週刊READING LIFE vol.180

掃除機を変えた、私が変わった《週刊READING LIFE Vol.180 変わること・変わらないこと》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/08/08/公開
記事:なつき(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)
 
 
ピンポン。待っていた荷物が届いた。受け取る。思っていたよりもずっと小さい箱。そして軽い。ちゃんと中に入っているよね、と少し不安になる。開ける。私が待っていたのは新しい掃除機。それもコードレスタイプの掃除機だ。使ってみる。軽い、なにこの軽さ、そしてなんて自由度が高いの!? こんなにいいものをずっと渋っていたなんて! 2年も渋っていたなんて!
 
話は5年ほど前に遡る。結婚した時に新しく掃除機を買うことにした。私が一人暮らしをしていた時のは捨てたし、夫が持っていたのはかなり古く吸引力も弱かったので新しくしたかった。電気屋さんで色々見る。様々な機能の説明を受ける。この掃除機は吸い込みがこうだとか、この掃除機は本体が軽いとか。そんな中私がいいなと思ったのはある外国メーカーのものだった。この掃除機は静音を謳っていたのと、何より本体に使用されている色が私を惹きつけた。赤みがかったオレンジ色で暖色が好きな私を虜にした。でもこの掃除機はキャニスター型で本体も大きい。キャニスター型というのは、コロンとした形で蛇腹ホースなどがつく昔ながらの掃除機の型。この形は置き場所を取るのに、さらに本体が大きいのでなおさらだ。少し迷った。見本機があったので試用してみる。謳い文句通りに音が静か、そしてオレンジ色が可愛い。少し高めだけど10年使えるとも聞いた。迷いに迷った挙句買うことにした。
 
オレンジの掃除機との生活が始まった。掃除機をかけるのが楽しい。オレンジの可愛い子が私の後をついてくる。オレンジという色だけでテンションが高くなった。1人暮らしの時に使っていた掃除機に比べ2回り位大きくなったし重くなったのに、オレンジ色というだけで掃除が楽しかった。仕事で疲れて帰っても掃除機をかける時間を取っていたほどだった。
 
買ってから2年が過ぎた。床を掃除する時につける床用ノズル部分の様子がおかしい。床用ノズルの連結部分が割れて、見えてはいけない内側のコードが見えている。普通に使っていたし酷使もしていないのに、10年もつと聞いたはずがこれではちょっと困る。修理が必要かと思いつつ、床用ノズルを外してパイプ部分を直接床にあてて掃除機をかけてみる。ぴったり床につけると、吸い込まないのと床に傷がつくので、数ミリ浮かしてかける。つまりは常にほんの少しパイプ部分を持ち上げている状態だ。つくかつかないかの微妙に浮かせた状態で掃除機をかける。ちゃんと機能している。ごみを吸っている。とりあえず、床用ノズルが無くても掃除はできそうだ。
 
修理を依頼しなきゃと思いつつ、修理している間、掃除機が手元にないのは嫌だ。伸縮パイプをうっすら浮かしてかけても特に問題なく使えそうなので、しばらくその形で掃除をした。そのうちにこの体勢で慣れてしまい、なんとも奇妙で器用な掃除機の掛け方が定着した。こうなるとまだ修理はいいかと、先送りにしてしまう。床用ノズルを使わなくなってから1年が過ぎた。
 
そのまま使い続けているうちに夫が「掃除機あるけどいる?」と提案してきた。夫が見ていたパソコン画面を見ると、キャニスター型とスティックの掃除機が並んでおり、どれも今家にあるのよりずっとコンパクトだった。買い物ポイントが溜まったけど特に交換したい物もないし、どうせなら掃除機を新しくしてはとの提案だった。コードレスで充電タイプのスティック掃除機に興味を持った。コードレスならコードが何かに引っかかることも移動するたびにコンセントを差し替えることもしなくていい。スティック型なら本体を引きずらなくてよく小回りが利きそうだ。でも私の心にストップをかけたことがあった。コードレスのスティックタイプは吸引力がかなり弱いということ。充電式なので制限時間があるということ。充電時間も3時間とか長い。充電し損ねて、かけたいときにかけられないのは困る。今使っている掃除機の紙パックの在庫がまだある。掃除機の新調は少し保留にした。
 
もうすっかり慣れて違和感が無くなった浮かし掛けで掃除を続けた。掃除機の本体が大きいので紙パックも大きく、1つで半年位は使用できる。そしてやはりオレンジ色は手放したくない。3個の在庫があったので、まだしばらくはこの掃除機を使おう。でも紙パックの在庫が無くなるまでには今後どうするか決めよう。
 
