週刊READING LIFE vol.180

うちのカレーはやっぱり一番美味い《週刊READING LIFE Vol.180 変わること・変わらないこと》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/08/08/公開
記事:大塚久(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「やっぱりうちのカレーが一番だわ」
 
実家で出てくるカレーは角切りの豚肉と大きめに切った玉ねぎ、じゃがいも、にんじんが入って、市販の中辛のカレールーを使い、本格的にするためにカレー粉を入れて作るカレーだ。別に玉ねぎを茶色くなるまで炒めたりしないし、こだわりのスパイスを調合して作るわけでもない。いわゆる普通のカレーだ。
 
味は本当に普通のカレーなのだが、結婚して実家を出た今も、この普通のカレーが無性に食べたくなることがある。みなさんの家のカレーは一体どんなカレーだろうか?
 
肉は鶏だったり、牛だったり、お子さんがいるうちはウインナーなんかも入るかもしれない。野菜は一緒に入れると崩れるからじゃがいもだけは後から入れるとか、玉ねぎは茶色くなるまで炒めてから作るとか、市販のルーは使わずにスパイスを入れて作るとかほんとその家庭の数だけカレーは存在する。
 
「カレー」という食べ物は変わらないはずなのに、その中身は色々変わっている、それはきっとそのカレーを食べる人の関係性や環境がそうしているのではないか?
 
うちは両親が共働きで、夕食時に母親がいないこともあり、その時はよくおっきな鍋にカレーが大量に作ってあった。そのカレーを僕はご飯のおかずに、父親はお酒のつまみにして食べていたのを覚えている。
 
特に母親はいつも忙しくしていることが多かった。なのでその母親が作るカレーは自然と手間のかからないものになる。食材は大きめに切ることになるし、玉ねぎを茶色まで炒めたりもしない。ただ、両親共通しているのが「美味しいものが好き」なので、市販のルーだけではなく、ちょっとだけカレー粉を入れて本格的な味にしている。ちなみに母親は家族で唯一、牛肉が食べれないので、カレーは豚肉だ。ビーフカレーは本当に母親が食べる予定がない時にだけ出てくる。
 
父親はお酒が好きで毎日晩酌をしている。肉も野菜も大きめに切ってあるうちのカレーはその晩酌のつまみとしても合うのだ。
そして僕からすると具材が細かく切ってとろとろに煮込まれたカレーよりは大きめに切ってあって、歯ごたえがある方が食べてて満足感もある。
 
このように家で出てくるカレーはその家に暮らす人の好みや年齢、関係性、生活習慣などによって一番いい形になっているはずなので、やっぱりうちのカレーが一番美味いのだ。
たまに友達のうちに遊びに行った時にカレーをご馳走になり、そこのうちのカレーのお肉が豚バラ肉のスライスだった時に、それはそれで食べやすくて美味しかったのだが、なんとなく違うなー、と思ったことを覚えている。
 
お店で食べるカレーも同じで、たまに食べる分には美味しいのだが、家でこれが出てくるとなると落ち着かない。お店のカレーはよそ行きのカレーだからだ。
家で食べるカレーはただお腹を満たすだけのものではなく、家のカレーを食べることで家にいるという安心感を与えてくれるものなのかもしれない。
 
今僕は結婚して妻と二人で暮らしている。
妻の実家のカレーはうちと似ていて、いわゆる普通のカレーだ。違いはうちのカレーよりも少し辛さが控えめのカレーだ。これはうちの奥さんが辛いものが苦手だからきっとお母さんが辛くないカレーを作ってくれていたんだろう。妻の家庭も元々共働きだったからおそらくカレーも似てきたんだろうと思う。
 
そしてこのカレーを食べて育った妻と結婚して今のうちのカレーがどうなったかというと、お互いの実家で食べていたものと全く違うカレーになっている。それも「うちのカレーはこれ!」といったものは存在せず、
 
サバのトマト缶カレー
インド風チキンカレー
サグカレー
キーマカレー
厚揚げの和風カレー
夏野菜カレー
 
と6種類もある。
この6つに共通しているのは市販のカレールーを使わないという点だ。いわゆるカレーのルーを使った実家で食べるようなカレーはうちでは出てこない。
それはおそらくなのだが、うちの妻がそもそもカレーをそんなに好きじゃないことが元になっているんじゃないか?
 
結婚した当初、変わり種のカレーばかりが出る我が家の食卓を疑問に思い、「なんで普通のカレーは作らないの?」と聞いたことがあった。そしたら「私、カレーってそんなに好きじゃないんだよね。別に嫌いな訳じゃないし、あったら食べるけど、わざわざカレーを選んで食べようとは思わない」ということだった。
それと同時に
「美味しいものは好きだから自分が美味しいと思うカレーは作る」
といっていた。
 
おそらく妻の美味しいの基準にカレーのルーを使ったカレーは含まれていなかったのだろう。だからうちのカレーにはルーを使わないで作るカレーになったんだろう。
さらに妻はナンが好きで、うちで作るカレーにはナンで食べるものも2つある。そのナンも粉を混ぜてフライパンで焼いて作る。ちなみにナンを焼くのは僕が担当だ。
 
