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週刊READING LIFE vol.182

家族のかたち《週刊READING LIFE Vol.182 令和の「家族」像》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2022/08/22/公開
記事:山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
最近、「家族」について考える機会が増えた。
子どもの頃はただ「家族」に所属しているだけでよかったが、いつかはその立場から離れて自分で新しい「家族」を持つようになる。
私は新しい「家族」は作れていないのだが、親が高齢になり、ずっと所属している「家族」と向き合うときがすぐそこまで来ている。
 
親がいて子どもがいる。
そんなスタンダードな「家族」の形は今も昔もかわっていない。
ただ、その他の選択肢が昔と比べると格段に増えた。
 
「家族」というものが、必ずしも血の繋がりに縛られなくなってきた。
「家族」とはこうあるべきだという一つの考えを押し付けず、多種多様な「家族のかたち」があってもいいのではないかという考えが、ここ数年で一気に広まったように感じる。
ただ、急激な変化に戸惑っている人たちが存在することも確かで、すべての年代の人に、今の時代の考え方が受け入れられるまでにはまだ時間がかかりそうだ。
 
フランスでは、結婚はしないけれど結婚と同等の権利を得ることができるPACS(パックス)という制度がある。このPACSを利用するカップルは年々増加し、フランス社会に定着している。
よく、PACSの説明に「同棲以上結婚未満」という言葉が使われる。
異性であっても同性であってもこの制度を利用できる。
子どもの生まれに差別はなく、未婚の親から生まれていようが子どもは子どもであり、出産や子どもに関する手当も法律婚と同等に受け取ることができる。
 
「男らしく」や「女らしく」という言葉にとらわれていた日本の社会も、少しずつ変化してきている。
そういう価値観は古臭く、少しでも生きやすいように、「自分らしい生き方をすればいいじゃないか」という考えが主流になっていて、確実に変化していることを感じる。
母子家庭や父子家庭、離婚した家庭、再婚した家庭、同姓カップルの家庭、事実婚の家庭、夫婦別姓の家庭など、「家族」には様々なかたちがある。
フランスとまったく同じような制度を日本に取り入れるのは難しいかもしれないけれど、PACSのような制度がいずれ日本にもできるかもしれない。
 
最近、「家族とは何なのか」「血の繋がりとは何なのか」ということを考えさせられる映画に出会った。
『1640日の家族』というフランス映画だ。
 
フランスでは、日本には馴染みの薄い里親制度がある。
もちろん日本でも里親制度はあるのだが、養子縁組と混同して、金銭的に余裕がなければ難しいと考えてしまいがちだ。
子どものための福祉が充実しているフランスと日本では大分現状は異なる。
施設であっても里親であっても、日本でも生活費は国から援助されるので、金銭的な負担はそれほどないのだが、やはりフランスほど里親というものが定着していないのが現実だ。
 
里親が職業として成立しているフランスでは、子ども一人受け入れる場合は月額18万5000円が支給される。
日本の場合はいくら援助があるといっても、フランスよりも低く、子ども一人を育てるのはお金がかかるし、並大抵の覚悟がないとなかなか育てることが難しいと思ってしまう。
この映画を観るまでは、フランスで職業としての里親が存在していることを知らなかった。
 
フランスの里親制度は、平日は里親と過ごし、週末は実家で過ごすこともできる。
この映画の物語は、ファビアン・ゴルジュアール監督自身の両親が、生後18カ月の子どもを里子として迎えて、6歳まで一緒に暮らしたという実話が基になっている。
フランスの里親制度のリアルを描いている映画だ。
映画の中では、アンナと夫のドリスがシモンという男の子を、自分の子どもたちと一緒に育てているのだが、幸せな4年半を過ぎた頃にシモンの実の父親から息子と一緒に暮らしたいと言われる。
 
