週刊READING LIFE vol.177

絵文字がなかった文化を大切にしたい《週刊READING LIFE Vol.177 「文章」でしかできないこと》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/07/11/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「あっ、なんか書いてある」
 
いつの頃のことだっただろうか、最寄り駅の改札口近くでよく目にしたな。
掲示板。
真っ黒な黒板に、真っ白なチョークできれいな文字が並んでいた。
そこには、誰かがその大切な人に伝えたい、大事な言葉が書かれてあった。
小学生の頃、あまり電車に乗る機会はなかったけれど、駅に行くと何気なく私はそこを見ていた。
黒板に真っ白なチョークで書かれてあったのは、とても丁寧な字で相手に対しての思いがあふれてくるような字面でもあった。
 
「これは、男の人が書いたのかな」
 
「スゴクきれいな字だな」
 
子どもながらに、そんなことを思いながら掲示板を見つめていた。
自分には全く関係ないモノだったが、でも、その掲示板をなぜかいつもじっと見つめていた記憶がある。
もう少し大きくなってから、その掲示板は、駅で待ち合わせをしていた人たちが、何らかの事情で待ち合わせ出来なかったとき、相手に対して自分の状況を伝えていたものだと知った。
 
「〇〇ちゃん、ゴメン、先に行ってるね △△より」
 
ずいぶん、昔のことだから、個人情報うんぬんは無かったものの、的確に目的の相手に思いを伝えるために、とても工夫しているのが見て取れた。
 
携帯電話もない時代、急な用事があっても、それを伝えるのはとても難しかったと思う。
特に待ち合わせだと、相手がいることだから、余計に焦ったり、申し訳ない気持ちが募ったりしただろう。
駅の掲示板という限られたスペースで、他の人の目に晒されていることは、なかなかプレッシャーもあったと思う。
だけど、要件と自分の気持ちを上手く表現しなくてはいけないのだ。
目的の人が「自分のことだ」と思わなくてはいけないから。
 
あれから数十年が経ち、今では携帯電話も必須のアイテムになって、多くの場合、急な予定変更や要件はいつでも相手に伝えられるようになった。
昔のように、焦って公衆電話を探すこともない。
さらに時代が進んで、ちょっとした連絡事項はSNSツールを使うことが多くなってきている。電車に乗っていても、サッと携帯電話を取り出して、すぐに打つことが出来るから、急に電車が遅れたりしてもすぐに要件は伝えられる。
 
SNSのツールでは、かしこまった丁寧な文章は求められないとしても、やはりそこに打つのは文章に変わりはない。
いくら短文でも、単語であったとしても、そのチョイスは慎重になる。
とても便利なようで、全ては文字で伝えるという点では、難しいなと思う時もある。
短い文章ほど、もしかしたら難しいのかもしれない。
こちらは、とてもフランクな気持ちで書いている文章でも、その文体が丁寧すぎると堅苦しくなって、プライベートの相手ならばちょっと距離を感じるかもしれない。
反対に、目上の人に対して、少し茶目っ気を含んだ表現をしたりすると、相手によっては失礼だと取るケースもあるだろう。
思いを伝えるのって、時に難しいと思う。
 
昔にはなかった、SNSなどのツール。
それらのツールを使うと、文章なんだけれども、ほぼしゃべり言葉で表現することができる。
時には気持ちの方を、絵文字で目いっぱい表現できたりもする。
言葉が足りない部分を、絵文字が大きくカバーしてくれることも多い。
なんだか、そういう使い方が王道のようにもなってきている。
そういう表現が、許されるようにもなってきている。
 
学生時代、文通をしていた友だちとは、便せん数枚に渡り、自分の近況やそれについて自分が感じたことを丁寧に文章で表現していたものだ。
相手に、いかに自分の思いをわかってもらえるか、創意工夫をしていたように思う。
今は、当時と比べると、自分の気持ちを表現することへの努力が減ってしまったように思うのだ。
 
「ゴメンね~ (絵文字)」
 
それで済まされることだってある。
言葉は少なめでも、かわいいキャラクターが思いっ切り謝っているような絵文字を添付すると、それで全てが完了したように思ってしまうときもある。
 
そんなSNSツールの世界に慣れ切ってしまった今、便利さのその向こうには、危うさも感じるのだ。
いとも簡単に相手と連絡が取り合えるという有難さには、いつ何時でも連絡が入って、それを目にするということだ。
どのタイミングで返信するのか、どのように表現するのか、開いて見てしまったら焦ることもある。
後で返信したかったのに、すぐに返さないといけないという思い込みに陥ってしまうこともある。
本当は、言葉も選んでゆとりのある状況で返信したいのに、変なプレッシャーの方が勝ってしまって、あたふたと拙い文章を打ってしまうというようなことも、やってしまうことがある。
 
そして、短い文章、単語での表現は、相手がどのように受け取るかがとても難しい問題になってくる。
かつて、小学生だった時、同じクラスの友だちから年賀状をもらったときのことだ。
当時は、みんな一生懸命、一枚一枚に絵をかいて出していた。
その友だちも、色んな色を使ってお正月らしい一枚に仕上げてくれていた。
ところが、たくさんの色を使ったがために、年賀状のはがきが少し汚れてしまっていたところがあって、そこには、「もう、キライ」と、書かれてあったのだ。
私は、一生懸命書いたのに、こんなふうに汚しちゃって、もうイヤだという意味だと受け取ったのだ。
でも、何年か経ってから、他の友だちがその年賀状を見た時、「スゴイこと書いてくるんやね」と、驚いていたのだ。
「もう、キライ」は、私のことだとその友だちは思ったようだ。
あっ、そうか、そんなふうにも受け取れるのか。
その年賀状をもらった当時、本当に年賀状の汚れのことを言いたかったんだろうと信じ込んでいた私は、何の疑いもイヤな気持ちにもならなかったが、その友だちのように受け取っていたら、相当落ち込んだだろう。
あの頃、絵文字の文化があって、その友だちが「ゴメン」という意味を表現する、小さな絵を書き添えていたら、きっと間違いなく思いは通じたかもしれないね。
でも、きっと、多分、私の受け取り方が合っていたと思うのは、年明けにその友だちに会った時、全然普通に接してくれて、仲の良い友だちのままだったからだ。
年賀状を一生懸命書いて、絵もたくさん書いていた時、残念なことに年賀状を汚してしまって、その友だちが咄嗟に書いた一言は、相手によっては色んな受け止め方をするし、とても誤解を産みやすい表現であったことは確かだ。
それも、小学生のことだから、本当に単純な思いで表現したのだろうと思う。
 
でも、こんなふうに、文字数の少ない、文章とも呼べない言葉から、人は励まされることもあれば、傷つくことだってある。
だからこそ、文通のような手紙でのやり取りだけではなく、SNSの短い文字表現であっても、同じくらい丁寧に、自分の気持ちを載せて書くことが大切だと思うのだ。
 
いくら絵文字という便利なモノが手に入ったとしても、自分の気持ちを本当に相手に丁寧に伝えたいときには、自分の心の中の思いを丁寧に拾い上げて、相手にわかってもらえるような最大限の努力を惜しまない自分でありたいと切に思う。
 
文章でしか出来ないこと、それは、自分の気持ち、思いを丁寧に相手に伝えることだと私は信じている。
さらには、文章を書くということは、自分の思いを伝えることに精一杯の努力が出来るということ。
そう、自分の心の中を切り取って、相手に見せるわけにはいかないので、そこにはずっとこれからも最大の努力と配慮を惜しまずに向きあってゆきたいと思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。

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2022-07-06 | Posted in 週刊READING LIFE vol.177

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