週刊READING LIFE vol.177

見知らぬ女の書いた文章なのに《週刊READING LIFE Vol.177 「文章」でしかできないこと》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/07/11/公開
記事:川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
2021年10月に文章を書き始めてから、8ヵ月が経った。早いのか遅いのかわからないし、毎日文章を書き続けているわけではないけれど、なんだかんだ8ヵ月続いている。
 
人生を振り返ってみても、私が何かに突き動かされるのは、だいたいが負の感情からが多いような気がする。文章を書き始めてみようかな、と思ったのも、前から少し興味があったからというのもあるが、元彼を見返すためだったから、というのが一番大きい理由だ。「誰かに何かを伝えたい!」とか「自分の思いを文章にまとめられるようになりたい!」とか、そういうポジティブな理由ではまったくない。どちらかというと執念のような怨念のような、そういうネガティブな感情に突き動かされて始めたものだった。
 
それが、8ヵ月も続いてしまっている。これは自分でも想定外なところではある。正直、こんなに続けられるとは思わなかった。
 
私は本を読むことが好きだ。ビジネス書や自己啓発本も読むが、もっぱらエッセイや小説が好きだ。小説も、できるだけ身近に感じられるようなちょっと面白い内容のものや、ほっこりするようなものが好きだ。ここ数年は、同年代女性が仕事に恋に悩みまくっている小説をよく読んだ。私にとって本を読むことは、知識を得るためにおこなうところもあるが、だいたいは娯楽だ。一種の現実逃避だ。仕事でいくら疲れても、帰りの電車で女芸人さんの書いたエッセイを読んでクスッと笑えれば、疲れなんて忘れてしまう。小説を読めばその異世界に自分もいるような気分になる。大量の紙にただ文字が印刷されているだけだが、その文字から癒しだったり笑いだったり、そういうパワーが放たれている気がする。
人によってはそれが動画視聴かもしれないし、音楽鑑賞かもしれないし、絵を描くことかもしれないし、走ることかもしれない。また、それらを複数持っているのかもしれない。私にとってのそれが、本を読むことだったというだけだ。
 
読むことが好きな私が、誰かに読んでもらうための文章を書いている。最初は書いた文章を友人に送って読んでもらっていた。友人たちは優しいので、読んでくれた感想をその都度送ってきてくれる。上手になってきたよね、とか、なんか泣きそうになった、とか。友人だからかもしれないが、自分の書いた文章を人に読んでもらえるということに、嬉しさというか、快感を覚え始めていった。ネガティブな感情でスタートさせた「文章を書く」ということが、いつの間にか、私の楽しみの一つになっていった。
 
もちろん楽しいことばかりではなく、書くことが浮かばない時もあるし、書きたいことがあってもなかなか思うような文章にまとまらないこともある。好きなことだから苦しむ必要はないし、書けないなとか、書きたくないなと思った時は書かなければいいだけの話なのだ。別にそれでお金を稼いでいるわけでもないし。本を読むことと同じように、文章を書くことも同じく趣味のようなものなのだ。仕事ではない。だから義務ではない。そんなことはわかっているのだが、私は文章を書くことをやめようとはしないのだ。何も書くことが浮かばない時でも、何かに憑りつかれているかのように「何かを書きたい」と思っているのだ。
 
文章を書き始めて2ヵ月くらい経ったとき、ふいに自分の文章をまとめてみようと思い、某SNSを始めてみた。今までブログを作ってみたことは何回もあった。けれど、いつも続かなかった。書きたいことは山ほどあったのに、自分の書く文章がどうもまとまらなくて、気に入らなくて、というのを繰り返し、結局文章が書けず閉鎖、というのを幾度となく繰り返していたのだ。
でももう今は違う。自分で楽しいと思いながら、それなりに人に読んでもらえるような文章が書けるようになった。特に誰からも反応がなくても、とりあえず不特定多数の人の目に留まりそうなところに、自分の文章を載せてみたくなったのだ。
 
どこの誰だか知らない女の文章なんて、誰も読まないし、ましてや「いいね!」なんてされないだろうと思っていた。思っていたのだが、初回に載せた文章に、思いのほかいいねがついた。バズってはいないし、他の人から見たらまったく大した数じゃないかもしれないけれど、少なくともこのいいねをしてくれた数の人がこの文章を読んだのかと思うと、ネット怖いなと思うと同時に、嬉しいなという思いがこみ上げてきた。
 
それからもひたすらに、書いた文章を載せていった。特に何を狙うでもなく、自分が思ったこと、感じたこと、実際に起こった出来事、どこにでもいそうな人間が、特に劇的でもない出来事をつらつらと書き綴っていき、それをただただ掲載する。本当に、それだけだった。
  
