週刊READING LIFE vol.181

僕の説明が伝わりづらいのは素直なのが原因らしい。《週刊READING LIFE Vol.181 オノマトペ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2022/08/15/公開
記事:大塚久(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 
 
僕の説明はあまり伝わらないらしい。道案内などは
 
「改札をピローんって出たら、商店街をガーッと行って、新聞屋さんをサッとと右に曲がって、青い建物の脇の階段をガンガンガンと上がってもらったらそこがお店だから」
 
といった感じで伝えている。僕は本当にこの感じで道を歩いているのでこの説明が一番しっくりするのだが、10人に聞かれたらすぐに理解してくれるのはせいぜい2、3人だ。どうやら余計な擬音が多いらしいのだ。
 
説明をするなら
「改札を出たら商店街を真っ直ぐ100mほど行って、新聞屋さんの角を右に曲がり、青色の建物の脇の階段を3階まで上がるとお店がある」
と言った方が伝わりやすいんだろう。
 
人間には認知特性と言って自身が理解しやすい表現方法のタイプがある。認知特性は大まかに
視覚優位タイプ
言語優位タイプ
聴覚優位タイプ
の3つのタイプに分かれている。
 
視覚タイプは視覚的な情報が得意で、先ほどの道案内であれば「改札」「商店街」「新聞屋さん」「青色の建物」など、目印になるもので説明するとわかりやすい。
 
言語タイプは文字や数字の情報が得意で、「真っ直ぐ100m」「階段を3階まで」と言った明確な数字が入っているとわかりやすい。
 
最後に聴覚タイプ。聴覚タイプは音で表現される情報が得意で、最初の僕の説明「ピローん」「ガー」「サッと」「ガンガンガン」っと言った擬音が入っているとわかりやすい。
 
お察しの通り僕はバリバリ聴覚タイプだ。もちろんどのタイプに分類されても他のタイプの説明が理解できないわけではない、あくまで得意なだけだ。ただ、得意でないタイプの説明をされると理解するのに時間を要する。僕は元々読書が苦手で、同じところを何度も読んでしまったり、それまでのストーリーを理解しきれず前に戻ったりしながら読むのでえらい時間がかかってしまう。読書は完全に言語優位タイプの情報なので、苦手なのだ。しかし本の中でも「ドーン」とか「キラキラ」「ザワザワ」とか効果音が書かれている漫画は読みやすい。
 
ちなみに僕の奥さんは視覚優位タイプで、目印や見たものを覚えていることが多い。2人で旅行に行くと奥さんは言った先の建物とか、景色とかをよく覚えているが、僕は流れている川の音や、お店の人との会話などをよく覚えている。
同じところに行っても感じ取る情報が違うので、これはこれで結構面白い。
きっと言語優位タイプの人は立て看板に書かれている歴史とか言われなどを覚えているんだろう。
 
この認知特性って人の成長によく似ているんじゃないかと思う。人は生まれた時、目はほとんど見えていないし、音は聞こえていてもそれが何かは理解できない、もちろん言語なんて概念すらない。ただ、成長と共に目が少しずつ見えるようになり、音のする方へ顔を向けるようになり、その発している音を繰り返し聞くことでそれが何かを伝えているのだと理解するようになってくる。
 
もし認知特性に順序をつけるとしたら
聴覚優位タイプ
視覚優位タイプ
言語優位タイプ
の順で、聴覚優位タイプの方が聞くだけでわかる簡単な情報、言語タイプの方が聞いたり見たりした上で言語として判断するより難しい情報になる。
 
お母さんのお腹の中にいるときから外の音は聞こえているし、お母さんのドクンドクンという心臓の音や、ヒューヒューという呼吸の音、ゴーという血液が流れる音、もちろんお母さんの声など生まれる前から音に触れている。
 
そして暗かったお母さんのお腹の中から生まれた瞬間に強烈な光がさし眩しいという視覚情報を認識する。最初は眩しいだけだが、瞳孔を調節できるようになってくると段々と暗い、明るいのコントラストや、色なども判断できるようになってくる。
 
それからたくさんの言葉を聞き、周りの人の行動をみて、「この音の時はこういう行動をするのか、この音の意味はこういうことか」と言語の概念を理解する。
言語の情報を理解するというのは実はすごい難しいことをしているのだ。
 
ではなぜ、聞くだけでわかる聴覚情報を用いている僕の説明は伝わりづらいのだろうか?
それは聴覚情報が人によって違うからだ。
 
例えば最初の道案内だと僕は歩くことを「ガーッと」と表現したが、人によっては「ずーっと」や「てくてく」となるかもしれないし、階段を登るのも「ガンガンガン」ではなく、「タンタンタン」かもしれないし、「トントントン」になるかもしれない。
 
人によって伝え方と受け取り方が変わってしまっては説明として成立しない。
 
これが後に例に出した、
 
「商店街を真っ直ぐ100m」
「階段を3階まで上がる」
 
であれば言葉の意味が理解できれば、誰が見ても、聞いても同じ内容で伝わる。
言語はそもそも意志を伝えるためにあるので、説明に利用すると伝わりやすいのはその通りだと思う。
 
しかし、この言語情報だけだとどこか素っ気ない感じがしないだろうか?
 
