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週刊READING LIFE vol.174

友だちと1対1で会うか、みんなと会うか《週刊READING LIFE Vol.174 大人の友情》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/06/20/公開
記事:九條心華(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
父と母はお見合い結婚だった。父は何度もお見合いしていたらしい。母は初めてのお見合いだった。お見合いして、その後、初めてデートすることになった。母は男性と初めての2人きりのデートに、さぞ緊張していたことだろう。きっと最大限のおしゃれをして出かけたに違いない。それが、父はなんと友だちと2人であらわれたらしい。なんで? と母は思ったという。それはそうだ、まずは2人でデートしてみればいいのに、いきなり友だち同伴だなんて、友だちにお見合い相手を見せたかったのだろうか。その友だちはAさんという中学校の同級生で、10代の頃から父は毎晩のようにAさんとコーヒーを飲みに行っていたらしい。
 
 
その後、父と母はめでたく結婚した。兄が産まれたとき、家のお風呂を左官屋さんのAさんに新しくしてもらったという。母が言うには、Aさんは、父の誕生日にいつもケーキを持ってきてくれたという。すごいなと思う。きっとそのケーキを、私も父と一緒に食べていただろうに、全然覚えていない。Aさんの顔も思い浮かばない。だから、私が物心ついたころには、疎遠になっていたと思う。どうしてだろう。Aさんも結婚したりして環境が変わったからかなと思ったら、違った。Aさんは、少しの稼ぎで相手がかわいそうやから結婚できないです、と言っていたという。母によると、父からはAさんに連絡しなかったという。いつもAさんから連絡があるのだと。ふーん、なんで父からは連絡しなかったのかは謎だ。どんな思いだったのかはわからないけれど、とにかく昔は親しかったようだ。
 
 
父はいつの頃からか、同級生7人で同年会をつくった。毎月1回夜に、誰かの家に7人が集まって飲み食いして語らう。集まる家を順番にまわしていっていた。うちが当番になったら、私が祖母と寝ていたお座敷を空けて、ほかの部屋で飲み会が終わるのを待っていた。
大人たちはとても楽しそうに大声で語らっていた。その同年会で、ときどき家族そろってお食事をした。7家族が集結するので、大人数だ。私たち子どもたちは大はしゃぎで、暴れすぎたのか近所のお寿司屋さんからは入店禁止とされた。毎年春休みには7家族で旅行をした。貸切バスに乗って、温泉に行く。貸切バスは、後部座席にシャンデリアがついていて、そこを父たちは陣取って、後ろでもう飲んでいる。私たち子どもは前のほうに座って、大きな運転席を目の前にして、物珍しく見ていた。須磨や鳥羽の水族館だったり、和歌山のアドベンチャーワールドだったり、ナガシマスパーランドだったり、楽しいところにあちこち連れて行ってもらった。
 
母はほとんど友だちがいなくて、とっつきにくい人だったんだと思う。それが、同年会で家族ぐるみでつきあうなかで、父の同級生のお友だちの奥様方と徐々に親しくなっていった。
 
同年会の中でも父が特に親しくしていたのが、Tさんだった。Tさんはよく家に来て父としゃべっていたし、父もときどき出かけていった。幼稚園からのおつきあいらしい。父は17歳で自分の父親を亡くしたけれど、Tさんも10代で父親を亡くされたらしい。そんなこともあってか、父とTさんは仲良かった。同年会の月に一度の夜の集まりの翌日には、たいていTさんがやってきて、昨夜の反省会みたいなことをしていた。7人では話せないことを、父と1対1だと話せるという感じで、7人がそれぞれ話したことを、またああでもない、こうでもないと父に話していた。たいてい、父は聞き役だった。父もときどきTさんの経営する家具屋さんに会いに行った。私もときどきついていっては、広い家具売り場の中で遊んでいた。
 