このシモンがめっちゃ可愛い!
目がくりくりで、まるで天使だ。
 
キャッキャとはしゃぐ姿やはにかむ笑顔がとても子どもらしく愛らしい。
アンナも惜しみなく愛情を注ぐ。
 
「大切なのは、愛し過ぎないこと」
 
この映画のキャッチフレーズだ。
そうは言っても、生後18カ月から4年半も一緒に暮らしたら、もう家族だ。
 
そりゃ愛しちゃうよ……。
 
アンナも職業として割り切って育てているようにはみえず、実の子どもたちと同じように兄弟のように育てている。
 
ただ、シモンを里親に預けた実の父親に、シモンへの愛情がなかったわけではない。
子どもが生まれてすぐに妻を亡くしたショックから、シモンを里親に預けざるを得ない状況だった。
定期的にシモンと会ってはいるが、やはり自分の息子を手元で育てたいという気持ちになるのもわかる。
そのために努力をしてきた人でもある。
悪い人が一人もいないというのも切ない。
誰もがシモンのことを思っている。
若干、ソーシャルワーカーが割り切りすぎているぐらいだ。
それぐらい客観的でないと、やっていけないのかもしれないが……。
 
そりゃ、一緒に遊んでくれる兄弟がいて、ママも優しく、パパも面白かったら、実の父親よりも里親の元にいたほうが楽しいとシモンが思うのも仕方ない。
里親のもとで育つほうがシモンにとっては幸せな環境ではないか……なんて思ってしまう。
血の繋がりがなくても4年半という時間を一緒に過ごしたのだから、シモンはもう家族の一員なのだ。
実の父へ気を遣うしぐさもみせるシモンのいじらしさったら……。
ただ、実の父親と里親の間を揺れ動くシモンはいじらしいが、そんな思いを大人たちが子どもにさせてはいけないと思った。
 
物語が進むにつれて「大切なのは、愛し過ぎないこと」という、この言葉が重く感じるようになる。
血が繋がっているからといって幸せな家族であるかというと、そうとは言い切れない。
血が繋がっていても血が繋がっていなくても、「家族」であり続ける努力をしなければ、あっさりと「家族」というものはバラバラになってしまうものだ。
 
監督のインタビューに
「家族というのはただ一つの形に集約されるものではなく、常に形を変えながら存在していくものだと思う。言い換えれば、家族とは家族であろうと努力をし続けることなのだ」
という言葉がある。
やはり本当の「家族」とは、「家族」であり続ける努力をすることであり、血の繋がりは関係ないのだと私は思う。
 
現在の日本の「家族」のかたちも少しずつ変化していっている。
多種多様のカップルが増えただけでなく、ひとりで生涯を終える人も昔よりも増えた。
10年後、さらに20年後は生涯未婚率も今より増えて、近所や地域との付き合いももっと希薄になるのだろう。
たとえ血の繋がりがなくても、支え合う人が近くにいればひとりではないのだが、そう遠くない未来、孤独化は今よりも進み、新たな問題が生まれているのかもしれない。
 
「家族」というものは、基本は支え合っていくものだと思うが、いつの時代もそれが難しい場合もあるだろう。
目に見えて破綻している場合もあれば、たとえ金銭的に恵まれていたとしても、内側から歪んでしまう場合もある。
「家族」が抱えている問題というものは、今も昔も、それほど変わっていないのではないかと思う。
「家族」が「家族」であり続ける努力をしなければ、たとえ血が繋がっていてもその結びつきは薄いものになる。
 
この映画の原題はフランス語で『La vraie famille』という。
「本当の家族」という意味だ。
「家族」というかたちは人によってそれぞれだ。
いくつものかたちがある。
 
あえて「La」という定冠詞をつけているらしい。
定冠詞をつけることで一つしかないことを際立たせている。
「家族」は一つの形に集約しないと話している監督が、意図的に「La」をつけているのが印象的だ。
 
「家族」とは、大切な存在であり、ままならないものかもしれない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年12月ライティング・ゼミに参加。2022年4月にREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。
1000冊の漫画を持つ漫画好きな会社員。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2022-08-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.182

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