僕は理学療法士という仕事柄、論文というものを読むことがある、論文は日々の臨床や研究で得られた医学的な情報を誰にでも伝わるように整理してまとめたもので、「ガー」とか「スー」とかといった聴覚優位の情報は無く、誰にでも伝わるようにきちんと言語化された情報のみで書かれている。
 
内容は参考になることも多いし、新たな発見もあったりするので非常に有用なのだが、如何せん言語情報だけだとつまらなく、途中で読むのが嫌になる。言語優位タイプの情報は高度だが感情が入らないので画一的でつまらないのである。
 
一方、聴覚優位タイプの情報や視覚優位タイプの情報はそこからその時の状況や、感情などが想像できる。特に聴覚対応の情報にその傾向が見られ、例えば同じ歩くでも
 
「スタスタ歩く」
 
だと急いでいる感じが伝わり、
 
「てくてく歩く」
 
だと近所を散歩しているのかな?
といった状況を想像できる。聴覚対応の情報は擬音が多くなるため、一見幼稚に聴こえるのだが、その時の音をそのまま表現するので、実は感情などを素直に表現するのに優れている。
 
成長して大人になると、さまざまな人とコミュニケーションをとる機会が増えてくる。たくさんの人に伝わるようにするためにはどうしても言語優位タイプの情報が必要になる。言語優位タイプの情報は説明には向いているが、どうしてもそこに人間としての感情が入らなくなってしまう。
 
そしてその時に選択される言語はいわゆる常識的に使われる言葉だ。大人になると身についてきた常識が増え、相手に伝わるようにと自分の感情は後回しで相手を優先して常識的で当たり障りのない表現が増えてしまう。
 
もちろんそれが悪いわけではないのだが、自分の感情を押し込めて、相手に合わせて常識的な選択ばかりをした結果、自分自身がわからなくなり、精神的に疲れ、体調を崩してしまう。
 
そうなる前に一度、聴覚優位タイプの情報を思い出してほしい。今は言語優位タイプだとしても子供の頃、言語の理解ができていないときは必ず聴覚優位タイプだったはずだ。だから聴覚優位の情報も受けて取れるはずである。
 
例えば電車に乗ったら「カタンコトン」と線路を走る音や、ドアが「ガーっ」と開く音、自然の中に行けば風で木々が「ザワザワ」と揺れる音、もちろん風が「ピュー」と吹く音、地面を「ざっざっ」っと歩く音なんかも聞こえてくる。
 
意識して聞いてみるとたくさんの音が自分の耳に届いてくるはずだ。これらの音は普段も聴こえているはずだけど、常識で考えると日常では聴こえてても聴こえてなくてもどちらでもいい音なので、聴こえないように脳が判断している。
 
そこをあえて脳に「必要ないけど聞いてみよう」と言い聞かせて音を楽しんでみる。そしてこの音は誰のためでもなく、自分自身のために感じて聞く音だ。この聴覚タイプの情報は誰に伝えるわけでもなく、自分が自分のために聞こえる情報なので、自分を思い出させてくれる。
 
人として社会生活を営んでいくには言語優位タイプの情報が必要不可欠だ。それがあることでたくさんの人とコミュニケーションをとり、さまざまなことができるようなった。しかしそのおかげで、脳が必要ないと判断した情報は無意識に取り除いて伝えるようになったし、受け取る情報としても排除するようになった。
 
情報は取り入れてから脳が必要・不必要を判断するのではなく、すでに判断してから情報を取り入れているのだ。まだ子供のうちは脳が必要・不必要の判断ができず、目に付いたり、耳に聞こえたりした情報を全て取り入れている。たまに小さい子供と話していると「なんでそんなところに気づいたの?」と思うことがないだろうか?
 
これは大人は些細な情報はすぐに必要ないと判断して取り入れないのに対して、子供は必要か不必要かが判断できないから気づくだけだ。そしてそのことを大人は「子供の頭は柔らかいね」と表現する。子供の頭は柔らかいのではなく、そこにあるものをそのまま受け入れているだけだ。そして大人では思いつかないような発想を「大人は不必要」と思っている情報から見つけ出していく。
 
社会生活を営んでいくには無駄を排除し、なるべくシンプルに相手に伝えるための言語優位の情報は必要だ。でも言語優位の情報だけだと脳は取捨選択をしすぎて疲れてしまう。そして、必要・不必要の判断自体が間違っているかもしれない。こうやってあれやこれやと頭で考えることに疲れたら、一度子供のようにあるものをそのまま受け入れてみてはどうだろうか?
 
電車に乗ってカタンコトンと揺られながら、普段は行かないような電車の終着駅のホームにトンと降り、ピローんと改札を出て、ザザーンと波の音が聞こえる海岸に座ってみよう。そしてそこでいろんな音をそのまま受け入れてみよう。
 
その音は誰にも伝わらなくていい、その音の情報は他の誰でもない、あなた自身が素直になるための音だから。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
大塚久(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)


神奈川県藤沢市出身、理学療法士。健康のために近所を散歩していてたまたま立ち寄った湘南天狼院でライティングゼミに出会い、現在はその上位コースであるライターズ倶楽部に参加。散歩を初めて1ヶ月で天狼院に出会い、2ヶ月でライティングゼミに通い、4ヶ月で天狼院で講座を行うまでに人生が変化。しかもその間に体重も8kg減り、その人生と身体を変化させた経験をもとに現在ではクリエイティブ・ウォーキングとして講座を開催。100歳まで歩けるカラダ習慣をコンセプトに自身が体験して得た身体の知識を提供している。

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2022-08-10 | Posted in 週刊READING LIFE vol.181

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