週刊READING LIFE vol.177

まわりにありがたいとしか思わなくなった《週刊READING LIFE Vol.177 フリーテーマ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/07/14/公開
記事:izumi(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
いつまでこの状況が続くのだろう?
本当に限界がきているのに……。
まわりは状況を理解してくれているのだろうか。
「もしどちらかが会社にこれなくなったら、2人とも行くのはやめよう」
わたしと同僚は、笑いながら話した。
笑っているけれど、お互いに本気だ。
それくらいに追い詰められていた。
 
4月から3人でしていた仕事を2人でしている。
事情があって、1人が会社に来れなくなった。
正確には2人ではなく、まわりの人に助けてもらっている。
急な人手不足で、他部署から異動できる人は誰もいないと上司から言われた。
「いやいや、困りますよ。誰かを入れてくださいよ」
わたしと同僚は困り、どうにかして人員を確保してほしいと上司に頼んだ。
60代半ばで退職された男性Sさんに頼み込んで、週に3回来てもらった。
結局、Sさんを含む5人に一部だけお手伝いを頼めることになり、仕事は順調に進むと思った。
だけど、これだけの人数にお手伝いを頼めるから、大丈夫ではないかという予想は裏切られた。
仕事は、全く順調に進まなかった。
誰でもできる部分のみ、助けてもらっているためだ。
助けてもらえる仕事は、全体のほんの一部分だった。
うまくいくと思われた仕事は、全くまわらなくなり、すぐにピンチにおちいった。
 
ピンチにおちいると同時に、繁忙期がきてしまった。
わたしたち2人は疲れきって無口になり、毎日残業をした。
トラブルばかりの連続だった。
慣れない人に手伝ってもらっているために間違いがおこる。
しかも頻繁にミスがおこってしまった。
事前にチェックしているが、それでもチェック漏れが発生する。
間違いを修正する手間が増え、関係各所に謝罪をした。
なんで間違えるのか? そもそも何が原因なのか? という苦情が入った時は、相手に何度もあやまった。
通常と違うメンバーで仕事をしているため、何度かチェックをかけているが、チェックが漏れていましたと事情を説明した。
「なんで、こんなに怒られるのだろうか」
心の中は、納得できない気持ちでいっぱいになった。
 
そもそも無理な人員で仕事をまわしているのに、ちゃんと仕事がまわるわけがない。
仕事だからミスはしないようにしている。
だけど、繁忙期になりお互いのできる量をこえた仕事を、無理やりしている。
どう考えても、ミスはおこるでしょ。
わたしたちは、仕事をまわすのに必死で、そのうえミスがみつかり、精神的に追い込まれた。
 
いつになったら、お手伝いではなく、新しい人が入ってくるのだろう。
また繁忙期がやってくるので、早く新しい人を入れてほしい。
上司にどうなっているのかと問い合わせても、募集をかけているが、まだ決まっていないと言う返事にやきもきした。
 
いまはボーナス前の時期で、会社を転職する人が減っているそうだ。
求人をだしても、なかなか人が集まらないと説明を受けた。
「コロナで仕事がなくなった人も大勢いると聞いているのに。求人をだしても人が集まらないなんて」
新しい人が入らないという状況に、わたしと同僚は不安になった。
 
お手伝いにきてくれていたSさんは、もうすぐ終了予定だ。
人員が必要なので、短期の派遣社員がきてくれることになった。
6月から2名来てくれている。
繁忙期が7月から始まるため、6月から来てくれてほんとうにありがたい。
最初は、大変だなあと思った。
社外の人なので、いちから全部教える必要がある。
社内の仕組みから、トイレや食堂、休憩室などを教える。
仕事以外にも教える内容はたくさんある。
Sさんは、派遣社員の人に対して優しい言葉をかけてフォローしてくれ、わたしたちが手がいっぱいな時は、代わりに仕事を教えてくれた。
 
幸いにも、素直な人がきてくれている。
仕事についても、熱心に覚えようとしてくれている。
教えた内容をノートにまとめ、復習をして、わからない所の質問をしてくる。
前回の教訓を生かして、以前より教える範囲を増やしている。
任せる仕事の範囲を広げて、できるだけ円滑にまわるようにするためだ。
今なにができるか考えて、淡々と仕事をこなすしかない。
 
