、私は健康診断を受けることを辞めなかった。
 
その理由の一つは、父方の家系がいわゆる、ガン家系だったからだ。
父は52歳の時に最初のガンを患ってから、亡くなる68歳までの間に、合わせて5か所のガンで手術を受けていた。
一つのガンが見つかって、放射線治療、抗がん剤治療、切除手術を繰り返し、毎回、その部位は完治していた。
ところが、また別の場所にガンが見つかるのだ。
当時の私たちの知識では、ガンができやすい体質、そんなふうに捉えるしかなかった。
そして、そんな浅い知識は、やがて自分もそうであるという根拠のない確信へと変わっていったのだ。
だから、私は比較的若い頃から、「私は病気になるとしたらガンだろう」という恐れがどこかにあったと思う。
 
毎年、健康診断を欠かさず受診するようになったきっかけは、そのような、いつかガンになるかもしれないという恐怖心からだったが、ある時から違うメリットを感じるようになったのだ。
それは、健康診断を受診すると、その時の自分の身体の様子がわかるということ。
体重は去年よりどれくらい変わったか、とか。
コレステロール値はどうなったのか、とか。
身長は本当にミリ単位で縮んでゆくんだ、とか。
 
そもそも、健康な身体というのは、長く幸せな人生を送るうえで最も重要なことである。
その健康について、日々の食生活や運動などの生活習慣に気を付けるとともに、その時のその年齢の自分の身体の様子を知ることも大切だと思うのだ。
そんな思いもあって、毎年欠かさず健康診断を受けてきていた。
 vvvv
ところが、一つだけ私がずっと避けていた検査があった。
それは、大腸内視鏡検査というものだ。
毎年の健康診断では、便潜血反応検査で、食道や胃、腸といった消化管で炎症や潰瘍、腫瘍(ポリープ・がん)などの有無を調べていた。
ところが、年齢のこともあって、そろそろ、一度は受診した方がいいとわかっていながらも、大腸内視鏡検査だけはずっと先送りしていたのだ。
それが、今から7年ほど前の健康診断で、便潜血反応が陽性と出て、要精密検査という結果となったのだ。
ああ、とうとう大腸内視鏡検査を受ける日がやってきたか。
私にとっては、それくらい大きな衝撃と不安、そして恐怖が押し寄せるようなイメージの検査だった。
 
まず、恐れていた腫瘍がいよいよ出来てしまい、それが原因で便潜血反応が陽性になったのではないかという不安が募り、次には大腸内視鏡検査というもの自体への不安も高まった。
不安、というよりも、もっと正しく表現すると、やりたくなかったのだ。
検査の特質上、とても恥ずかしいと思っていたからだ。
その当時、私は50歳をとうに超えていたけれど、それでも恥ずかしいと思うものは恥ずかしいのだ。
検査を受けた方はご存知だと思うが、大腸内視鏡検査とは、お尻からカメラのついた管を腸内に通し、その様子を画像でチェックしてゆく検査だ。
恥ずかしいという気持ちに加えて、痛いんじゃないかという不安もあった。
 
でも、毎年受けている定期健診でいよいよ要精密検査と言われたのならば、もう仕方がない。
受けるという選択肢以外はないよね。
私は、すぐにネットで近隣の消化器内科、大腸内視鏡検査をやっている病院を探した。
施設が整っているのか、その先生の経験値はどうなのか、ついでにネット上での評判もチェックしてやっと一つの病院を受診することに決めた。
 
なぜ近隣の病院かというと、大腸内視鏡検査を受診する前には、腸内を空っぽにしなくてはいけないのだ。
そのため、検査当日はいわゆる下剤を飲んで腸の中のお掃除をする必要があった。
だから、病院に向かう途中のことも考えると、やはり近隣の病院がありがたいと考えたからだ。
その後分かったのは、病院によっては、病院内で下剤を飲んで腸内を空っぽにするケースもあるようだ。
そういった病院であるならば、家からの距離は関係なく選べるとも思う。
 