ある日、スマホにその某SNSから通知が届いた。
「○○さんがあなたをフォローしました」
 
え、まじで。
 
仕事中だったけれど、思わず声が出てしまった。隣の席の後輩が「どうしました?」と声をかけてきて、ハッと我に返った。何もないよーと平然を装ったけれど、心臓はバクバクなり続けていた。休憩時間にスマホを開いてアプリを起動させる。そのフォロワーは、まったく知らない人だった。インフルエンサーでも著名人でもなく、顔出しもしていなければ素性もまったく掲載していない、ただただ文章をひたすらに載せているだけの私のページ。その私のページを、見知らぬ誰かがフォローしてくれた。
 
言葉にできない嬉しさだった。見知らぬ誰かに、私の文章が刺さったということではないか? 私の文章が好きってことじゃないか? 素性のわからない私の文章が、好みということじゃないか? 嬉しいじゃないか!
 
その日から、少しずつだがフォロワーが増えていった。一人、また一人増えていくたびに、初心に返ったような、ちょっとドキドキとした気持ちになる。「ああ、また誰かに私の文章が受け入れてもらえた」というような、一種の自己肯定感が上がるような、そんな快感を覚える。
 
フォロワーが増えていく中、コメントももらえるようになった。
SNSのコメントというのは、私は少し怖いものだという印象が強かった。芸能人がアンチコメントで心を痛めていたり、芸能人に限らず、一般人でも嫌がらせや学校のいじめが行われている場合もあるし、私もネット上で見かけることが少なくない。
 
どんなコメントがきてるんだろう……。「つまんねー文章書いてんじゃえーよブス!」とかかな……。いやでも顔出ししてないのにブスとかわからんしな……。うーん。
 
数分置いて、意を決してそのコメントを開いた。「川端さんの文章、好きです! これからも楽しみにしています!」というものだった。
 
絶対アンチコメントだと思っていた私は、それを見て拍子抜けした。全然アンチコメントじゃないやんけ……。めちゃくちゃ怖かったやないか……。
ひょろひょろと拍子抜けして平常心に戻ったあとに、改めてそのコメントを読み返してみる。
 
……嬉しい。
 
コメントを貰えたことも、もちろん嬉しかったが、私の書いた文章を好きと言ってくれる人がいる。受け入れてくれる人がいる。その事実がとてつもなく嬉しかった。
 
その後も、ちょこちょことコメントをいただいた。
悩みを文章にしたときは「私も同じ悩みを抱えています」とコメントをしてくれた方がいたし、自分でも泣きながら書いた文章には「なんだか泣いてしまいました」というコメントもいただいた。
悩んでいたことは自分だけじゃないと思えるようになったし、泣きながら書いた文章には自分の感情がしっかりと乗せられていたのかなと思うと、自分の意図というか、思いが読んでくれている人に届いているのだなと感じた。
 
その時思った。
もしかして、私も同じことをしているんじゃないだろうか。
私がエッセイや小説を読んで感情移入したり現実逃避しているのと同じで、私の文章を読んでくれている人たちも、同じように何かを感じてくれたり、疲れていても、ちょっとだけでもクスッと笑ってくれたりしてくれているんじゃないだろうか。
いや、してくれていたらいいな。そうだったらいいな。私の文章を読んで、こんな人間もいるんだなと自分を少しマシに思ってくれたり、もうちょっと頑張れるかなとか思ってくれたり、そういうことを思ってくれたらいいな。
 
文章って、顔も素性も知らない、見知らぬ誰かが、見知らぬ誰かを元気づけたり笑わせたり、そういうことができる不思議なツールだと思う。もし街中ですれ違ったとしても、すれ違ったことにさえ気づかない。それくらい現実では接点のない人にでも、何かを伝えることができる、なんとも不思議なツールだ。
その不思議なツールに救われている人もいるし、娯楽になっている人もいる。不思議だ。でも、やっぱり面白い。
 
そう思うと、また文章を書くのが楽しみになったし、もっと文章を書きたいなと思えた。
人のためだけに書くつもりはないけれど、これから書く文章も、誰かの笑いのツボをちょこっと刺激したり、そういうものになればいいなと思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。大阪府在住。
自己肯定感を上げたいと思っている、自己肯定感低めのアラサー女。大阪府内のメーカーで営業職として働く。2021年10月、天狼院書店のライティング・ゼミに参加。2022年1月からライターズ倶楽部に参加。文章を書く楽しさを知り、懐事情と相談しながらあらゆる講座に申し込む。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2022-07-06 | Posted in 週刊READING LIFE vol.177

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