 
子どもはだんだん大きくなっていって、いつの頃からか、合同家族旅行に子どもが行かなくなって、同年会の夫婦で海外旅行に出かけたりしていた。私からしてみれば、夫婦2人だけで旅行に行けばいいじゃないかと思うけれど、父たち同年会の同級生らは皆で旅行するほうが楽しいようだ。結婚35周年だったか兄妹で旅行のプレゼントをしたら、両親は北海道ツアーに出かけたけれど、けんかして一言も口をきかなかったと言っていた。同年会の皆といれば、けんかしても気がまぎれる。
 
 
父の話は置いておいて、私は母と同じように、とっつきにくい子どもだったと思う。友だちをつくるということが苦手だった。だから、話しかけてきてくれる友だちと仲良くなるという、完全受け身の姿勢だった。
 
大学生になってからだろうか。一人で映画を観に行ったりするようになった。もちろん、友だちとも遊びに行くけれど、一人で自分の世界を楽しめるようになった気がする。それで、それぞれの世界で、私と何かが重なった人と友だちになった。
 
 
結婚したとき、結婚式も披露宴をしなかったので、一番親しい友だちを家に呼んだ。夫の一番親しい友だちと4人で食事をしたりした。夫は、私と夫の友だち同士が仲良くなればいいと考えたようで、夫から彼女の恋愛遍歴について聞かれたけれど、今つきあっている人がいるのかどうかさえ知らなかった。住む場所も遠く、彼女とは1年に一度会うかどうかだった。その友だちが今までどんな人とつきあってきて、どんな人が好きなのかという夫の問いに、私はほとんど答えられず、「それでも一番仲のいい友だち?」と夫に言われた。
 
友だちなら何でも知っている。何でも言い合えるのが友だち。そういう幻想を抱いているが、はたしてそうだろうか。友だちにも言えないこともあるし、友だちでも知らないことがある。
 
 
私は、夫からDVを受けていたことを誰にも言えなかったし、その彼女には離婚の相談もしていない。先に彼女が離婚したけれど、きっと彼女が離婚を考えていろんな思いを抱えていたとき、彼女は自分の誕生日に私の住んでいた京都にやってきた。たいした話をした覚えはないけれど、ただ共にいた。一緒に時間を過ごした。
 
きっと言いたいことはたくさんあったのだろうと思う。言い出せないのが、彼女らしい。いつも一人で抱えこんで、でも会いに来る。そして、何かを決めるのだろう。次に会ったときには、離婚していた。
 
 
私がちょうど離婚したてほやほやのときに、偶然にも彼女が会いに来てくれた。離婚したことや経緯を話したけれど、そのときには私自身もまだ事態をつかめていなかった。その直後に、私は東京に引っ越しすることになった。東京に逃げるのだ。あまりにも急すぎて、何をどうしていいかわからない。とにかく住む場所を決めなきゃ。彼女に電話した。東京に引っ越しすることにしたと言うと、彼女は驚きながら、家探し手伝うよと言ってくれた。1週間後、スーツケース1つ持って東京に来た。渋谷駅の雑踏で待ち合わせて、お部屋を探しに行く。すぐに入れる家具つきの部屋を決めたけれど、入居まで5日ほどかかるという。私は京都に帰るつもりはなかった。彼女が泊めてくれた。けれど、お布団がない。彼女が自分の会社の先輩に聞いて、使わないお布団を譲ってもらう手筈を整えてくれた。歩いて10分ぐらいのその先輩のお家まで一緒に取りにいって、2人でお布団を手で抱えて運んだ。
夕飯に、彼女の手料理をはじめて食べた。おいしかった。
「合宿みたい」と彼女が言った。
 
新しい部屋に入居したものの、やはり何もない。近所のお店ですぐいるものを買ったけれど、休みの日に彼女が車でIKEAやコストコに連れて行ってくれた。彼女の運転する車に乗ったのもはじめてだった。IKEAで買った組み立てるタンスのパーツを、一緒に家まで運んでくれた。ドライバーも貸してくれて、私の新しい生活を、いろんな面で助けてくれた。
困ったときに、すぐ助けてくれる友だちがいてくれることを、心の底から感謝した。
 