こんなことを言うと、会社の人からは怒られるかもしれない。
お金をもらっている限り、きっちりと仕事はするべきだ。
だけど、精神的にだめになるまで、がんばって働かなくてもいいと思っている。
毎日、元気に会社に来られるだけでえらいのだ。
一緒に働いてくれる人がいるだけで素晴らしい。
人手不足で、無理やり仕事をまわした経験がある人ならわかるだろう。
無理な状況で仕事をするのは本当につらい。
 
今まで、仕事はある程度できるのは、当たり前だと思っていた。
教えたことは出来るようになる。
それ以上に自分から進んで、仕事を見つけて改善を進める。
言われた内容だけをするのではなく、自分からどれだけできる仕事を見つけられるか。
まわりに仕事とはこうあるべきだと押しつけたことはないが、なんとなく相手には雰囲気で伝わっていたのではないか。
仕事はこうあるべきだという決めつけは、もうやめた。
 
もし、いつも人数が足りている職場で働いていたら?
仕事はある程度できて当たり前という前提の考えのままだ。
そうではないのだ。
がんばってみたけれど、無理な場合もある。
精一杯しているが、人から見たらレベルが達しない場合もあるだろう。
適材適所というように、自分に合った場所で働けばいい。
無理にあわない場所で、気持ちをすり減らして働く必要はない。
新しい派遣社員の人に辞められたら困るが、もし会社が合わなければ無理にこなくていいと思っている。
 
一緒に働く人数が減り、この先は真っ暗だという不安でしかなかった。
忙しい中での残業や、精神的な負担もあった。
でも悪いことばかりではない。
人手不足の中、仕事を続ける経験がなかったら、相手への優しさは生まれなかったかもしれない。
小さなことに感謝できるようになった。
ささいなことだけど、仕事が出来るのはありがたいなと思う。
自分1人で仕事をしている気になっていても、まわりの協力があってこそ仕事がまわる。
 
いつもは当たり前にあった何かが欠けたとき。
欠けてみて、やっとありがたさがわかる。
今回の場合は、一緒に仕事をするメンバーが欠けた。
結果、みんなが一生懸命に仕事をするのが当たり前という考えから、毎日会社で仕事ができるのが素晴らしいという考えに変わった。
 
毎日会社に行って、仕事をしているだけでえらい!
自分を褒めるようになった。
そして、心の中で一緒に働く相手にも同じように褒めている。
一緒に仕事をする相手に、こうしてほしいという期待を求めなくなった。
ただ一緒に働けるだけでいい。
仕事は期待以上に、一生懸命すべきだという考えを捨てたら、気持ちが楽になった。
いつもガチガチで仕事をしていたのだろうな。
 
 
お手伝いにきていただいているSさんの終了日に、お礼のお菓子とメッセージを送った。
「お忙しいなかに来ていただき、ありがとうございました。暑いですので、お体ご自愛ください」
返事は優しさであふれていて、読みながら泣きそうになった。
「そんなに忙しくないので大丈夫。またみんなに会えて楽しかった。これからしばらくは好きなことをゆっくりやりたいです。そちらも仕事だけでなく楽しいこともいっぱいやって、人生を楽しんでください。困ったことがあえばいつでもどうぞ」
人生の先輩は、困った時には手を貸してくれて、楽しかったとまで言ってくれる。
仕事を手伝ってもらっている時は、またみんなに会えて楽しかったと思ってくれてるとは想像できなかった。
ご年配のSさんが一度辞めた仕事を、覚え直すのは大変だったに違いない。
いつも「なにかやることはない?」と笑顔で話しかけてくれた。
その言葉に何度も救われた。
 
何かを失った時、大変だという気持ちばかり先走るだろう。
だけど、少し時間がたって落ち着いてみると見方が変わる。
わるいことばかりじゃないなと思える。
探してみると、ちゃんとギフトがあるのだ。
Sさんのように、誰かが困っている時には手を差し伸べられる人間でありたい。
もう少ししたら、また繁忙期がくる。
まわりに感謝をしながら、仕事をしていきたい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
izumi(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年7月よりライティング・ゼミ超通信コースを受講。2022年1月よりライターズ倶楽部に参加。ランニング、トレイルランニング歴10年。最近山登りにハマってテント泊を実現したい。誰かの応援になる文章を、書けるようになりたいと日々特訓中

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2022-07-09 | Posted in 週刊READING LIFE vol.177

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