妻は専業主婦で僕自身も夜遅くまで仕事ということはないので比較的夕食はのんびり食べることができる。僕も妻も「美味しいものを食べたい」という欲求は共通しているので少々手間が掛かっても美味しいものが食べたい。だから今は「ちょっと手間もかかるけど二人で美味しいと感じるカレー」がうちのカレーになったんだろう。
 
同じようなカレーで育った2人だが、その2人が作るカレーは育ったカレーとはまるで違うカレーになっている。カレーというものは同じなのにやはりその家の個性によって中身が変わる。一見、育ってきたカレーと同じようなカレーになりそうなものだが、違うのである。それにはいいも悪いもない。
 
両親から受け継がれている遺伝子の情報は生まれてから死ぬまで変わらない。遺伝子の情報は体の設計図なので、基本的には生まれてから今まで同じ設計図のもとに体は作られている。ただ、学校で工作の時間に最初に頭に思い描いた通りに作品が出来上がらないのと同じように、体も最初の設計図通りで全てがうまくいくわけではない。
 
周りの環境に合わせて設計図と違う形に変えていきながら体を維持しているのだ。思えば僕たち人間は生まれてから大きく形を変えてきている。
最初は体も思うように動かせず、話もできない。身の回りのことは周りの大人たちに世話してもらわないとすることができない。
 
そこから足を動かしたり手を動かしたら、目で見たり、音を聞いたりしてその場の環境に合わせて発達していく。周りの環境次第でどう発達していくかが変わる。
例えば周りが日本語を話す人が多ければ、自然と日本語を身につけるし、英語を話す人が多ければ英語を身につけていく、体を動かす機会が多ければ筋肉や骨はより発達していくし、絵画や音楽などに囲まれて生活していれば絵を見たり、音楽の感覚が発達していく。どんな環境で生活していたかで中身がどんどん変わっていくのである。
 
この自分の中の変化に自分自身が追いつけないと、自分を見失って、「私って何?」って悩むのである。その一番顕著なのが思春期だ。
そんな「私ってなに?」って悩んだ時に思い出してもらいたいのが、「私ってなに?」って悩んでいる自分こそが私なのだ。
 
私の中身は環境に合わせて常に変化しているが、その「私」自身はなにも変わっていない。常に私は変わらずそこにあるのだ。変化することも大事だし、その変わらず存在している私を認識するのも大事だ。
 
うちのカレーも同じで、家の個性によって具材や作りかた、味も見た目も変わるが、それがカレーであることには変わりはない。うちのカレーがあるということは帰るところがあるということだ。これを認識しているとどこに行っても不安になることはないし、帰ってこれるという安心感がある。
 
そして、カレーは環境によってまた変わる。今はうちは妻と2人だが、これがもし子供が生まれて3人になったり、兄弟ができて4人になったり、実家の両親と暮らすようになって6人、8人になることもあれば、子供が独立したり、親が亡くなって減ることもある。
 
その都度そのうちのカレーは変わっていくのだ。子供ができれば子供たちでも食べやすい甘めのカレーになるかもしれないし、両親が一緒なら両親が作っていたような普通のカレーになるかもしれない。それはいいも悪いもなくその家の今を表している。いわばうちのカレーはその家の歴史そのものなのだ。
 
これからうちのカレーはどんなカレーに変わっていくのだろうか? もしかしたら普通のカレーに変わっていくかもしれないし、このまま変わらないかもしれない。もしくは想像もできないような変わり種カレーに変わっていくかもしれない。ただどう変わってもそれはその時の我が家を表している。そしてその時の家は住んでいる僕たち次第だ。
 
僕たちがこれからいろんなものを経験して、学んで、失敗して、成功して、さまざまな体験を通して変化していく。その変化は年をとって体も動かなくなって、味覚も変化して、思い通りにならなくて辛い変化もあるかもしれない。でもその辛い変化も後から考えるとそれは「いい経験」として語れる人生のスパイスになるだろう。
 
スパイスの効いていないカレーが当たり障りのないカレーになってしまうように、人生も多くの経験することでそれがスパイスになり、人としての深みが増していく。我が家のカレーがより深い味わいで美味しいものに変化していくように、まだまだこれからたくさんのことを経験していこう。
 
たくさんのスパイスを知って、どんどんうちのカレーを美味しく変化させていこう。変化し続けることで、変わらず「やっぱりうちのカレーが一番だわ」と言い続けられるように。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
大塚久(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

神奈川県藤沢市出身、理学療法士。健康のために近所を散歩していてたまたま立ち寄った湘南天狼院でライティングゼミに出会い、現在はその上位コースであるライターズ倶楽部に参加。散歩を初めて1ヶ月で天狼院に出会い、2ヶ月でライティングゼミに通い、4ヶ月で天狼院で講座を行うまでに人生が変化。しかもその間に体重も8kg減り、その人生と身体を変化させた経験をもとに現在ではクリエイティブ・ウォーキングとして講座を開催。100歳まで歩けるカラダ習慣をコンセプトに自身が体験して得た身体の知識を提供している。

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2022-08-03 | Posted in 週刊READING LIFE vol.180

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