そして最後の紙パックを装着する時が来た。これでもう在庫は無い。この紙パックがいっぱいになるまでに心を決めないといけない。重い腰をあげ掃除機を検索する。私にとって必要な条件は6つ。スティック型、コードレス、紙パック、暖色系、コンパクト、吸引力だ。スティックなら壁の隅に立てかけられるので場所も取らない。コードレスだと掃除の際の取り回しがいい。そして紙パック。最近はサイクロンが主流になっているけど、ごみが透明のダストカップに溜まるのが見えるのが苦手だし、カップの手入れも必要になる。ごみをカップから捨てる時に粉塵も飛ぶから周りも綺麗にする必要性が出てくる。掃除の後に都度別の掃除が加わるのは気が進まないので紙パック一択。色については前にも書いた通り私は暖色系が好き。赤やオレンジ、ピンク色なら掃除がより楽しくなるから、外したくない条件。サイズは、場所を取らないコンパクトなものがあれば助かるのでこれも条件に入れたい。最後の吸引力は今使っている掃除機がちょうどいいのでこれくらいは欲しい。これらの条件で掃除機を検索する。
 
スティックのコードレス型がある、色もある、コンパクトサイズもある、吸引力も強そう。これらの条件が揃った素敵な掃除機がたくさん出てきた。なのになんで!? いいなと思った掃除機はほぼサイクロン式。紙パック式がほとんどない。世の中はこんなにもサイクロン式に傾いているのか。紙パックがあったと思ったらキャニスター型だった。どうやらキャニスター型は今でも紙パックが主流らしい。これだと必要条件の順番を入れ替えないといけない。スティックと紙パックは両立できないの?
 
さらに検索を進める。あった。スティック型で紙パック式を両立してる掃除機を見つけた。では色は? 暖色系、暖色系、赤とかオレンジ……無い。ほぼ白、たまに濃い青など寒色系。サイクロンなら色の種類があるのに紙パックだと無い。思った以上に落ち込んだ。こんなに落ち込むということは、私の必要条件の1番は色だったの? もう頭はスティック一択になってる。でも紙パックも外せないし。うわああ、何を妥協すればいいんだああ。この3つが揃う掃除機は無いの?
 
ふと夫の言葉を思い出す。前にポイント交換の掃除機のページを見せてもらった時にスティック・紙パック・暖色があった気がする。前回見た時から2年近く経ってるから無いかもだけど駄目元で聞いてみよう。夫にページを見せてもらった。私が求めた3つの条件が揃う掃除機がそこにはあった。詳しく仕様を見る。そしてあの時どうして保留にしたかわかった。吸引仕事率が低いからだ。吸引力の目安となるのが、吸引仕事率の数字。そのページに乗ってるほかの掃除機に比べて格段に低かったからだ。吸引力は大事。掃除の一番必要な機能は吸い込み力。吸引力が弱くて支障が出ないか知りたい。
 
気になった掃除機は10年位前の古いモデルだったので使ったことのある口コミが結構残っていた。フローリングとか毛足の短い絨毯なら問題なくかけられる、こまめにかける人向き、米粒も吸わない、吸引仕事率が低すぎる、など賛否両論だった。そういえばこの口コミを前にも見ていた。それでどうしようか迷って保留にしたんだったっけ。吸引力は大事だし、そうなると、スティック・紙パック・暖色系・吸引力が同等になる。どれが1番じゃなくて私にとってはすべて必要条件ってことか。
 
とはいえ紙パックはもう在庫が無い。もう決めないといけない。タイムリミットはもうすぐそこ……。いや、ほんとなんでこんなことで悩まないといけないのか。ほんの数十分かけるだけなら色なんかなんでもいいじゃないか。でも、今家にあるオレンジ色の掃除機を見るだけで幸せな気持ちになるし。これが白一色になったら味気ない。多分掃除が楽しくなくなる。掃除機掛けは嫌いじゃないけど、テンションは大事だし、かけない時間も見える位置に置いてあるから好きな色にしたい。ああ、私ってほんとめんどくさい。私にとってこんなにも色が心を占めているとは思わなかった。
 
