週刊READING LIFE vol.177

書くことは長距離走である《週刊READING LIFE Vol.177 「文章」でしかできないこと》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/07/11/公開
記事:深谷百合子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
その言葉は、まるで水鉄砲のようだった。私の中に芽生えていた「浮ついた火種」を、シュッと消してしまった。
 
「予定調和的に進行していましたね」
 
ラジオ番組の収録を終えて2週間近く経った頃だった。編集を終えた音声が私のところに送信されてきた。時々語尾がのびたりする自分の喋り方の癖は気になるが、「いい感じにまとめることができたかな」と、悦に入っていた。その時、プロデューサーから送られてきたのが、このメッセージだった。
 
「予定調和」という言葉が私の心に突き刺さった。インタビューや取材をやるようになってから、私はいつも気を付けていることがあった。それは「意外な、知られざるエピソードを引き出すこと」だった。インタビューについて学ぶ中で、「計画通りに質問項目を埋めていくようなインタビューなら、メールのやりとりだけで十分」、「予定調和的に進むインタビューは面白くない」という話をあちこちで聞いていたからだ。
 
だから、取材では事前に質問事項を用意していても、それを埋めることにこだわらず、その時に出てきた話を掘り下げて聞くように心がけていた。たまに、急にスイッチが入ったみたいに、話し手が熱く語り出す瞬間があると、「やった!」と心の中でガッツポーズが出た。でも、そういう「スイッチの入る瞬間」をパッと捉えて、話を掘り下げていくのは、私にとってなかなか簡単ではない。
 
特に、ラジオでのインタビューは時間も限られているから、なおさら簡単ではなかった。
 
「予定調和だったかぁ」
私はシュンとなった気持ちを立て直しながら、もう一度送られてきた収録音声を聞いてみた。確かにそつなくこなしているけれど、台本通りにやっている雰囲気が漂っている。「今のその話をもっと突っ込んで聞いたら良かったのに」と思う場面もいくつかあった。なんというか、きれいに流れているけれど、引っかかりがない。そういう感じなのだ。
 
なぜだろう? 収録の日のことを思い出しながら、私はその時の自分のことを振り返ってみた。30分の番組の内、インタビューの時間は約10分だ。その10分のために、友人がわざわざ遠方から来てくれた。限られた時間だけれど、せっかく来てくれた友人のことをしっかり伝えなきゃ。私はそう思っていた。
 
今から振り返ってみると、私の中で目的が入れ替わってしまっていたのだ。本当は「どうしたら友人から意外なエピソードを引き出すか?」に意識を向けるはずだった。そこから友人の人となりや、仕事に対する友人の熱い思いを伝えたかった。それなのに、その時の私のゴールは「どうしたら10分で伝えるべきことを伝えきるか?」に置き換わってしまっていた。時間を気にしながら、淡々と友人の話に相づちを打ち、予定通りの質問をしている私。後から友人のホームページを見に行けば分かることしか聞いていない私。私は、「わざわざ現場に来て、話してもらっているという価値」を生かしきれていなかった。その場その場で、「お!」と思ったところを切り取っていく、そういう瞬発力が私にはまだ足りないように感じた。
 
それ以来、私の頭の中には常に「予定調和」という言葉が居座っていた。文章を書いている時もそうだ。私は普段、文章を書くときは事前にノートに大体の構成と書きたい結論をまとめてから、文章を書き始める。そうしないと、書いている間に迷走してしまうことがあるからだ。けれども、そうやって書いた文章は「予定調和」な感じになることも多かった。もうすでに自分の中に結論があって、そこに行くまでの道筋を辿っているだけのような文章は、自分で読んでいてもあまり面白くない。
 
一方で、何となく道筋はあるのだけれど、その先が見えていなくて結論がぼんやりしたままの状態で書き始めるときもある。自分の中でまだ決着できていない思いを書く時なんかがそうだ。そういう時、モヤモヤしたまま迷走することもあるけれど、書き進めていく内に、自分の中に違う視点やゴールが見えてくることがある。
 