 
 
そんな彼女が、最近言っていた。
私はパーソナルスペースがちょっと広めみたいで、人に会うのがめんどくさいから人に会わなくていいコロナ万歳!と思っていたけれど、人恋しくなってきて人とのつながりって大事だと。
 
 
パーソナルスペースは大事にしないと、快適じゃない。お互いのパーソナルスペースを保った上で、ゆるやかにつながっているのがいいのかな、と思った。
 
 
数年前に、1つ上の友だちが17歳年下の彼と結婚した。そのときに、新婦が親しくしている友だちが集まって、お食事会をした。そのときに、新婦の親友と初めて会った。新婦と私は仲良くしていたのに、その親友の存在を私は知らなかったし、新婦の親友を知らなかったことに驚いた。でも、新婦の話を聞いて、なるほどと思った。
「私は、大勢で集まって話すのが苦手で、できるだけ友だちとは1対1で会うようにしていたから、皆がこうして集まってくれるというのはなかったけれど、皆で祝福してくれてとっても嬉しい」
 
確かに、新婦となった友だちと会うときは、2人で会うことが多かった。もちろん共通の友だちと複数で会うこともあったけれど、1対1で向き合って話していた。
それは彼女の、友だちとの向き合い方の作法だった。1人1人と丁寧に接する。複数で会うと、自然と話す内容をその場にいる人たち共通のものになるように選択する。多ければ多いほど、あたりさわりのない表面的なものになりかねない。でも、1対1なら、目の前にいるその人と話したいことを話せるし、深めていくことができる。
 
 
私は共通の友だちとみんなでわいわい会ったほうが楽しいかなと思って、友だちと会うとなれば共通の友だちに声をかけていた。みんなで会うのもいいこともある。でも、1対1でしか生まれないつながりもある。そのことに気づいてから、1対1で友だちと丁寧に向き合うということを意識した。そこに第3者の誰かを呼ぶことで、自分を隠そうとしていることがあったのかもしれない。人が集まれば集まるほど、自分を出さなくても紛れていくけれど、1対1だと自分を出さざるを得ない。
 
 
1対1で、自分を出して真摯に向き合う。
 
 
父と親友Tさんも、よく2人で話していた。父ががんで入院したとき、毎日病室にお見舞いに来てくださった。私よりもはるかに頻繁に、父に会いに行っていた。がんの父が、それを嬉しいと思っているのか、しんどいから迷惑と思っているのかは、わからなかったけれど、本当に毎日だった。父から離れたところで、親友のTさんが泣いていることもあった。日に日に衰えていく姿を見るのが、つらかったのだろう。
 
父は、あっけなく亡くなった。Tさんは、一晩中亡き父とともに過ごしてくださった。
家族葬にしたけれど、どこからか聞きつけた友人たちが大勢お別れに来てくださった。父の同級生にお寺のお坊さんをしている方がいらして、ご自分のお香でお焼香してくださって、ひときわ大きく煙が立ち上がったのが印象的だった。
 
その同級生のお寺のお坊さんが、教えてくださった。父が昔仲良かったAさんが、父と同じ病棟にがんで入院されていたことを。そして、父が亡くなる1週間前に亡くなっていた。
知らなかった。偶然にも、父とAさんはその人生の最期に、同じときを同じ場所で過ごしていた。そして、同じ時期に旅立った。友だちというものの縁の深さを思い知った。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
九條心華(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

同志社大学卒。陰陽五行や易経、老荘思想への探求を深めながら、この世の真理を知りたいという思いで、日々好奇心を満たすために過ごす。READING LIFE 編集部ライターズ俱楽部で、心の花を咲かせるために日々のおもいを文章に綴っている。

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2022-06-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol.174

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