色を外せないとなると、やっぱり吸引力か。今使っている掃除機の吸込仕事率を確認する。3段階の切り替えがあり、3段階の最大で250Wあった。他の段階の吸引仕事率は書かれていないけど、この下の2段階目でも半分はあるとしても100W以上はあるだろうな。1段階目ではあまり吸引しないので2段階目を使うことが多い。買い替えを保留にした掃除機は、最大で20W。うーん、そうすると吸込仕事率はさすがに低すぎるかな。口コミにあった米粒を吸わないという話は、米粒ってちょっと重いし、なんとなくわかる気がする。でも普段の掃除で米粒的な重さの物を吸うことがそんなにあるだろうか。うちは夫婦二人で、小さい子供もいないから食べこぼしがそんなにあるわけではないし、吸うとしたらもっぱら綿埃などの軽いものだ。それなら吸引仕事率はそこまで高くなくてもいいのかもしれない。
 
決めた。吸引仕事率は低いけどほかの5つの条件を満たしているこの掃除機にしよう。夫にポイント交換をお願いした。数日後、新しい掃除機が届いた。受け取った箱が小さい。そして軽い。この中に掃除機が入っているとは思えないほどのコンパクトさと軽さだった。箱を開ける。本体が小さい。紙パック式であることを確認する。本体に比例して紙パックも小さい。これは数か月は持たないだろうな。パイプを本体に繋ぐ。全体を見てもとてもスマートだ。これなら部屋の片隅に立てかけておいても邪魔にならない。そしてどうしても譲れなかった色、暖色系だ。実は箱を開けた瞬間から嬉しさがこみあげていた。ワインレッドに近い、私が特に好きな色だ。この色だから買ったものが、掃除機以外にもいくつもあるほど好きな色だ。本体確認や組み立てをしながら、綺麗な色にうっとりしていた。そしてコードを探す。無い。そうだった。今回はコードレスにしたんだった。早速掃除してみる。なんて軽やかなの! コードが無いから小回りが利く、コードがないから引っかかる心配もない、コードがないってこんなにも自由度が高かったのか。そして本体をガラガラ引っ張らなくていいってこんなにも楽だったのか。
 
前以上に掃除が楽しくなった。軽いことももちろんあるけど、好きな色と一緒に歩き回れることがとても嬉しかった。保留にするもとになった吸引仕事率については、フローリングと毛足の短いカーペットで1週間ほど使ってみたけど、実際の吸引力は問題はなさそうだ。私には掃除機に対する条件がいくつもあったので新調するのは難しいだろうなと思っていたけど、1つ1つの必要性を考えて、時には妥協してみたことで自分にとってより良い掃除機を手に入れることができた。
 
今回変えたことは、キャニスターからスティックにしたこと、コードレスにしたこと。変わったことは、私が吸引仕事率を妥協したこと。そして変えなかった、変わらなかったのは、色と紙パックへのこだわり。どうしても紙パックは変えずに使い続けたかった。変えないで正解だった。掃除機をかける時は、がっつり時間を取ってではなく隙間時間でかけることが多い私にとって、掃除機をかけた後にカップを掃除する時間は取りたくなかった。紙パックならある程度中にためても埃が立つことも無いし、いっぱいになったら外して捨てるだけなので時間もかからない。
 
そして変えて正解だったのはスティックにしたこと。スリムでコンパクトになり場所を取らなくなったのはもちろん、移動がスムーズになったのも大きかった。キャニスターは蛇腹ホースを操作して本体を誘導するのが結構大変な作業だったんだとスティックを使うことで気づけた。
 
世の中が変わって新しい物が出てきても、中々手を出せなくて様子見をすることが私は多い。世の中がその新しいものにシフトしていっても、今あるもので足りるからと取り入れるのに時間がかかる。でも新しいものを受け入れられると、生活に便利になるし、物事にかかる時間が短くなる。今回、新しいものを取り入れるために「何を変えたくないか」「何なら変えてもいいか」を考える時間を設けたことで、自分にとって何が大事かが分かった。1つの物に固執しすぎず、適度に新しいものを受け入れるためには、その都度自分にとっての大事かそうでないかを選択していくことが重要だった。
 
ずっと面倒なだけだと思っていた掃除機選びに、新しい物を取り入れることの楽しさを教えてもらった。こんなにも自分の掃除機に対する考え方がアップデートされるとは思っていなかった。自分にとって必要かそうでないかを考えるのは時間がかかるし大変だけど、こんな結果が得られるならもっと他のことにも活用していきたい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
なつき(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京都在住。2018年2月から天狼院のライティング・ゼミに通い始める。更にプロフェッショナル・ゼミを経てライターズ倶楽部に参加。書いた記事への「元気になった」「興味を持った」という声が嬉しくて書き続けている。

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2022-08-03 | Posted in 週刊READING LIFE vol.180

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