先日、父の死のことについて記事を書いた時もそうだった。書きたいことは整理できていたのだけれど、書き始めた時、着地点は見つかっていなかった。父のことは3年前にも一度書いたことがあった。けれどもそれから3年経ち、私自身も大きく変化したし、3年前には知らなかった事実もあって、父の死に対する私の受け止め方も変化していた。「父の死」という同じテーマで文章を書いていても、見える景色は変わっていたのだ。そして、書き進めていく内に、「多分こんな結論になるのかな」と思っていたのとは全く違う結論が浮かび上がってきた。「本当にやりたいことは何か?」という問いに対して、私は書き始めるときには「自分の人生のテーマ」に関連する結論になるのだろうと思っていた。でも、最後に出てきた結論は、「本当にやりたいことは、いつでもできることだった」という、自分でも予想していない結論だった。「時間をかけて進んで行ったら、まだ見ぬ景色と出会った」という感覚だった。
 
ラジオでの話が瞬発力を要する「短距離走」だとしたら、文章は「長距離走」みたいだ。振り返ると自分がどれほど進んできたのかが見える。進み続けていくと、まだ見ぬ景色が待っている。
 
でも、それだけではない。文章は、それを読んでくれた人の解釈を得て、また違う景色を見せてくれることがある。
 
私の書いた父の記事を読んで、幾人かの方がコメントを下さった。その中に、「事後性」という言葉があった。私にとってその言葉は、初めて聞く言葉だった。「振り返ってみて分かった」という意味だ。父の死に直面した時に感じたことと、3年前に父のことを記事に書いた時に感じたことと、今感じていることは、皆少しずつ違っていて、「今だから分かる」ということが沢山あった。「それを事後性というのか」という新しい学びがあった。そして、私のこの「事後性の学び」が誰かにとって役に立つのかもしれない。そんなことを意図して書いた記事ではなかったけれど、文章には色々な解釈を生む「余白」があるのだ。それが、動画でもなく、音声でもなく、文章だけが持つ力だと私は思う。
 
同じゴールに向かうのでも、寄り道ができたり、違うルートを見つけることができる。自分の書いた文章を誰かが読んでくれて、その人の解釈によってまた違う景色を見せてくれるのであれば、どんどん書いて発信しないともったいない。
 
ただ、その時に大事なのは何だろう? 自分の書いた文章に対して、読んでくれた人からのコメントや感想を聞いて、新しい気づきを得た時ってどんな時だろう? 改めて振り返ってみると、新しい気づきを得た時は、「自分の中で既に結論が出ていたこと」を書いた時よりも、「書き進めるうちに思わぬ結論が出てきた!」という時だった。つまり「予定調和」な文章じゃない時だった。
 
「こうなって、そうなって、この結論に至ったんですね」という予定調和的なものは、自分で読んでみても面白くない。スーッと滑らかに入ってくるけれど、そのまま流れていってしまう。後に何も残らないのだ。それよりも、読んでくれた人の中に何か「ひっかかり」を残したい。そのためには、「もう結論が出た」と思っていることでも、その先の景色を探してみるのも面白いかもしれない。だって文章を書くことは、私にとって「長距離走」なのだから。まだ見えぬゴールを目指して走り続けるのは苦しい。けれど、今より少しでも進み続けてふと振り返った時、「そういうことだったのか」という気づきがきっと待ち受けているだろう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
深谷百合子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

愛知県出身。
国内及び海外電機メーカーで20年以上、技術者として勤務した後、2020年からフリーランスとして、活動中。会社を辞めたあと、自分は何をしたいのか? そんな自分探しの中、2019年8月開講のライティング・ゼミ日曜コースに参加。2019年12月からはライターズ倶楽部に参加。現在WEB READING LIFEで「環境カウンセラーと行く! ものづくりの歴史と現場を訪ねる旅」を連載中。天狼院メディアグランプリ42nd Season、44th Season総合優勝。
書くことを通じて、自分の思い描く未来へ一歩を踏み出す人へ背中を見せ、新世界をつくる存在になることを目指している。

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2022-07-06 | Posted in 週刊READING LIFE vol.177

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