そして、ドキドキしながらも、やがてその大腸内視鏡検査当日はやってきた。
もう、受診するという覚悟をすればあとは先生に委ねるしかない。
いわゆる、まな板の上の鯉状態だ。
恥ずかしいも、怖いも言っていられない。
 
いよいよ検査がスタート。
機材がお尻から入り、腸内へと進んでゆく。
一瞬、異物感ともとれるような、言葉で表現しにくい感触はあったものの、機材が腸内を進んでゆくにつれ、緊張もほぐれていった
お尻が痛くないかとか、その他諸々も、緩和するためのお薬や点滴もちゃんと用意されていたので、想像していたような不快感はなかった。
それよりも、モニターに映し出される、私の腸内の様子が気になり、その画像に釘付けになった。
腸の中って、こんなふうになっているのね。
案外、きれいなものね。
初めて見る自分の腸内の様子は、検査機材が腸内を進む違和感よりも魅力的だった。
検査が進むにつれ、私自身もリラックスしてゆくのがわかった。
その途中、ところどころでぷくっと膨らんだモノを発見。
それは、先生曰く、ポリープだということだった。
その日の大腸内視鏡検査では、結局、合計5つのポリープを発見し、それらを検査機材を使って除去、処置してもらった。
それでも、捉えにくいポリープや、腸を傷つけずに、上手くポリープを取り除くのに、先生はいつしか汗だくになっていた。
この技術というものこそ、経験値がものを言うのだろう。
一つひとつ、丁寧に処置していってくれる先生の姿がとてもありがたかった。
お昼過ぎに始まった、大腸内視鏡検査が終わったのは、夕方暗くなるころだった。
 
検査を終えて先生の話をきくと、これらのポリープは、数年前から出来ていたものだということだった。
そして、今回、要精密検査で大腸内視鏡検査を受診したが、もしもそのまま放置していたら、明らかにガン化してゆくものもあっただろうと言われた。
 
毎年、健康診断を受ける人は確かに多くなっていると聴く。
ところが、要精密検査とわかりながらも、その精密検査を受けない人が一定数宇見られるというのだ。
それでは、なんのために毎年健康診断を受けているのかがわからないではないか。
要精密検査と言われて、怖くなるとも言われるが、そのまま放置するほうがよっぽど怖いことだ。
異常が分かった今が、その症状に対して最大限の治療が出来る最良の時なのだから。
面倒臭かったり、恥ずかしい、痛いかもしれないという不安もあるかもしれないが、それにしても大事な自分の身体だ。
今の自分の身体のことを、自分自身がわかっていなくてどうするのだと思う。
もちろん、健診だけで全てがわかることではなく、残念ながら他のところに病気が見つかることだってあると思う。
でも、それだとしても、今の自分に出来ることはせめてやっておきたいと強く思うのだ。
 
そんなことを私自身が言えるようになったのも、あの苦手だった大腸内視鏡検査を克服したからだが、本当に受診して良かったと心から思う。
便潜血反応でも、ちゃんと私のその時の腸内の様子を伝えてくれて、本当にありがたいことだと今でも思う。
 
そして、あの7年ほど前、初めて受診した大腸内視鏡検査を今では毎年、自ら受けている。
秋の定期健康診断とは別に、最初にお世話になった病院でずっと忘れずに受診している。
ポリープが5個見つかった私は、どうやらポリープが出来やすい体質だとわかった。
それが、もしかしたら、「ガン家系」の元にある体質なのかもしれない。
こうして、自分の身体のことがわかるようになると、以前のようにただ漠然と検査や、ガン家系だということを怖がったりすることもなくなってきた。
怖いと思うならば、どうすればその恐怖を少しでも軽減できるのか。
その手段を探し、それを実行することで、怖がり、悩むことからは解放されるはずだ。
 
私にとって、人生最初の大腸内視鏡検査は、想像よりもはるかにラクで、何よりも私の身体の弱点に対して希望を与えてくれる経験となった。
そして、それが私の人生、健康で幸せに生きてゆくことに、また希望を与えてくれているように思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。

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2022-04-27 | Posted in 週刊READING LIFE vol.167

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